呪いのメイド人形
ふと思いついたネタです。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「助けていただき本当にありがとうございます。今日からメイドとして、あなたに仕えさせていただきます」
「ええと・・・」
どこにでもいる大学生、小橋空は困惑していた。何せ目の前に、自分の住むアパートにはどう考えても似つかわしくない、清楚なロングスカートのメイド服を着こんだ金髪碧眼の美少女が、自分に向かって頭を下げているのだから。
事の起こりは、彼が少し前に街をブラブラしていた時に、とあるアンティークショップにふらりと立ち寄った時から始まる。
普段はそんな店に寄りもしないのに、何故かその店の扉をくぐっていた。そして、店内を見て回ると、一体の人形に目が行った。
年季が入っているからだろうか、ところどころに汚れが浮かんだメイド服の人形だった。
「よく出来てるな。高いんだろうな・・・え!?500円!」
空は値札を見て驚いた。多少汚れているが、人形はかなり精巧な物だった。それなりの値段してもおかしくないと思ったのに、何故か安い。
「お兄さん、その人形買うのかい?」
ジッと人形を見ていた空に、壮年の店主が声を掛けてきた。
「え?いや、そういうわけじゃ」
「だろ~。やめといた方がいいよ。それは呪いの人形だからね」
「呪いの人形?」
「ああ。実はね・・・」
店主の説明はこうである。嘘か本当かはわからないが、この人形は大昔に魔女によって人形にされた本物の人間であり、人形にされただけでなく、強力な呪いが掛かっている。そのため、持ち主になった人間に災いをもたらす。
これまた本当かどうかは不明だが、実際にこの人形の持ち主が事故に遭ったり、病気に掛かったりしたこともあるらしい。それが巡り巡って日本に来たそうだが、その後もそうしたことが起きているらしい。
そうした呪いの人形であるから、捨てるに捨てれず、店主も困っていた。
「お祓いとかしたんですか?」
「ああ。ワシが教会や神社に持って行ってな。そのお陰かワシは幸い不幸な出来事には遭っとりゃせんが、何回か怖いもの知らずで買った客は、いずれもロクでもない目に遭ってるぞ」
「そんなの売り物にしていいんですか?」
「それはそうなんだが、仕舞い込んだらこんだでまた何か悪さしそうだしね」
「ふ~ん。呪いの人形ね」
空は人形を一瞥する。本当とは思えないが、魔法で人形にされて、さらに人形にされた後も呪いのせいで人を不幸にさせてしまうなんて、気の毒であった。
「これ貰います」
「いいのかい?」
「ええ。何かこの娘が不憫に思えて。まあ不幸たって、死なない程度ならなんとかなるでしょうし」
「そうか。だったら止めないぞ・・・大事にしてやってくれ」
「はい。そうします」
こうして、空は人形を購入した。
「さてと、まずは」
家に帰った空は、買ってきた人形の汚れを脱脂綿に水を含ませて丁寧にとった。そして服についた埃も払う。
精巧に出来たメイド服のスカート。それが揺れてチラッと脚の部分がはみ出る。
空も男である。多少いかがわしい感情が湧き上がってくる。
だがその感情を、彼はなんとか抑える。
「いけないいけない。この娘は本物の人間かもしれないんだぞ。淑女に対して失礼じゃないか」
本来はバカげた発想であったが、何故から空は大真面目に人形に、敬意を払ってしまう。
「よし!うん、これで少しは綺麗になったかな・・・あとは」
空は人形を置く場所を決める。最初は自分の部屋に置くことも考えたが。
「ムサイ男の部屋なんて嫌だよね」
と思い、居間の棚の上に置いた。
「日光が直接当たらない場所に置いて・・・これでいいかな。うん。今日からよろしく頼むね、我が家のメイドさん・・・さてと、夕飯にしよう。と言っても、料理できないからレトルトだけど。あ~、温かい手料理食べたい」
こうして、空とメイドの人形との生活が始まった。
「おはよう、メイドさん」
朝起きれば声を掛け。
「お休み、メイドさん」
夜寝る時にも声を掛け。
「ちょっと埃が乗って来たね。払おうか」
と、コマ目に手を入れる。
「しかし、呪いの人形だなんて言ってたけど、全然起きないじゃん。こんなカワイイ娘が呪いの人形だなんて、本当に気の毒だよ」
特に不幸な出来事が起きる気配もなく、一週間が過ぎたころ。
「おはようございます。御主人様」
空が起きて寝ぼけ眼で居間に行くと、金髪碧眼のメイドさんが立っていた。
そして冒頭のシーンに戻る。
「本当に、君があのメイドの人形だっていうの?」
「はい、助けていただきありがとうございます」
「いや、助けてって。僕何かした?」
「はい。御主人様「あの、その御主人様やめてくれない。むず痒いから。せめて、空って名前で呼んで」はい。空様。私に掛かっていた呪いは、私を人形にし、さらには私を手にした人に不幸を振りまく呪いでした。ただし、そんな私でも1週間丁寧に心を込めて扱っていただくことができたのなら、人間に戻れるようになっていました」
「丁寧に心を込めて?確かに、それなりに大切にしたつもりだったけど、あんなので良かったの?」
「何を言いますか!あんな風に、丁寧に汚れを取っていただき、毎日人のように声を掛けていただけるなんて。そ、それに。ご、じゃなくて空様は、私が女の子であることを色々気遣ってくれました」
「あ~」
二人の頬が赤くなる。
「でも、なんで僕には不幸が降りかからなかったの?」
「それは、私にもわかりません。ただあの店主さんがしてくれた、お祓いの効果かも」
「そっか・・・それにしても、君日本語上手いね」
「もう100年以上日本にいますから。覚えました」
「そっか。にしても、呪いなんて本当にあったんだ」
「はい。ですが、あなたのおかげでこうして人間に戻れました。感謝しています。今日からあなたのメイドとして、死ぬまでお仕えいたします」
「え!?僕まだ学生なんだけど。それに君の戸籍とか・・・」
「・・・私がおそばにいるのは、迷惑ですか?」
悲しそうな表情で見てくるメイド少女。空の良心をむちゃくちゃ揺さぶる。
「そんな眼差しで見ないで!・・・呪いを解除したのは僕の責任だから、追い出すようなことはしないよ。とにかく、親や知り合いに色々相談してみるから」
「ありがとうございます!空様!」
「そう言えば、まだ名前聞いてなかったね」
「あ、失礼いたしました。リリーです」
「そっか。よろしくね、リリー。さてと、朝ごはんまだだし、朝食の準備しよっか」
「それでしたら私が!」
さすがメイド。リリーが素早く反応するが。
「え!?君、今の日本の台所用具とか扱えるの?」
「・・・・・・」
(こりゃ大変なことになりそうだ)
と先が思いやられつつも。
(でもこんなカワイイメイドさんと一緒なんだから、文句言っちゃいけないか)
「わからないなら、使い方教えるからこっち来て」
「ありがとうございます。空様」
こうして、一人の平凡な学生と、金髪碧眼美女メイドさんとの奇妙な生活が始まるのである。
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