聖女と呼ばれる女の子と、付き人の幼馴染の男の子のお話
今日も今日とて聖女はその身に“力”を溜めこむ。上人に言われるがまま、只々対象に“力”を行使し、その“力”を半分その身に写し、蓄える。
何の為にこんな事をしているのか、わからない。聖女には伝えられていない。唯わかることは、これをすれば、家族が安定して暮らしていけるだけの報酬が得られるということだけだ。
“儀”を行う際に、聖女は教会の祭壇に据えられた、装飾華美な椅子に腰かける。そして、“儀”を行う相手が来たら、椅子から降りその者の前まで行き、頭に手をあて“力”を行使する。
これが一連の流れである。
これを何度か繰り返し、1日に合計10回ほど行うのだ。
そして今日10回目の“儀”の相手が現れる。女性であった。聖女は目の前に跪いた一人の女性の前に立ち、同じ頭の高さまで膝を折る。そして一言断りを入れてから頭に手を当て“力”を行使する。女性の“力”の半分が聖女に流れ込み、また溜められる。
「……感謝致します」
聖女はまた、女性に一言告げ、その場から離れ、椅子に座る。
立ち上がった女性は、恭しく頭を下げ、祭壇室から出ていった。それを見届けた付き人は、開け放たれていた祭壇室の扉を閉め、聖女に告げる。
「聖女様。今日の“儀”はこれで御終いでございます」
「そう……ですか」
付き人の言葉を聞いた聖女は、次の瞬間には身体をだらんと弛緩させ、なんともだらしない恰好で、椅子に深く深く腰掛けた。いやもはや腰掛けると言い難い度合いまで、だらしなく座っている。それを見た付き人は、苦笑を浮かべながら聖女に問う。
「流石に疲れましたか。聖女様?」
「ええ……流石に連続で“力”を使うのは身体に堪えます………あ、“儀”も終わったんですし、その敬語と聖女と呼ぶのをやめてくださいね、エニシくん」
聖女の言葉を聞き、“エニシ”と呼ばれた付き人は、早速恰好を崩した。
「おう……やあっと終わったな……お疲れだ。ルリエ」
「ふふ。ありがとうございます。エニシくんもお疲れ様です」
“ルリエ”と呼ばれた聖女と“エニシ”と呼ばれた付き人。二人の関係は同じ町出身の幼馴染同士である。昔こそ幼馴染というだけの関係であったが、現在は“聖女”と“付き人”の関係になっている。
ルリエはぼやきながら両手を組み、頭上に上げて身体を解すストレッチをする。それを見たエニシは苦笑を浮かべながら話しかける。
「ああ……今日は特につかれましたぁっ……んんっ……はあっ……エニシくん、はやくお部屋に戻りましょう。今日はもう休みます……」
「あはは。今日は特に希少な“力”持ちが多かったもんなぁ。最後の女性なんか“水操作”だったからなぁ」
先ほどから幾度となく出てきている“力”とは、生物であれば必ず一つは持っている、文字通りの“力”である。
例として、上記にある“水操作”は“水”であれば水分だろうと真水だろうと水蒸気だろうと操作することが出来る“力”である。この“水操作”の“力”は大変貴重なものであり、基本的に“~操作”と名の付く“力”はその概念を操作するものである。
“水操作”の場合、“水”の概念を“操作”することとなり、空気中の水分を操作し水を生成することも出来、池の水を運ぶことなんかも出来るのだ。無論、行使者にその発想や理解が無ければ出来ないが。
「水は貴重ですしねぇ……はぁ…………ぐぅ……」
「あっこれはダメだ。マジでお疲れのご様子だ。ほら、ルリエ寝るな。部屋に戻るぞー」
ルリエは完全に椅子にもたれかかり、全体重を椅子に預けている。よく見ると、ずりずりと身体が椅子から床に向かって移動している。非常に寝づらい格好であるにも関わらず、ルリエは両目を閉じ、ずり落ちている。このままでは無残にも床に落ちることだろう。
そうなる前になんとかしようとエニシが動き、ルリエに声を掛け、同時に肩を揺する。
「んんむ……えにしくんがはこんでくださぃ……すぴぃぇ……」
「あーわかったから頼むから今は寝るなー……にしても、毎度のことながら“すぴぃぇ”って寝息が不思議でたまらん……どんな寝息だよ」
ルリエのこの不思議な寝息は昔からのようで、呆れた様子で苦笑を浮かべながらツッコミを入れる。
「すぴぇ……すぴぃ……」
「……んま、いいか。よーし運ぶぞー」
そんな事もお構いなしにルリエは寝息を立て始める。この調子では直ぐに深い眠りにつくことだろう。エニシが声を掛けると、非常にゆっくりで気の抜けるような、とろんとした声で返事をする。
「んんぇ……おねがぃしまぁ……」
「はいよー」
本日何度目か分からない苦笑を浮かべながら、付き人は聖女を寝室へと運ぶため、教会を後にした。
聖女と付き人同士の関係になってから、殆ど毎日をこの調子で聖女と付き人は過ごしているのである。




