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ぎ・り・ぎ・り

作者: 小出毬子

通勤客という集団の中の一個人の考えを拾い上げ、ラッシュアワーを体験できるような文章を書いてみたくなりました。共感いただければ幸いです。

  はぁあ、間に合った。


 発車5秒前にホームに滑り込み、諦めて次の電車を待つ人たちの列をすり抜け、なんとか車内にもぐり込み心の中で胸を撫で下ろす。この電車に乗れないと間違いなく遅刻するので、顔も必死だったかも知れない。

  5分に1本以上は快速が止まるはずのラッシュアワーなのに、何故か次まで12分も空いている魔の空白時間。どうやら同士が何人かいるらしく、詰め込まれて不快な顔の合間に、弛緩したような脱力顔がちらほら見える。次の駅まで約8分。その間に次の乗換えに備え、顔と気持ちをを引き締め、狭い連絡階段に入り込む準備をしなくては。


 扉が開いた。


 誰も走らず無秩序に階段に向かうように見えても、実際は階段付近に来た段階で誰の後ろに付くのかは決まっているし、その場所より前に出ようものなら無言の視線のプレッシャーがあちこちから突き刺さる。

 それを避ける方法はただ一つ。人が溜まる前に階段に入り込み、改札まで早足で脱出する事。幸い乗り込んだ扉と同じ方向が開いたので、圧力に負けたふりをして早めに飛び出し、階段まで突っ走ることに成功。あとは転ばず、走らず、ぶつからず、自動改札でエラーも出さず、無難にスムーズに改札を抜ける。

 乗換え線の改札までの人混みも、隙間を見つけてぶつからないよう小走りで急ぐ。


 このペースだと一本早い電車に乗れそう。

 そう考えると、足が心持ち早くなる。

 人混みの数メートル先を見て、流れの隙間を見て小走りにすり抜ける事数回、自分の着きそうなタイミングで空いてそうな改札、当然IC専用改札優先で入り込むように歩くペースを調整する。

 改札機を抜けてからは、自分が降りる駅の階段近くの車両に乗れるように階段を選び、ホームに着いた後の移動距離を減らすよう、それでいてその中で一番乗れそうな列に並ぶ。

 空いてるからってお隣の優先座席のある扉に並んでる一見さん達、残念でした。この時間は車椅子で乗車する方がいるから、そこで乗れるのは先に並んでる常連の10人位がやっとだよ。今のうちに他の扉に移動した方が。ほら、エレベーターから駅員さんと車椅子のサラリーマンが出てきたでしょ。私、この方すごいと思うんだ。そんなに気を使わなくていいよと思う位、駅員さんや周りの人に声かけてるから、周りの空気が朝から穏やかになるんだ。


 扉が開いた。


 お兄さん、流石だわ。介助の駅員さんに笑顔でお礼言った後、6駅位先まで行くから、奥に入れて貰えますか?と言って車両の端に車椅子つけて、ニコニコしながらスマホのチェックしてるし。車椅子なんて普通は邪魔そうな目で見られるのに、この人がそんな目で見られてるのはほとんどない。

 私も貴重なゲームタイムwだ。周りを見るとゲーム3割、音楽4割、メール等文章見てるのが2割ってところかな?うげっ、あの人wifiで動画見てるよ。回線遅くなるから勘弁して欲しい。横の女性のケータイカバー、すごくキレイな皮使ってる。ネーム入りなんて高そうだな…あ、営業職なんだ。黒のスーツにPCと書類でパンパンの鞄は金融系かも。またあの子つり革につかまってマスカラ付けてるよ。空いてるんじゃなくて、みんな化粧品付けたくないから避けてるんだって。


 扉が開いた。


 私はこのターミナル駅の2つ向こうまで行くが、一旦車外に出る。もーっ、何でそこまで頑張って扉の前に立っているのか理解出来ない。横に寄るか、私みたいに一旦外に出ればいいのに。故意にぶつかられてるし、かなり睨まれてるけど、下を向いて視線避けるくらいなら邪魔にならないようにしろ。ウザい。

 まだ降車中なのに「発車します」のアナウンスが流れて旅行客が焦っているけど、そこなら大丈夫ですよ。絶対乗れますよ。だから、車外に出た人間も出入口付近で溜まってるんだから。だいたい列の最後尾に行ったなら、次の次の電車しか乗れないから遅刻するし(笑)

 おっと、乗車始まった。

 車両中程、なおかつ私の降車駅で降りる人が沢山いる辺りに滑り込むと、片付けていた携帯を再度取り出し、今度は小説を読む。ゲーム途中で終わるの嫌だし。

 …………面白いなぁ、この小説。駅のアナウンス聞こえなくて、うっかり乗り過ごすところだった。駅名見てよかった。あ、携帯片付けなきゃ、降りる時に弾かれて落としちゃう。読みたいけど、ガマンガマン。


 扉が開いた。


 流れに逆らわず最速で改札をくぐり、会社の最寄の6番出口でなく2番出口の階段を迷わず登っていく。

 コンビニで買い物?違う違う。実は6番出口は一旦地下通ったりして結構歩くんだけど、2番出口から出れば信号一つ渡れば6番出口の前なんだ。距離としては50m位短い。このコース見つけた時は、すごく嬉しかったなぁ。同じ電車に乗ってて先に出た人を抜いてて、彼女???って顔してたっけ。

 いい天気だなあ。気分がいいので、出口で配ってるティッシュに思わず手を伸ばしてしまった。大変だよね、少しでも減らしてあげないと、うん。

 駅から5分で会社に着く。

 マイペースで歩ける程度の混雑。

 電車の中のような圧縮感はない。

 通勤ストレスから解放され、ウインドウショッピングしながら歩けるこの時間が結構楽しい。

 少しずつストレスから解放される。


 通勤終了。よし、いつものように始業15分前には着いた。


「おはようございます」

「おはよう」


 多分私、今は会社員の顔になっている筈だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルが気になったので拝読させていただきました。 かなり都会な土地での風景が浮かんで来る様で、地方住みの自分としては東京に旅行に行った時の極端な人の多さを思い出さずにはいられませんでした。…
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