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第十二話  魔法

「ええと……あとは魔法ですね。魔法のことを話しておきませんと」


俺がショックを受けている様子が見ていられなかったのだろう。クレイリーファラーズは、しれっと話題を変えた。俺も、気分を変えようと、彼女の話を聞く態勢を取る。


「魔法の使い方は簡単です。魔力を外に出せばよいのです」


「ええと……どうするんでしょうか? こんな……」


「待って!」


魔法を出してみようと人差し指を出して、意識を集中しようとした瞬間に、クレイリーファラーズの絶叫にも似た声が響き渡る。俺はあっけに取られて、ポカンと彼女の顔を眺める。


「あなたね、この部屋の中で魔法を使うなんて、自殺行為ですよ!」


「どういうことです?」


「屋敷が丸焼けになるでしょう!」


「ええっ!? そんな威力があるんですか?」


「今、あなた、火魔法を使おうとしたでしょう!」


「火魔法? いや、そんなつもりは……」


「知らないで使おうとしたのですか? ……無知というのは恐ろしいわね」


彼女はヤレヤレという表情を浮かべて、吐き捨てるように呟いている。何も知らない、おバカな男であることは認めるが、この振る舞いは地味に傷つく。


「あのですね。人差し指を水平に構えると火魔法の発動、掌を水平に構えると水魔法、それを空に向かって構えると雷魔法、左右に動かすと風魔法の発動になるのです! これ、基本ですからちゃんと覚えておいてくださいね?」


「は……ハイ……」


「ええと……あなたのステータスは……」


彼女はジト目をさらにジトっとさせながら、ずいっと俺の至近距離に顔を寄せてくる。近いよ……鼻息が顔に当たっているじゃないか……。


何だかちょっと怖くなってきてしまい、少しずつ顔を背けようとする。それを察してか、彼女の右目の眉毛がピクンと跳ね上がる。


「はっ? 土魔法!? しかも、LV5ぉ?」


「うっ……唾が……」


いきなり叫ばれたので、俺の顔がクレイリーファラーズの唾でベトベトになってしまった。彼女はさすがに悪いことをしたなという表情を浮かべながら、俺と少し距離を取った。


「オホン、そういえばジジイがそんなこと言っていましたね。それにしても土魔法って……地味だわ。それに、他のステータスも中途半端」


そんなことを言いながら彼女は懐から一枚の紙とペンを取り出し、カリカリと何かを書き始めた。そしてしばらくすると、再び顔を俺に近づけてガン見して、また、元の場所に戻った。


「はい、あなたのステータスです。……ホント、中途半端ですね」


……中途半端中途半端と何回も言うなよ。マジで落ち込むじゃないか。俺は何とも言えない表情を浮かべながら、彼女が手渡した紙に視線を落とす。そこには、こんなことが書いてあった。



【ノスヤ・ヒイム・ユーティン 19歳 貴族】

HP:50000

MP:50000

土魔法LV5、高速詠唱LV5、神加護(中)



……汚ったねぇ字だな。字が汚い女子は、男子から見てポイントが下がるんだよな。そんなことを思いながら、紙とクレイリーファラーズを交互に見比べていく。


「もしかすると、他のスキルもあるのかもしれませんが、私が見えたのはそれだけです」


「あの……なぜ、あんなに顔が近かったんですか?」


「神眼が効かないのですよ。あのくそジジイ、私を下界に下ろすときに、天巫女の能力を大幅に制限したのですよ。忌々しいわ。そんなことをするから、天巫女たちから嫌われるのです!」


プリプリと怒ってしまった。それにしても、さっきから神様へのディスり方が半端ではない。これはあまり関わらない方がよさそうだ。俺は話題を変えようと、彼女に話しかける。


「あの、教えて欲しいんですけど、この、土魔法LV5というのは、どのくらいの威力があるんですか?」


「威力……。まあ、岩石を生み出せるので、それを投げればそこそこの威力はあると思いますが……。効果と言われると……何とも言えないですね」


「岩……ですか……」


「取りあえず、最高レベルまで達していますから、土に関することは何でもできますよ。例えば、土や石を生み出すことができますし、それを硬化させたり軟化させたりすることもできます。土に掌を置いて見れば、おそらく色々なイメージが頭に湧いてくると思います。自分で色々と使ってみるといいかもしれませんね」


「あと、この高速詠唱というのは?」


「魔法を発動させるときには、呪文を詠唱しなくてはなりません。レベルの高い魔法になればなるほど、膨大な呪文を詠唱しなくてはなりません。高速詠唱を持っていれば、それを短縮できるのです。ですが、土魔法は……。詠唱よりもイメージで発動しますので、持っていても……。ジジイはなぜこんなスキルを付けたんでしょう? これを付けるなら、火魔法とか水魔法を付ければよかったのに……。まあ、耄碌しているから仕方ないのでしょうね」


「ええと……。その神様の加護が付いているみたいなのですが……」


「ああ、これは便利ですね。一日寝ると、HPとMPの8割を回復してくれます。傷の回復速度も早まりますし、毒や麻痺も効きにくくなります」


「おおーそれは便利ですね。あの、最後に、このHPとMPですが……これって、異常じゃないですか?」


「はい、異常も異常。化け物です。人が見たら卒倒します。これも、何だかなという感じですね。ドラゴンスレイヤーみたいに、常に戦いに身を置くのであればまだしも、ただの土魔法しか使えない人間に、これだけのHPもMPもいらないと思いますよ? だって、剣術や攻撃魔法のスキルがないんじゃ、戦いようがありませんもの。そういう意味でも、本当に中途半端ですよね」


まあ、確かに……。言っていることは正しいとは思うが、もう少し、何か言い方はないのか?何でこの人の言葉は俺の心を抉るのだろう。「毒舌」っていうスキルでもあるのか?


そんなことを考えながら俺は大きなため息をつき、またしても天を仰ぐのだった。

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