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01-09 一団

 

 森の入口から弓を放った一団は散り散りになった土蜘蛛を確認すると、こちらから視線を外し、川の方に向かって歩き出していった。


 「なんだあの一団」

 「あっしらに用があるって訳じゃねぇようです」

 

 どことなくホッとした雰囲気でワニが一息つく。なにやら関わり合いにならないのならそのほうが良いといった雰囲気だ。


 「とりあえず村を片付けねぇと」

 「そうですね」


 土蜘蛛達の襲来で村の囲む柵はその役割を果たし尽くし、今やただの杭のようになっている。その場所では他の和邇が修復作業を行っていた。

 襲来と言っていいのだろうか。土蜘蛛たちは結果的に和邇族の村を襲うことになったが、以前のような獲物を狙う行動は見られず、明らかにパニックに陥っていた。

 森から出てくると放射状に広がるなんて、目的地を定めているような行動じゃない。それこそ文字通り蜘蛛の子を散らすように何かから逃げているようだった。

 森の中に何かいるのだろうか。大量の土蜘蛛が逃げ出すような何かが。


 考えながら歩いているとワニが立ち止まっていた。その目線はワニ自身の家を見ている。


 「あっ」


 そうだった。今のワニの家はだいぶ風通しが良くなっている。オキナに初めてあった兄妹喧嘩が繰り広げられた場所が丸見えになっている。


 「な、なんであっしの家がこんなことに」

 「いや、それはオキナがワニを助けるために仕方なく」

 「そういや、あの時降ってきた壁にやたら見覚えが」

 「土蜘蛛をいち早く防ぐためにオキナも必死だったんだよ。ワニだって危なかっただろ」

 「確かに助かりやした。あっしでもあの量は捌ききれねぇ。でも、だからって。……オキナッ!」


 なんとかワニを宥めようと思い、声をかけたが無理のようだ。ワニはワニで妹の行動に納得しようと葛藤していたみたいだけど、結局駄目だった。オキナの名を叫ぶとワニはオキナの方へと走っていった。

 ワニは大声でオキナを説教しているようだけど、オキナはどこ吹く風で聞き流している。いつの間にかオキナは大きな和邇から人に似た姿へと戻っていた。


 「ワニはどうしたの」

 「家の壁の件でちょっとな」


 合流した姫乃が大声で叫ぶワニを見ながら尋ねてくる。なんとも答えようがないので、言葉を濁すしかない。


 「あぁ、これオキナがやったんだ。いきなり目の前の壁が消えた時は驚いたよ」

 「その壁も今やあんなだしな」

 

 村の入口の先で未だに地面に刺さっている元壁をみる。地面に刺さってはいるが見事にぼろぼろだ。もう壁の役割に戻ることはないだろう。家の主たちを立派に守り通した壁の冥福を祈ろう。盾といえば自分たちの盾となった分厚い板があった。


 「そういえば姫乃はあの板をどこから持ってきたんだ」

 「板?」

 「柵代わりに使った板だよ。土蜘蛛に踏み潰されてあれも粉々だろうけど。緊急事態とはいえ持ち主には謝っとかないと」

 「えへへっ」


 その笑いは姫乃がいたずらや誤魔化すときに浮かべていたものだった。なんか全てがわかった気がする。ワニの家を見る。兄妹喧嘩の場所が丸見えだった。壁がなくなったインパクトで気付かなかった。たしか、あの時ワニの家に入る前に。


 「姫乃。謝りに行こうか」

 「そうだね。許してくれるかな」

 

 どうだろうか。緊急だったしわかってくれるとは思うが、一時的なものも含めて同居人がこぞって家の破壊を成したのだから、そのショックは大きいだろう。

 土下座しかないかもしれない。そう思いながら、妹に説教中のワニへと向かって歩き出した。




 「額傷。ちょっといいかい」


 家の前でさめざめと泣いているワニに村の和邇から声が掛かる。その表情はどこか硬い。


 「なんでしょう」

 「その今の額傷にはちょっと頼みにくいんだけど、ほら、あれ」


 そう言うと和邇は柵の向こうから近づいてくる一団を指差す。さきほど森から川の方へと移動していた一団だ。どうやらこの村に用ができたらしい。


 「大変なのはわかってるけど、他に戦士がいなくて」

 「大丈夫ですよ。あっしが対応しやす」

 「ありがとうね」


 和邇はそう言うと去っていく。柵の修復作業を行っていた和邇たちも今は誰もいない。


 「問題ねぇとは思うが、オキナも来てくれねぇか」

 「あぁ、わかったよ」

 「俺も行きます」


 あの一団はこっちに来て初めてみる自分達と同じ姿をした人だ。ワニ達の警戒具合から前々から知っている存在のようなので、自分達のような転生したわけではなく、こちらの世界に元々いる人だと思う。あの一団は厄介な存在であるとは予想できるけど、興味もある。

