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第百十一話 五色の少女

――久しぶりに笑わせてもらった。感謝する。この高揚感を伝えられないのが実に残念だ――


兄のシーズから返って来た書簡には、このようなことが書かれていた。ノーイッズ女史とのやり取りが、彼のツボにはまったらしい。


あれから二日後、屋敷に突然、武装した兵士二人が屋敷に現れた。一体何事かと思って緊張したが、彼らは王都にいるシーズからの使いだと言う。主人に命じられてラッツ村に来たと言い、その主人たるシーズから村の様子を見てこいと命じられたのだそうだ。そこで俺は、先日あったことをこの二人に語って聞かせた。


彼らは神妙な面持ちで聞いていたが、やがて、わかりましたと言って席を立ち、そのまま屋敷を後にした。二人のうちの一人が、クレイリーファラーズのストライクゾーンに入っていたようで、彼女はレークを押しのけてお茶を持って来たり、お菓子を持って来たりするなど、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。何となくはわかっていたが、彼女のストライクゾーンは、爽やかイケメンのみという、極めて狭いものだ。そのために、なかなかその眼鏡に適う男は出てこないが、いざストライクゾーンに入ると見るや、彼女は全力でそれを捕らえようとする。往年の松〇秀喜や松〇信彦のバッティングを彷彿とさせる。だが、この天巫女には彼らのような、狙っていないボールをカットしたり、それを流し打ったりするような器用さや技術はない。よって、見極めは上手くできるが、それだけでとどまってしまっているという状況だ。プロ野球の世界で言えば、まずドラフトにすらかからないレベルだ。


そんなこんながあって、さらにその一週間後、再びこの二人の兵士が俺の許にシーズからの書簡を届けてきた。報告を聞いたシーズは、腹を抱えて椅子から転がり落ちるばかりに笑い転げたのだという。何がそんなにツボにはまったのかは俺には全く理解ができないが、ともあれ彼は、俺の対応に大層満足したそうだ。


彼の書簡の最後には、このままインダーク帝国が引き下がるとは思えない。最低でも数回はお前に接触してくるだろうと書かれてあった。そして、最後には、またの報告を楽しみにしているという文言で終えられていたのだった。


俺は手紙を畳みながら、それを持ってきた兵士たちに、今度はいつ、このラッツ村に来るのかを聞いてみた。だが、彼らはシーズ様の命令が下ればここに来るとの一点張りで、それ以上のことは口にしなかった。試しに、この国の情勢も聞いてみたが、彼らは知らないと繰り返すのみで、その口は堅かった。


彼らが帰った後、俺は大きなため息をつきながら、傍に居たハウオウルに話しかける。


「最低でも数回接触してくるって……。面倒くさいことこの上ないですね」


「フフフフ。ご領主ならば大丈夫じゃ。根拠はないが、きっと大丈夫じゃよ」


その言葉を聞いて俺は、思わず天を仰いだ。



それから五日後、寒さが厳しいラッツ村にあって、久しぶりに雲一つない快晴の天気の中、一人の女性がこの村を訪れた。彼女は人の目を引くような目立った格好をしていた。青、白、黒、赤、黄の五色を使ってデザインされたローブを着込み、フードを目深く被っていた。その顔は伺い知ることはできなかったが、背の低さと声で女性、しかもかなり若い女性であることは誰が見ても明らかだった。彼女は村をキョロキョロと見廻していたが、やがて、中央の広場までやってきた。周囲には露店が沢山出ており、中には甘く美味しそうな香りがする店もいくつかあり、彼女はその中の一つの店に足を向けようとしたそのとき、不意に冒険者のパーティーにぶつかってしまった。


「無礼者!」


「何だと!? ぶつかってきたのは、そっちだろう! 謝りもせずに無礼者とは何だ!」


鎧で身を固めた若い男が声を上げる。女性は無言のまましばらくその場に立ち尽くしていたが、やがてブツブツと呪文を詠唱しながら、左手に魔力を集中し始めた。


「おい! そこで何をやっているんだ!」


皆、声のする方向に視線を向ける。そこには、一人の青年が立っていた。


「邪魔を、するなっ!」


女性の左手から火の玉が、その青年に向けて放たれた。だが男は一瞬のうちに腕に黒い盾を纏い、その火の玉を受け止めた。


「なっ!?」


驚く女性……。だが、気が付いたときには、男が何かを投げようとしているところだった。


「危ねぇじゃねぇ、かっ!」


そう言って男は女性に向かって黒い球体のような物を投げつけた。


……ゴン。


鈍い音と共に女性が膝から崩れ落ちる。と同時に、頭にかぶっていたフードが取れて、中から見目麗しい少女の顔が現れていた。髪の毛は金髪で、その肌は抜けるように白い。だが彼女は、元々は白かったであろう顔を真っ赤にしながら、甲高い声で、早口でまくし立てた。


「私の紅炎デリ・グレンを躱したからと言って調子に乗らないでよね! 何よ、今の魔法は! 詠唱もせず魔力を発動するから、そのようなムラのある仕上がりになるのよ! この私に石をぶつけるなんて……許さない! 許さないんだからね! 私の魔法で成敗してくれるわ!」


「ノスヤ様、大丈夫ですか!」


青年の周囲に村の男たちが駆け寄ってきた。彼は村人たちをまあまあと宥めながら、ゆっくりと少女に視線を向け、呆れたような表情を浮かべて口を開いた。


「せっかくだから、魔法の扱い方を教えてあげるわ! 魔法って言うのは理論が大事なのよ! 私の完璧な理論で練り上げられたこの魔法を、とくと味わうがいいわ!」


「なるほどね」


ノスヤはコホンと咳払いをして、彼女を指さしながら笑顔で口を開いた。


「まだ青い、素人魔術師が玄人ぶって、赤い顔して奇な声を出す」

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