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カクセイシャX  作者: 半熟生卵
12/12

T/運命の『時』-5

H29.06.13

サブタイトル変更

(あ……れ……?)


彼が気がついたときには、彼の目の前にはあの真っ白な空間ではなく志桜里を助けようとした場所だった。

砕け散った校舎、ボロボロの自分の先輩、そしてあの化物。


しかしそこには、あの夢の焼き直しのような風景は存在していなかった。

志桜里は驚愕し、結をじっと見ている。

そして化物は、まるで親の仇を見るような鬼気迫る表情で結を睨み付けていた。


(俺はさっきまで白い空間にいたはず……じゃあアレは……)


化物のその顔に結は多少の恐怖を覚えるが、それは先程までのものと比べると小さなものであった。

それ以上に、彼には思うところがあったのだ。

先程までいたあの空間、謎の男、そして―――


(じゃあ、アレは夢だったのか?)


―――その男が言っていた力。

あれは夢だったんじゃないかと。

死にかけた自分の脳が見せた泡沫の夢だったのではないかと。

死にかけた自分が都合のいい夢を見ていただけではないのかと。

だが、その考えは一瞬にして砕け散ることになった。


《おいおい、ひどいじゃないか少年。私は、リアルな存在だよ》


結の頭にそう声が響いた。

それは、今まさに考えていた泡沫の夢の中に出て来た謎の男。

まるで英国紳士のような見た目の男、クロスの声であった。


《アレは夢ではないよ、まあそれに近いものでは有るけどね》


(近い……物?)


《ああ、いやいやこちらの話だよ》


クロスはそう言うと、結に化物のほうを見るように促す。


《さあ、少年。今君は、あの化物の事をどう思う》


(どう思うって……)


そう言われて、改めて化物のほうを見る。

化物はいまだに警戒した様子で、こちらのことを睨み付けている。

その様子を見て、結は怖いと少しは感じた。

しかし、逃げていた時のようなすくみ上がるような恐怖はやはり感じられなかった。


《どうだい?さっきまでの恐怖が嘘のようだろう》


どこか笑っているような声で、クロスが話しかけてくる。

だがどうして、結はそう思った。

あの空間に入るまで結はあの化物を見るだけで震えるような恐怖を覚えていたのだ。

それがさっきの今で、全くなくなっていたのだ。


《君が力に目覚めた影響だよ。あいつや、そこの彼女と同じ力のね》


(コレ……が……?)


確かに恐怖を覚えなくなったのは凄いことだと結は思った。

それと同時に、“まさかコレだけなのか!?”とも結は思う。


《失礼な!!!そんなことあるわけがないじゃないか!!》


結の思考に対してクロスは、少し怒った様に言った。


《まあ、それに関しては説明するより実践したほうが早いね……丁度あいつも準備ができたみたいだし》


(エッ?あいつって―――)