 姫乃も同行するようで、4人で一団の下へと向かった。

 

 一団は柵の前に到着すると、一人が前に出てきて、自分と姫乃を一瞥するとワニへと話しかける。

 近くで見ると、やはり自分達と同じ姿形をしている。自分達との大きな違いは左右の髪をそれぞれ顎の横辺りで袋状に纏めている髪型を全員がしていて、簡単な鎧や武器を携帯しているぐらいだろう。


 「青人草もいるようだが、ここは和邇族の村で間違いないか」

 「えぇ、そうです。何か御用ですか」

 「うむ。そこの川を渡りたいのだが、橋がないようでな。村の中に橋があれば通らせてもらいたい」

 「そういうことですか。構いやせんよ。土蜘蛛のせいで散らかってますが、橋は問題なく通れやすから」

 「では通らせてもらおう。皆行こうか」


 そう言うと、一団は柵を通り村を横切って行く。双方ともに名乗りなどもなく、警戒していた割にはやたらあっさりしたものだった。一団も村の様子には興味が無いのか、特に気にかける様子もない。このままでは何も得られないまま終わってしまうと思い、意を決して話しかけてみる。

 

 「あの」

 「……」

 「あの、すみません」

 「ん。我らに話しかけているのか」


 こちらの声掛けに気づいてなかったのか、一度目は無視された。二度目の問いかけでようやくこちらに気づく。


 「我らに話しかけるとは変わった青人草だな」

 「少し聞きたいことがあるんですが」

 「我らは先を急いでいる。後にしろ」


 しかし、気づいただけで話をすることはなかった。結局、何も聞くことはできずに、一団は足早に去っていく。後っていつだよ。

 自分の心の声に反応した訳ではないが、一団の最後にいた人が急に振り返りワニへと話しかける。


 「忘れていた。我らの後に荷物持ちが通ると思う。その者も和邇族の村を通してもらいたい」


 ワニはその言葉に了承の返事を返すと、一団は今度こそ振り返らずに去っていった。


 「何も聞けなかったな。お礼も言えなかったし」


 一団が見えなくなった頃に落胆して呟いた。その呟きの内容がわからなかったのかオキナが聞き返してくる。


 「お礼? お礼ってミキヤはなんか借りでもあったのか」

 「さっきの土蜘蛛の時に弓矢で流れを止めてもらったんだよ」

 「あーあれか。あれなら礼をいう必要は特にないと思う。向こうも気にしてないよ」

 「そうよ。幹弥にも当たりそうだったし」

 「いや、そういうことじゃないんだけど。まぁいいか」


 姫乃が自分に当たりそうだった一射を思い出し憤慨したが、オキナは本当に一団に礼を言う必要を感じていないらしい。


 「それにしても、随分急いでたな」

 「旅の途中だからでしょ」

 「それもあるだろうけど、私らの村は海の国に仕えてるから、あんまり長く居たくはないんだろうよ」

 「あの一団は山とか森の人なの?」

 「違うよ。あの格好はたしかだいぶ西にある国だと思う」


 どうやら海や山といった区分以外にも国が成り立っていて、そこは自分達のような姿形の族が非常に多いようだった。

 和邇族と敵対しているわけではないが特に仲良くもないらしい。


 「ワニも前に私達に言っていたけど、また青人草って言われちゃったね」

 「そうだな。青人草ってなんだろうな」

 「知らなかったのかい。ミキヤたちのような形をとる人のことだよ」

 「じゃあ、あの一団も青人草?」

 「ちょっと。そんなこと聞かれたらヒメノが殺されちゃうよ」


 姫乃の問いにオキナが心配そうに答えた。あの一団が青人草じゃないのなら、自分達との違いは何かあっただろうか。身に着けているものに違いはあったが、鱗や尻尾などは見当たらなかった。


 「青人草は言葉にするのが難しいね。この村にはいないけど、力の弱い人で、普段関わり合え無いんだよ」

 「孤立してるってこと?」

 「いや、気づかないっていうのかな。確かにいるんだけど、あたしらは気づかないから関われない。ミキヤに話しかけられて驚いてたろ」

 「ってことは、オキナたちも俺達に気づけないのか」

 「いや、ミキヤたちは最初から気づいてたよ。だから、変わった青人草だなって」

 「ちょっとよくわからないね」

 「気にしなくていいさ。ミキヤたちが変わってても、あたしも兄者も気に入ってるから」

 



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