表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

01-12 土下座の真相

 

 「姫乃さんの未練による力は身体能力の強化なんですよね。幹弥さんのは何なんですか?」

 「そういえば、博邦は身体が軽く感じたりとかはないんだよね」

 「えっ……ええ。さっきも言いましたけど、そういうのを感じたことはないです。身体能力はこの世界に来る前と同じだと思います」

 「なんかおかしくない? 幹弥も身体能力が増加する力なのかな」

 「それにしては姫乃に比べて大分弱いけど。それにもう一つ気になる力がある」

 「何ですか、それ」

 「こっちに来ている転生人に共通の力かもしれないけど、死んだら開架閲覧室に戻るんだよ」

 「そうなんですか」

 「ちょっと待ってよ。いつその力に気付いたの」


 死んだら閲覧室に戻るという言葉に驚く博邦に怒る姫乃。


 「山の主の時にちょっと」

 「幹弥、あの時死んでたの。なんで黙ってたのよ」


 能力のことではなく、死んだことに怒っている。怒る姫乃にひたすら平謝りすると、今は生きてるから許すという結論に落ち着き、怒りを沈めてくれた。

 閲覧室に戻ることと開始場所は常に同じこと、そして時間は進んでいるためはぐれることを二人に伝える。


 「そうですか。当然の話ですけど、気軽には死ねませんね。それに皆が戻るのか、幹弥さんだけかも分からないですし」

 「試しに死ぬわけにもいかないしな」

 「当たり前でしょ」

 「ノアレなら知っているかもしれないけど、聞くためには一度死ななきゃいけないしな」

 「駄目よそんなの。和邇族の村まで距離があるし、大体自殺なんて気軽にするもんじゃないよ」

 「そうだよな。怖いし」

 「幹弥さんの力が姫乃さんと似ている力だとすると、開架室に戻るのは転生人の特性かもしれませんね」

 

 姫乃の劣化版が自分の力と考えると少し残念だ。それにノアレにも忠告されたが、気軽に死ぬわけにもいかない。今回は謝って許してもらえたけど、わざと死んだ場合、姫乃は絶対に許さないと思う。なにか引っかかる。許す…謝る…。


 「あっ。そういえば俺は博邦を倒さなければならなかった」

 「なんですかいきなり。どこでそんな話になったんですか」

 「忘れたとは言わせないぞ。土下座だよ、土下座。ワニに変なこと教えただろう。俺と姫乃を助けてくれた人への恩返しだ。すまんな」

 「一言の謝罪で済ませないでください。確かにそんなことを教えたかもしれないですけど、あれは手伝いの一環で仕方なく」

 「そんなこともあったね。それで何で土下座が手伝いになるの」

 「話せば長いんですが。実は僕、プロレス同好会に所属していて、プロレスが大好きなんです。」


 いきなり話が飛んだな。体格をみれば、プロレスをただ観るのが好きというわけではないのだろう。同好会所属ということだし、実際にやるのが好きなのかもしれない。しかし、土下座にどう繋がるのか分からない。


 「手伝いの一環として娯楽の提供というか、プロレスを見せたり、技を教えたりしたんです。和邇達は近接格闘が好きでして、関節とかを尻尾で決めたりと凄いんです。手足が短いから組技は無理なんですけど、その分、顎と尻尾で動きをカバーしてて」

 「いや、そういうのは良いから。土下座の話はどこにいったんだ」

 「すみません、つい。それで一度、負けたら土下座という土下座マッチを行いました。女衆が相手だったのですが、負けてしまいまして」

 

 思いの外、くだらない理由だった。しかも負けてるとなると、今更怒る気にもなれない。ワニは女衆に土下座して謝る博邦を見て、土下座の有効性を悟ったのだから、きっと見事なものだったんだろう。

 

 「ふーん。私はプロレスをよく知らないけど、意外だね。博邦がじゃなくて、生徒会長がプロレス同好会って」

 「よく言われます。でも順序が逆なんです。プロレス好きだから生徒会長を目指したんです」

 「どういうことだ。俺の学生時代にはそんな奇抜な発想はなかったぞ」

 「ファンのプロレスラーがいまして、塾長の気分を味わいたかったといいますか。そこに合わせて和邇の村でしょ。絶対にプロレスを広めないとって思いまして」

 「そ、そうなんだ」


 熱い博邦の思いと行動力に姫乃が若干引いている。博邦の人となりが少し分かった気がする。好きなものに過剰に熱中する気持ちは分からなくもない。きっと熱心にプロレスをここで教えたんだろう。ワニが器用に尻尾を使いこなす一助になっているのかもしれない。


 「う……ううん」


 その後も続いていた博邦のプロレス話を遮るように呻き声が聞こえてきた。俺と姫乃は逃げるように呻き声の発生源、寝ている少女の元に駆け寄った。

 騒ぎすぎて起こしてしまった。


 「ちょっと大丈夫?」

 「あの……ここは?」

 「まだ起きないほうが良いよ。長い時間眠っていたから」


 身体を起こそうとする少女を姫乃が無理に抑える。


 「あぁ、人だ。良かった、夢だったんだ。変な場所で目を覚まして、突然、化け物に襲われて」


 きっと何か怖いものをみたか、信じられないものをみたのだろう。残念ながら夢ではないが、落ち着いてから説明した方がいい。


 「ここは和邇族の村。安心して。分からないことが多いだろうけど、落ち着いたら話すから」

 「あなた達は?」

 

