6-5
つづきです。
そして翌日。
[おはよう~~~]
どうも粘着系である……。
(しつこい アハハハ……)
勝馬は笑っていた。あんまりしつこいと、逆におかしくなるのかしらないが……。
一夜明けたのだが、やはりヤツの気配は消えていなかった……。
朝起きてからメールをチェックすると、やはり来ていたのだ、来てほしくない人物から……。
[えっと、柏木の事?]
もうこれ以上は、話が長引くのは困るので勝馬は自分から話を進めた。
また、勝馬は芝辻の聞きたいことぐらいは分かる。
[すごいね、さすが良く分かるね]
[それしかないし]
[それもそうだけど、勝馬君、ケンカすごい強いみたいだね…見た目によらず…]
どうやら、芝辻は合内とのタイマン以前から付きまとっていたようだ。
(結構前から、監視してたのかな?)
本来は、誰かが付きまとうと言ったことは、動揺すべきことなのだが勝馬は今までにもこのような事があったから大して気に留めていないようだ。
(いやぁ……なんか…………まあいいか……)
勝馬は言いたいことはあったが、どうでもよくなってしまった。
[あの、通話できますか?]
勝馬は本当は、相手にしたくないのだが、同時に早く終わらせたかった。
芝辻とは友達でもないし仲良くなれるようなタイプでもなさそうなので早めに距離を開けたかった。
そのため、勝馬は適当に話を進めて適当に話を終わらせたかった。
「要するにあんたは、何かしら情報を知りたいんでしょ?」
「無理にとは言わないから、出来たら教えてほしいんだけどな……」
「……」
「どうやったらあんなに上手い事証拠を作れたのか? とか吉川君の、あの強さはどうなってるのか? とか気になるからさ~」
(気になったとしてもそんな事でわざわざ付きまとったりするかよ、普通……)
どう考えても明らかに裏があるはずだ……そんなことぐらいサルでもわかる。
芝辻は、どこかの何かの命令で動いているに違いない……それぐらいは分かる。
「少し前の友達の事件があったよね? そのとき、吉川君が証拠を握ったよね? あれ普通あんなに上手くいくかなぁ? って思ったからね……」
「なんで俺が証拠を握ったって知ってる訳ですか??」
「ああ、偶然だね……」
(それはおかしいだろ……)
確かにそんな偶然はおかしい……。
「勝馬君は犯人の会話を録音したよね。普通あんなに上手く録音はできないはずだからね、普通は……」
「偶然偶然……」
ここは勝馬も、同じ言葉で返してやった。
「で? 合内のことかな?」
「それも気になるね」
「アイツが弱すぎるんだよね……」
「にしても、普通の人間の動きじゃないような気がしたけど……」
「だから、なんでそれ知ってる訳……」
「ああ……偶然偶然」
今までの話からして、どう考えても結構前から、ストーキングしていたことになる。
「けど吉川君、あれはすごかったよ。本当に……オリンピック金メダリストでもあれは無理って思うほどの動きだったかな……」
(そんなにじっくりと完璧に見てたワケ……そんな気配なかったんだけどな……いやぁ、なかなかストーキング上手いなぁ。関心関心……)
「そんなに俺の動き良かったですか?」
「すごいと思うよ。僕も、柔道とか剣道とかやってたんだけど、あの時の吉川君ほどの余裕を持った動きは到底できないなぁ……」
「……そうですか? ……」
「うん、なんかツバメみたいな感じだったよ」
(そりゃすごいな……って我ながら……けど、しかし……)
つまり、芝辻には人間が人間との攻防をしているのではなく、人間とツバメとの攻防に見えたようだ。
確かに人間とツバメでは、佐々木小次郎ぐらいしか勝負にならないだろう。
(けど俺、自分で見てないからそんなの良く分かんないんだよな……そんなだったっけ……)
客観的に見ることはできないからか、あまり自覚はなかったようだ。
「つまり人間離れしてたって訳ですね……」
(あれ、ちょっと待てよ……そういやなんで、柔道とか剣道とかやってんだ? しかもその上、情報収集もしてるしな。どう考えてもこの人は……)
「……えっと、なんで柔道とか剣道とかやってるんですか? ……」
「ああ……えっと、趣味で……」
「情報収集も趣味と?」
「え、っと……そうそう」
(明らかに無理してるな……)
少し話はそれたが、勝馬は今までの事を考えていた。
(今思うと、柏木の証拠を掴むときは簡単だったけど、合内の時はちょっと難しかったかな)
実は勝馬は、柏木と難波の証拠を掴んだときは、人目にはつかないほどの小さいハエ型ロボット録画機をつかったのだ。この方法は至ってシンプルで簡単に出来る方法だった。
バレないように相手に近づいて、こっそりとバレないような場所で録音していたのだ。蚊のように小さい物体だったのでそれが余裕でできた。
そして証拠の音声を録音したのだ……。実際これは、結構簡単な事だった。
しかし、合内とのタイマンは、少々複雑な方法だった。
実は勝馬が一度も攻撃を受けずに、相手にだけ攻撃を入れるようなあり得ない戦いができたのは『量子コンピュータと量子ネットワーク』など使ったからだ。
勝馬の部屋には水口に譲った家庭用スパコン以外にも、一回り小さい黒い物体があった。それが、非売品の『家庭用量子コンピュータ』だったのだ。
その量子コンピュータと量子ネットワークなど使って、視覚や聴覚といった人間の身体機能を増幅させたのだ。
この方法は少し複雑ではあるが、結果、人間離れした動きができるようになったのだ。
もっとも方法が複雑故、あまり簡単には出来ないが。
(要はこの人は、量子コンピュータとかが欲しいんだろうな……どうせ後から遠回しに売ってほしいみたいなことを言ってくるだろうな……そうなる前に適当に話しを切ろう)
実はこの時代では量子コンピュータは開発されているが、世には出ていないし、出さない方がいいのだ。量子コンピュータが世に出回ると、いろいろと世の中がメチャクチャになってしまう可能性があるのだ……。
そういった物は、持つべき者以外持ってはいけないのだ。
また、到底芝辻もその持つべき者ではないだろう……。
(もうめんどくさいな……)
「あの、ちょトイレ……」
勝馬は勝手に通信を切った。
(今日以降このオッサンとの話は終わりだな。ずっと無視しよう)
芝辻との目的も大体はっきりしてきた今、もう相手をする意味がなくなってきた。もうこれ以上は、関わる意味がなくなった。勝馬はそう考えた。
読んでくれてありがとうございます。




