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第百十三話 手籠めにされました

俺の腕から放り投げられたような形で、少女は地面の上に投げ出される。彼女は両手で尻を押さえたまま、四つん這いの状態でわなわなと震えている。


その間に俺は、少女を襲ってきた冒険者に応対する。彼は落ち着きを取り戻したようで、ペコペコと頭を下げながら、仲間たちに引き立てられるようにしその場を後にした。それを見届けて、周囲を取り囲んでいるヤジ馬たちにも解散するように促す。


ゾロゾロと人々が離れていっているそのとき、少女が尻を押さえたまま、ゆっくりと立ち上がった。俺は無意識に身構える。


だが少女は、気の強そうな眼差しを俺に向けたまま、その動きを止めた。一体何を言い出すのだろうと固唾を飲んで見守る……。



「……で、何でその女がこの屋敷まで付いて来るのですか?」


まるで汚いものを見るかのような眼差しを俺たちに向けているのは、クレイリーファラーズだ。その表情からは、何だよお前、勝手に人の家に上がる込んでくるんじゃねぇよ、という感情がありありと見てとれる。だが少女は、そんな天巫女の存在にも負けず、相変わらず顔を真っ赤にしたまま、無言で勝手口の扉の前で立ち尽くしている。


両手をギュッと握り締め、唇とをキュッと噛みながら、憤怒の表情を浮かべて俺を睨みつけている。


もう何度追い払ったことだろう。だが、追い払っても追い払っても、少女は俺の後を付いて来た。さすがに屋敷にまで踏み込まれては叶わないと思った俺は、一旦避難所に行き、そこで人々と挨拶を躱しながら人ごみの中を歩いて行った。案の定、少女は俺の後をついてこられなくなって、人ごみの中にその姿を消した。それを確認した俺は、森の中のけもの道を使って屋敷まで戻ってきたのだ。何度も後ろを振り返ったが、少女が付いて来る気配はなく、俺は安心して屋敷に戻ったのだった。


しかし、その考えは甘かった。レークとクレイリーファラーズに先程のことを話していると、勝手口の扉が開く音がした。てっきりティーエンか誰かだと思っていたのだが、そこから現れたのは、先程の少女だった。俺はあんぐりと口を開いて固まる。


彼女はレークがどのように話しかけても全く反応を示さず、ただひたすらに俺を睨み続けた。一体どういうことかと尋ねるクレイリーファラーズに俺は、先程のことを詳しく説明したのだった。


「ふぅ~ん。で? あなたは何をしに来たのですか?」


一体、どの口が言うんじゃ、と突っ込みを入れたいくらいに悪い態度でクレイリーファラーズが口を開いている。椅子にふんぞり返るような格好で、手には大学芋が盛られた皿を持ち、さらにはそれをムシャムシャ食べながら喋っている。足を組んでいるつもりなのだろうが、太ももが太すぎるために、右ふくらはぎが左足の太ももに乗っているという、何とも不格好な様子になっている。


そんなクレイリーファラーズの挑発にも、少女は眉一つ動かさずに、俺を睨みつけている。さすがの俺も呆れるのを通り越してバカバカしくなってしまい、ちょっと怒気をはらんだ声で彼女に話しかけた。


「いい加減にしろよ、お前? これ以上この屋敷に居座るのなら、俺も本気になるぞ? 力づくでこの屋敷……いや、この村から追い出すぞ? その気になれば、人を呼ぶことだってできるのだ。痛い目を見ない間に、とっとと家に帰れ」


「それでも男なのっ!」


やっと口を開いたかと思えば、意味不明な言葉を宣っている。俺は怪訝な表情を浮かべながら、少女を睨みつけた。


「私を手籠めにしておいて、逃げるなんて、許さないんだから! 責任取りなさいよ!」


「はあ!? 手籠めだぁ?」


彼女の言葉に、クレイリーファラーズが仰天した表情を浮かべている。傍に居るレークも、戸惑いの表情を隠せないでいる。


「そうじゃない! 私のお尻に触ったじゃない!」


「それは手籠めとは言わんだろう……」


「手籠めよ! 誰が何と言おうと、あなたは私を手籠めにしたの! 手籠めにしたのよ!」


そのとき、アッハッハッハッハと、まるで彼女をあざ笑うかのような笑い声が聞こえた。よく見ると、クレイリーファラーズが手を口に当てながら、カラカラと笑っている姿が目に入った。


「たかがお尻を叩かれたくらいで、手籠めにされたなんて……かわいいわね」


「アナタ、何よっ!」


「手籠めにされるというのは、そんな生易しい物じゃないですよ? 私なんか、縛られた挙句に、太った中年のオヤジに乳を揉まれ、体中を触れて、下着まで……挙句の果てに……」


「ど……どういうことよ!」


「まあ、あなたにもわかるように説明するとですね、手籠めにされるというのは……」


彼女はスッと姿勢を正し、手に合った皿をテーブルの上に置いた。そして、コホンと咳ばらいをすると、ちょっと大き目な声で、手ぶりを交えながら語り始めた。


「ズン、ドスン、バタン! ビリビリビリ~、キャー、うへへへへ~。プチッ、プチチチチッ、いやぁ~。ズッ、ズルッ、誰かぁ~。ピタンピタンピタン、グタ~。ズッ、ズズッ、ヌチャヌチャ、グチョグチョ、グン、ググン! ほぉ~っ、ほぉ~っ。シクシクシク……って感じなのですよ」


腕を組みながら、ドヤ顔を浮かべるクレイリーファラーズ。その言葉に、少女はキョトンした表情を浮かべながらその場に立ち尽くしている。


俺は無言で、クレイリーファラーズの頭を、ちょっと強めの力で叩いた。

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[気になる点] 公衆の場で見知らぬ少女の尻を叩く主人公も、ぶつかった相手や止めに入った主人公にいきなり魔法攻撃を仕掛けようとする魔法使いの少女も、家にやって来た魔法使いの少女に何故かいきなり敵意むき出…
[気になる点] >足を組んでいるつもりなのだろうが、太ももが太すぎるために、 >右ふくらはぎが左足の太ももに乗っているという、何とも不格好な様子になっている。 以前の痩せたというくだりで、いやいや女…
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