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01-10 荷物持ちの男

 

 一団が去って自分たちも村の復旧作業に戻っていた。ワニの家も元通りとはいかないが、夜までには最低限雨露が入らない程度には修復された。

 作業が一段落ついてしばらくした頃、大きな荷物を背負った男が和邇族の村を訪れた。左右の髪をそれぞれ袋状に束ねている髪型をしていて、荷物の事も相まって、一団が言っていた荷物持ちの男だということは簡単に推測できた。

 対応には一団の時と同様にワニがあたることになり、自分やオキナと姫乃も同行することにした。その男は律儀にも川の方から村には入らずに、村の入口で

自分たちが来るのを待っていた。


 「和邇族の方々でいいかな」


 その男はワニをみた後、オキナと姫乃に目を向けて、再度ワニへと視線を戻した。最初、オキナの和邇族らしからぬ見た目が気になったのかと思ったが、どちらかと言うと姫乃の格好にこそ興味が有るような目をしていた。


 「そうです。もしかして、荷物持ちの方ですか」

 「荷物持ち? いや、違うが……。もしや、先に我のような格好の一団が通りましたか」

 「えぇ。村の橋を通って行きやした。あの方々が後で荷物持ちが通ると言ってやしたので、てっきりその方かと」

 「これは、すまん。ならば、我がその荷物持ちで相違ない。その一団はどのくらい前にここを通りましたか」

 「半日は経ってやせんがだいぶ前です。その荷物を見るに追いつくのは難しいかもしれやせん」

 「そうであったか。まぁ、無理に追いつく必要もあるまい。それでは、村を通らせてもらっても構いませんか」

 「もちろんです。ちょっと散らかってやすが」

 「一体何があったのですか。あれをみた時から気にはなっていたのです」


 そう言うと男は村の入口から見えるボロボロのオブジェクト、元壁を指差した。まぁ、あれを見て気にならないほうがおかしい。後で撤去しておかないと。


 「土蜘蛛です。ここら一体の土蜘蛛が一斉に来たような数が森から飛び出してきやして。一団が来る少し前ですから、安心してください」


 ワニは荷物持ちの男が心配しないように一団には土蜘蛛の被害がないことを伝えたが、当の男はその話を聞き、少し青ざめていた。


 「それは真にスマン。恐らくその土蜘蛛、我が兄弟たちのせいかもしれん」

 「ちょっと、どういうことなの」


 看過できない言葉に姫乃が食いつくと、男は気まずそうに答えた。


 「我々は元々一緒に砂浜を移動していたのだが、我が遅れるようになった時に兄弟たちが森に入っていったのだ。遅れている間に土蜘蛛を狩ろうとしていたのだと思う」

 「土蜘蛛は一団、あなたの兄弟たちから逃げていたと。それで土蜘蛛はあんなに混乱していたのか」

 「この村と土蜘蛛がかち合うようになったのはわざとでは無い。そのような意図はなかったはず。何の言い訳にもならんが。……真にスマン」


 再度、荷物持ちの男が謝る。土蜘蛛襲来の真相は驚いたが、一番驚いたのはその後で何食わぬ顔でこの村を通って行ったことだ。ワニやオキナもさぞ憤慨しているだろうと思ったが、それほど驚いてはいなかった。オキナあたりならば、文句も言いそうなのに。


 「なんだい、ミキヤ。あたしの顔を見て」

 「驚かないんだなと思って」

 「まぁね。土蜘蛛たちに矢を射かけていたから、もしかしたらと思ってたし。何か関わりがなければ、他国の村のことはほっとくはずだからね」

 「気づいてたのか。それなら、どうしてすんなり通したんだ?」

 「そのまま流したほうが問題が少ないからね。あたしらの村とあの一団とで喧嘩しても潰されちまうさ。それに土蜘蛛を倒してたから、敵ってわけでもないしね」


 少し間違えば死んでいたかもしれないのに、そんなことで納得できるのか。悪意はなっかたかもしれないけど、それでも村の危機だったのに。

 納得行かない表情の自分を見て、オキナが微笑む。


 「ありがとう、ミキヤ。村のために怒ってくれて。でもね、男衆が村を留守にしている間にその村が潰されたら、それこそ一大事だよ。避けられない土蜘蛛を退かせ、避けられる一団をやり過ごす。村にとってはそれが一番さ」

 「そうですよ。それにこうして謝ってもらえたんですから、水に流しやしょう」


 和邇族の村に住むオキナとワニにそう言われたら、自分は何も言えなくなってしまう。


 「青人草の青年よ。スマン」


 それにこの男は土蜘蛛襲来と関係がないのに真摯に謝罪している。怒る自分がおかしいとは思えないが、これ以上怒っても仕方ないのかもしれない。自分も村にとっては客人なのだから。