「GIJAAAAAAAAAAAAAAA」


結がクロスの言葉を聞き返そうとした瞬間、化物が大きな咆哮をあげながらこちらに襲い掛かろうとしていた。

しかも、先程まで一番の目標だったはずの志桜里を無視して。


化物の殺気立った目と共に、その殺気を具現化したかのような爪が結に対して振り下ろされようとしていた。


「……っ!?逃げて!!!」


それを見た志桜里は、とっさに結に向かって声を上げた。

それもそうだろう。

助けようとしていた命が、自分が呆然としているうちにまた散ろうとしていたのだ。

志桜里は、そう思い必死に声を上げる。


しかし、一方の結はそこから一歩も動かなかった。

逃げ出せば志桜里が襲われるからだ。だから、逃げ出そうとしなかった。

結は迫ってくる化物を、恐怖しながらもしっかりと冷静に見据えていた。


《そうだ少年、しっかと敵を見たまえ》


まるで、人形になったかのように頭が冷静なのだ。

化物の顔がしっかりと見え、振り下ろされる腕さえスロー再生のように見える。

冷え切った頭にクロスの声が響き渡る。


《そして、奴の顔……見えるだろ?殺気立った顔が》


その声に対して、結は小さく頷く。


《よし、だったら分かるだろ?次にやるべきことは》


そう言われ、結は拳を握りこむ。

遠い昔、父親に習った空手。それを、思い出すかのように。

そうこうする間に、化物は近づいてくる。


《さあ、それではその握りこんだ拳を―――》


結は、化物の顔をしっかりと見据えた。そして―――


《―――叩き込め!!》


―――その顔に向かって、拳を繰り出した。

その拳が化物に当たった瞬間、化物はまるで弾け飛ぶように飛んでいった。

それはまるで、バトルアニメの一幕のようであった。


「……はぁ?」


「……えっ?」


その光景に思わず結の口からそう声が漏れた。

それもそうだろう。先程まで一般人で、プロでもなんでもないアマチュアの拳で化物が吹っ飛んでいったのだから。

そして、流石の志桜里もそれには驚いていた。

自分と同じ力を持ったとはいえ、さっきまで一般人だった人間が化物を殴り飛ばしたのだから。

唖然とし、二人はまるで時が止まったかのように固まった。


《驚いているようだが、これが力の一端だよ。いうなれば、身体能力の向上さ》


そのクロスの声に、結は我に返った。


《言ってしまえば、今の君はプロボクサーのような力を得た!軽いフットワークに強いパンチ!!一般人に使ったらそいつは一瞬でノックアウトするような力さ》


「これが……」


あの空間で見た光の珠の力なのか――結がそういおうとした瞬間、化物が立ち上がり強い方向をあげた。

それは、かなりの怒りをこめた方向だった。


《まあ、とは言ってもそれは相手が一般人の場合だ。正直に言って、化物を撃滅するほどの力はないさ》


化物が結をにらむ中、クロスはそう言う。

それはそうだ。拳一つで化物が倒せれば同じ力を持っている志桜里はあそこまで必死にはならなかっただろう。


《奴を倒すには、武器が必要だ。君専用の強い強い武器がね》


(……武器?)


《そう武器さ、今この場にはないけどね》


そういわれ、結は絶望に包まれた。

それでは意味がないではないかと。

今この場で、今使える力で化物を倒さなければいけないというのに。


《おいおい、勘違いしないでくれよ》


その考えを、まるで呼んだかのようにクロスはすぐにそう声をかけてくる。


《私はあくまでこの場にはないといっただけさ。それに、武器なら君はさっきまで持っていたんだ》


「……はぁ?」


そう言われて、あきれたような声がでた。

さっきまで持っていたと言われても、さっきまで持っていた物は化物に壊されたカバンぐらいだからだ。


そう考えた瞬間、クロスが声を上げる。


《そう!そのカバンだ!そのカバンの中に、君の武器があったのさ。さっき壊されてしまったときにぶちまけたからどこにあるのか分からないけどもね》


(あの中に武器なんて……)


カバンの中にあった武器になりそうなものなんて、ボールペンやカッター位である。

そんなものでどうやって対抗するというのか。

むろん、化け物と戦うことなんて一般人であった結には想定されていないことだ。

志桜里が持っていたような大剣や、それこそ古今東西“武器”と言われるものなど持っているわけがなかった。


《だがしかし、私はあの中には武器があったと記憶している。行ってみる価値はあると思うよ?》


(……わかった、カバンの中にあったんだな?それは本当なんだな!?)


《ああ、私は嘘を決してつかないよ》


そうクロスが言った瞬間、化物がまたも結のほうに突っ込んでくる。

結はそれを辛うじて横に避ける。後ろにあった学校の塀が軽く砕ける。

結はそれを尻目に、急いで志桜里のところに向かう。

カバンがあった場所に向かうにしろ、この場から逃げ出すにしろもはや立つ気力もない志桜里を置いていくことなどできなかったからだ。

しかし志桜里は、呆然としており結のことを認識していなかった。

だが、そんなことに結はかまって居られなかった。


「焔夜先輩、ちょっと失礼します!!」


「えっ?…キャッ!?」


結は謝りを入れながら志桜里を両手でしっかりと抱え込む。

所謂、お姫様抱っこと言うものだ。

志桜里は急にそのようなことをされ、我に返りながら軽く頬を染める。

結はそんなことお構いなしに、さっきいた校舎まで走り出した。


化物も逃がすまいとその後ろを追い始める。


その場所には、すぐにたどり着いた。


(さっきは、ここから逃げるのに数分掛かったのに……)


ものの数秒で先程の場所までたどり着いたことに結は驚きを隠せなかった。

しかし、後ろから化物が追ってきている。

そのようなことを考えている暇はない。

その驚きを、先ほどのクロスの説明と同じものだと考え頭から振り落とす。

そして結は、安全そうなところに志桜里を降ろす。


「先輩はここで隠れててください。後で迎えに来ます」


そう言って、結はすぐにそこを去ろうとする。


「!!待ちなさい!!無茶よ!貴方は力に目覚めたばかり!!あいつと戦うには、訓練も!知識も!!圧倒的に足りない!!それで、あのカクセイジュウに立ち向かうなんで無茶よ!死ぬ気なの!!」