 少女に問われて自分達三人は簡単な自己紹介をする。


 「わたしは高岡香菜(たかおか かな)って言います」

 「よろしくね、香菜ちゃん。ほら、これお薬だから飲んで。ゆっくり休んで、後でいっぱいお話しよ」

 「美味しい。……ありがとう、姫ちゃん」


 荷物持ちの男から貰った根を煎じた湯を飲むと、香菜は目を閉じて寝息を立て始めた。


 「香菜ちゃん、気がついて良かった」

 「これ以上騒ぐのはやめた方がいいですね」


 騒いでたのは主に博邦だと思うけどな。自分も少しは騒いだけど。


 「まだ話は尽きないですが、僕も一旦お暇します。また明日話しましょう」

 「そうだな。明日にならば香菜も目が覚めるだろうし」





 「きゃー」


 次の日の朝、女性の叫びで目を覚ました。聞き慣れない女性の声に昨日目覚めたばかりの少女を思い出した。急いで香菜のいる部屋へと向かう。


 「大丈夫か?」


 そこには怯える女性と土下座するワニ、兄を冷めた目で見下ろすオキナがいた。


 「なんか懐かしい光景だな」


 ワニを部屋から追い出し、香菜をオキナと二人で必死に宥める。


 「あの幹さん。その女性の鱗とか目とか」

 「大丈夫。気にしなくていい。とても優しい人だから」

 「優しいとかやめろよ」


 オキナが突然褒められて照れているが、今はそんな場合じゃない。姫乃はまだ寝ているのか、一向にこの部屋に来る気配はない。


 「それにさっきの鰐」

 「大丈夫だよ。見た目は怖いけど、人は襲わないから」

 「そうだ。兄者はいい和邇だよ」


 ワニには悪いけど、今は香菜を落ち着かせることを優先しよう。恩人を完璧に獣扱いしてしまった。


 「違います。わたし見たんです。あの鰐が人を襲うところを」

 「なに。兄者はそんなことをしてんのか」

 「どういうことだ? 香菜はワニを見たことがあるのか」

 「夢かもしれないけど、わたし見たんです。遠目でしたけど、砂浜で女性を襲ってたんです」

 「落ち着いて。ゆっくり最初から話してくれないか」

 「幹さん。わたし、変な本だらけの場所にいて、いつの間にか砂浜にいたんです。ビックリしてウロウロしてたらバキバキって大きな音が響いてきて、急いで見に行きました。そしたら、遠目に大きな猪と大きな鰐が女性を襲っていて。わたし怖くなって、逃げ出しちゃって」


 大きな音の後に、大きな猪と大きな和邇、そして女性。なにやら聞き覚えのある話だ。


 「香菜。信じれらないかもしれないけど、俺の話を聞いてくれないか」


 自分と姫乃がこの和邇村に来るまでにあったことを香菜に教えた。昨日に続き2回目ということで語り慣れたものだったが、それでも長い話だ。香菜は信じられないといった表情を時折見せたものの、とても真剣に聞いてくれた。


 「夢じゃ……なかったんですね。それにあの女性が姫ちゃんだったなんて」

 「今度は香菜の話を聞かせてくれないか。その後どうなったのか」

 「話というほど長くはないです。怖くなったわたしは森の中に逃げたんです。でも、すぐに黒い塊が飛びかかってきて、砂浜に逃げ出したところで気を失ってしまって。それからは覚えていません。気がついたら、幹さん達に助けられていたんです」


 どうやら香菜は自分達より少し前にこっちの世界に送られたのだと思う。こっちに来た当初に自分達は見かけなかったが、ウロウロしていたらしいので見えない所にいたのかもしれない。気を失ったところをあの一団が見つけてくれたのだろう。


 「香菜を助けたのは俺達だけじゃないんだ。君を助けた一団がいて、その一団の人から君を預かったんだよ。それにオキナ達も介抱を手伝ってくれてね」

 「そうなんですか。後で会えたらお礼を言わないといけませんね。それにオキナさん、驚いてごめんなさい。助けてくれてありがとう」

 「いいんだよ。カナやミキヤと違う見た目なんだから、初めて見たら驚くのも分かるよ」


 オキナは香菜に驚かれたことを微塵も気にしてなさそうだ。


 「香菜にはこの世界について教えなきゃいけないことがあるんだ。まだまだ信じられないことだらけさ。この後で博邦も来るだろうし、その時に話すよ」

 「げぇ。ヒロクニのやつがくるのか?」

 「オキナは博邦が苦手なのか」

 「苦手かな。この村で手足が長いのはあたしだけだから、ちょいちょいプロレスってやつに誘ってくんだよ。あいつに頼まれると何故か断りづらくて、今じゃ逃げるようにしてる」

 「プロレス? よく分かりませんけど、教えてください。幹さん」

 

 香菜は可愛らしげに笑っている。その笑顔を見て、自分とオキナも微笑んでします。


 「あのー。そろそろ入っても大丈夫ですかい」


 ワニのことを忘れていたことに気づき、香菜がビクつきながらもお礼をいう姿を見て、自分とオキナは更に笑うこととなった。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