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第百二十八話 イケメン、形無し

デオルドは顔をゆがませたまま、パクパクと口を動かしている。何かを言いたのだろうが、言葉が出てこないようだ。


「別にずっとここに居るわけじゃないわ。私はこの村で色々なことを学ぶのよ。そして、もし私が公爵様と結婚するべきだと判断すれば帰国するから、あなたは心配しなくていいわ」


「ひっ、姫様!」


ようやくデオルドの声が出た。彼はワナワナと震えながら俺とヴァシュロンを交互に見比べている。そんな彼にヴァシュロンは、早く帰りなさいよと追い払う手つきをしている。


「こうなれば……腕ずくでも!」


そう言って彼は腰の剣に手を添える。


「待て! 一体何をする気だ? まさか、主君に刃を向けるつもりじゃないだろうな? それは謀反じゃないのか?」


俺の声で彼は我に返ったようで、顔をゆがませながら、ゆっくりと剣から手を離した。


「姫様、よくお考え下さい。ここには姫様が学ぶものなど、ありはしません。ここに居るのは農民くずれと冒険者どもくらいなものです。そのような所で、何を学べましょう? ……わかりました。旦那様には私から結婚につきましてはご再考いただくよう申し上げてみます。ですから姫様、どうかこの私と帝国にお戻りください」


「いいえ。この村には、私が知らないことが沢山あるの。私はそれを知りたいの。わかる?」


「ただ畑を耕すだけの、毎日土遊びをしている者どもから何を学ぶと言われるのです。姫様、土遊びがしたければ、どうぞお屋敷でなさってください。この私がご準備して差し上げます!」


その声を聞きながら、少女は小さく首を左右に振った。これ以上の話し合いは無駄と判断した俺は、デオルドに向けてゆっくりと口を開く。


「これまでだ」


俺のその言葉が癪に障ったのか、彼は目を吊り上げて声を荒げる。


「部外者は黙っていてもらおうか! これは、リヤン・インダーク家の問題なのだ!」


「だから、その問題をご家庭内で解決して欲しいと、先程から散々お願いしていたのです。そのときあなたは何と言いました? 二度とこの女性ひとが俺に会うことはないと言い切りましたよね? 今のこの状況は何です? どう説明されるおつもりで?」


「私にそんな口をきいてただで済むと思っているのか?」


「どういう意味です?」


「我がその気になれば、リヤン・インダーク家が動くのだ。それは、帝国軍が動くと同じ意味なのだ。そうなれば、この村など一瞬で……」


「ということは、あなたがその気になれば帝国軍を止められるということですよね? 是非、そうしてください。それに、農民の価値がわからないっていうのもどうかと思いますよ? 農民は国の礎ですから。農民を牛馬と同じ……などと言っているのは、インダークの中であなただけだと信じたいですが、ともあれ、あなたには約束を守ってもらわねばならないですね?」


「約束? 何の話ですか?」


「お忘れですか? 二度あることが三度あった場合には、俺の言うことを何でも聞くと言っておいででしたよね?」


彼は小さくチッと舌打ちをする。相変わらず態度が悪い。


「ということで、あなたには今から俺の言うことを聞いてもらいます」


彼は俺の顔を睨みつけていたが、その手がゆっくりと剣にかかる。


「ケンタッ〇―フライドチキンで、ビッグ〇ックを買ってきてください」


「は?」


全く予期していなかったことだったためか、彼はかなり間抜けな表情を浮かべながら、俺をぼんやりと見据えている。その彼に俺は再び、先程の言葉を繰り返す。


「ですから、ケンタッ〇―フライドチキンで、ビッグ〇ックを買ってきて欲しいのですよ。え? まさか、知らないのですか? 俺の国では誰もが知っていますけれど……。知らないですか?」


「……いいえ」


「ならば話は早い。是非、それを買ってきてください。久しく食べていないので、食べたくなりました。お願いします」


「では、姫様、ご一緒に……」


「彼女が帰る、帰らないの話は、あなたがケンタッ〇―フライドチキンで、ビッグ〇ックを買って来てからにしましょう」


「何だと?」


「いや、今すぐ買って来れば、すぐに俺も彼女が帰るように説得しますよ? あ、ちなみに、この村にはそれはありませんから」


俺の言葉に、ヴァシュロンがさらに言葉を続ける。


「そうよ、デオルド。私が帰る、帰らないはその何とか……を、手に入れてからだわ。帝都に行けばいいんじゃないかしら? あそこだったら、何でも揃うわ。さ、帰って、帰って」


彼女の言葉に、デオルドはこめかみに青筋を立てて震えている。


「こ……こんな、こんな小さな村の領主ごときが、偉そうなことを……。我が帝国に万に一つでも勝つことの出来ぬ、こんな男に、姫様さえいなければ……」


「デオルド、私は、あなたのそういうところが嫌いなのよ」


「なっ!?」


「あなたは弱いものを見下してばかりだわ。果たして、あなたが弱いと思っている人々は、国は、本当に弱いのかしら? もしかしたら、この領主様は、帝国に勝つかもしれないわ」


その言葉に、デオルドは大きな声で笑う。


「ハッハッハ! 何を言いなさるかと思えば、そのような夢みたいなことを! よろしい姫様、この領主が帝国に勝つことが出来たら、そのときは姫様はご自由にしていただいて結構です。その男と結婚するもよし、お眼鏡にかなう男と添い遂げるのもよいでしょう」


「デオルド殿!」


それまで黙って控えていた老婆がオロオロしながら、デオルドを窘めている。だが彼は、そんな彼女に対しても、強気の言葉を吐いた。


「大丈夫です。この村の領主が我が帝国に勝つことなど、万に一つもありますまい! 問題ございません、問題ございません!」


「まずは、早く俺の注文したものを持って来てくださいね? 男に二言はないのでしょ? それとも何ですか? インダーク帝国の方は、平気でうそをつくと?」


「いいえ、デオルドはこう見えても優秀な人だわ。必ず、必ず注文の品を持って来るわ。ね? デオルド?」


「バカバカしい!」


デオルドはそう吐き捨てるように言ったかと思うと、踵を返して玄関から出ていった。


ふとヴァシュロンを見ると、彼女は俺にパチリとウインクを返してきた……。

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地球にもうってねーよw
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