志桜里は、そう傷だらけの体の状態とは思えない声と覇気でそう言ってくる。

結は、後ろを振り向いて志桜里に言う。


「……さっき言ったでしょ、先輩。俺は、先輩に生きてほしいから戻ってきたんです。助ける為に、戻ってきたんです。それを達成しなきゃ、死んでも死にきれないですよ。すべてを犠牲にしてもいい、その覚悟であいつから力を貰ったんです。カクセイジュウ……あいつのことは全く知りませんけど……死ぬ気はありません」


そういう結の眼には、強い覚悟があった。

――――――それは自分と同じ考えを持った人間の目だった。

その眼を見て、志桜里は諦めることにした。

その眼をした人間が、少しの説得だけで諦めるはずがないからだ


「……はぁ、わかったわ。行ってきなさい、行って自分が納得できるまでやってみなさい。それで……絶対にここに戻ってきなさい。あなたには喋らなければいけないことがある」


「……わかりました、絶対戻ってきます。だから待っててください!」


そう言うと、結は踵を返して走り始めた。

少しでも止まっている暇はなかったのだ。




残骸があるはずの場所を見渡すとすぐそこにそのかばんの残骸があった。

もはやカバンとしての体裁を持てるものとは、言えないものとなっていた。しかし、そんな損害にも関わらず中見はある程度まとまってそこにあった。


《運がよかったじゃないか?少年?》


彼の頭の中でクロスが喋りかけてくるが結はそれを完全に無視する。

彼はその残骸の中から必死にそこから、武器になりそうなものを探し始める。

カッター、ハサミ、ボールペン。結は、武器になりそうなものを片っ端から探して行く。


(武器になりそうなものはこれ位だ)


「えっと、クロスだっけか?この中にお前が言う“武器”はあるか!?」


結は、頭の中で会話ができるのを忘れ声を出してクロスに問いかける。

だが――――――そこから返ってきたのは彼が望んだものではなかった。


《どれも違うね。確かに君たち人間にとっては武器になりえるものだろうさ。だが、これらはどれも君の武器ではない。君の武器たるものはほかにある》


それを聞いて結は、困惑する。

彼の中では、これ以外どう考えても武器になりそうなものがなかったからだ。

カバンの中にはあとは大量の割り箸と申し訳程度に残った消しゴムやシャープペンの芯位でそれ以外には何もなかったからだ。

そんなものが武器になりそうになかった。


「このなかにないって……じゃあ一体…ッ!?」


クロスにそう抗議しようとした瞬間、真横から化け物が飛び込んでくる。

その殺気を感じ、結はとっさに飛びのく。

しかし、さっきまで戦いと無縁だった結に完璧に避けろと言うのが無理な話だった。

化け物の爪がわき腹を掠り、そこから血が噴き出す。

更に、その衝撃のせいでバランスを崩し彼は地面に転がる。


「いっつぅ………」


それでも、生存本能かそれとも化け物を倒すためなのか定かではないがとっさに結は立ち上がろうとする。

その瞬間、彼の手元に何か当たる感覚がした。

何だと思いそれを見るその一瞬前―――


《それだよ少年!!それこそが君の武器だよ》


―――クロスがそう声を荒げるように伝えてくる。

それが伝わり終わると同時に、結はそれをみた。





それは確かに武器の姿をしていた。

―――だが、結はそれを“武器”とは思えなかった。


「こんな……」


それは確かにカバンの中にあった。

―――だが、結にとってはさっきの選択肢の中から最も早く除外したものだった。


「こんなもんが……」


それは確かに戦えるものだとはいえよう。

―――だが、結にしてみれば勝率なんて小数点以下の確立にしか見えないものだった。


「こんなもんで……」


それは、結があの部屋から帰る前に片手間に作ったおもちゃ。

それは、輪ゴムと割り箸で構成された確かに銃を関する名前を持った武器のようなもの。

一般的には武器とは言わず、一般的には子ども達の遊び道具というべき物。


それは―――


「こんなもんで戦えるわけないだろ!!!?」


輪ゴム鉄砲だった。


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