 ワニやオキナは謝罪を受け入れ、荷物持ちの男にこれ以上気にしないように告げた。男の方もそれを受け入れ、話を切り替えていく。


 「ところで、そこの青人草の娘をみた時から気になっていたのだが、この娘はそなたらの仲間か」

 

 そう言うと、男は荷物の影から一人の少女を降ろす。こちらからは見えなかったが、ずっと荷物に載せていたようだ。姫乃と同年代の少女は少し苦しそうに眠っていた。自分達の世界の一般的な私服といった格好をしている。


 「この少女は?」

 「旅の途中、砂浜で拾ったのだ。外傷はないが、どうやら日差しにやられたようだ。介抱している間に兄弟たちから遅れてしまってな」

 「たしかにこの服は自分達の時代のものだ」

 「時代? どうやら知り合いではないようだが、この村で養生させてやれんだろうか。もう長いこと眠っているが、旅をする身ではこれ以上の介抱は難しくてな」

 「そりゃもちろん構いやせん。人一人運ぶなんて大変だったでしょう」

 「青人草とはいえ、女性を見捨てるなんてできんからな。この葉を額に当てて休ませておけば、じきに目覚める。目覚めた後は、この根を煎じて飲ませてやれば回復も早まるだろう。それではよろしく頼む」


 男はワニに少女と幾つかの植物を渡すと、去っていった。


 「さて、まずはこの少女を休ませやしょう」

 「そうだな」

 「ミキヤはこの少女を知ってるのかい」

 「知らない。でも自分たちと無関係ではないと思う」


 自分達は少女を休ませるために急いでワニの家へと運びこんだ。こんなボロ、……風が通る家よりは他の家のほうが良いかと思ったが、どこも人手が足りないらしく、一番人数のいるワニの家がいいらしい。なにより、ワニが唯一村にいる戦士ということで安全であることが大きかった。

 少女を寝かせ、あの男が言った通りの対処を施す。少女の寝息は安定していて、先程よりだいぶ楽そうだった。


 「あっしらたちももう休みやしょう。今日はたくさんのことが起こりすぎやした」


 ワニのその言葉に誰も異論はなかった。



 次の日、少女はまだ目覚めていなかった。自分たちは復旧作業や空いた時間でワニと訓練をしながら過ごしていた。もう大規模な土蜘蛛の襲来なんてないとは思うが、あの時に力があればもっと役に立てたと思うと、訓練にも身が入った。あの数が相手では攻勢に出るなんてできないが、防御ができていなければ早々に飲み込まれていた。もっと上手く防げていれば、退くこともなかったかもしれない。

 あっという間に一日が過ぎてゆく。こちらの世界に来てまだ数日しか経っていないが、何も起きずに過ごす一日はとても久しぶりのような気がした。

 少女は昼間に一旦目覚めたが、介抱していた姫乃が声をかける間も無く、すぐにまた眠ってしまったらしい。とはいえ、無事目覚めて一安心といったところだ。


 その日の夜、村の海沿いで騒ぎ声が上がった。何事も無く過ごせると思って、油断していたようだ。姫乃も焦った様子でいる。


 「ミキヤ、ヒメノ。安心してくだせい。敵じゃありやせん。あの騒ぎは男衆が戻ってきた声です」

 「でも帰ってきたのなら騒ぎは村の入口で起こるんじゃ。声は入口じゃなく海沿いから聞こえるぞ」

 「泳いで帰ってきたんでしょう。あっしらは歩くより泳いだほうがずっと速いから」

 「私たちを助けた時、ワニが歩いてたのって、私たちに付き合ってくれてたから? それで招集に遅れちゃったの?」

 「一人なら泳いで運べたんですがね。放っとく訳にも行かんし、何度も言いやすが、気にせんことです。そんなことより、あっしらも迎えに行きやしょう。一族招集の割には帰還が早いんで、オキナの入った通り、戦いじゃなかったようです。あの人も無事でしょう」


 色々あったが、自分達より前にこちらに来ていた転生人にあうのが元々の目的だ。もしかしたら、あの少女もなにか知っているかもしれない。姫乃も自分も異世界に渡るという事態解決への期待が膨らんでいく。ワニやオキナとともに海沿いへと足早に向かう。足取りはとても軽い。


 海沿いに着いて最初にその光景をみた時、和邇族は怖くないと自分に言い聞かせる必要があった。ワニや女衆で大分慣れたと思っていたが、月明かりに照らされ、大量の和邇が海から出てくるという光景は恐怖を抱かせるには十分すぎた。水に濡れて光る鱗や、夜の中で光る目はただでさえ怖い見た目を爆発的に凶悪化させる添加剤になっている。

 その中で自分たちと似たシルエットが目に入る。きっとあれがワニ達の言うあの人だろう。砂浜で待つワニや女衆とともに自分と姫乃も男衆が来るのを待つ。



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