5-1
続きです。
「合内君、君は弱いな……」
「……黙れ! ……」
「ふぅッ……」とあきれるように勝馬はため息をついた。
合内と勝馬は一対一を張っていた。
勝馬にとってはかなり珍しい事だ。と言うより全くない事と言ってもいいかもしれない。
「俺に勝てるんじゃなかったのか? 合内君」
「……お前……」
勝馬は余裕だった。
合内はボロ負けのような状態だった。
「念書は書いたから、恨みっこなしだよ……」
(こいつ、なんでこんなに……)
合内は後悔した。
誤算だった。確実に自分より弱いと思っていたし、勝てなかったとしても善戦はできるはずと思っていたからだ。
しかし顔も体も至る所にアザができて、しかも何度も地面に倒れたのか、全身砂だらけになって苦戦していた。
これは、2時間ほど前のことだ。
勝馬は家でいつも通りパソコンをいじっていた。
そうしていると、また合内からの連絡が入っていた。合内はウザいやつである。
(またアイツかよ……そういえば何か言いたそうだったな……でも相手したくないな)
合内はこの前、永栄や水口と話しているときにも、なにやら連絡を入れてきていた。
また、合内と言う人物は勝馬にも勝馬の階級や権利にも前から不満を持っていたようだ。そのことを追求したいのだろう。
と言うのも確かに合内にしてみたら、不満だろう。合内は勝馬やほかの二人の友達とも違って、階級が低い。
階級が低いと当然不満にもなるだろう。
だから合内は、こう言いたいのだ。「なんでお前の階級が高いんだよ」と……。このことを勝馬に質問してきたのだ。合内も一応は同じ学校の人間で面識はある(仲良くないが)。
まあこの質問を無視してもよかったのだが、最終的には誰かが答えないといけないし、合内は不満を持つと暴れまわる可能性があるのだ。
そのため、放っておけなかった(放っておきたかったが)。
(アイツ物事を理解する脳みそあんのかな……)
[価値が高くてもお前は弱いだろ?弱いから権利があるんだろ?]
合内はこのような自己中心的な考えのメールをよこしていた。
これは、どう考えてもSQや知性指数を全く理解できてない人間の考えだ。
(バカが……迷惑人間が……)
合内はわざわざこのような余計なことを言ってしまうのだ。
(わざわざ余計な事言うなよな……)
合内と言うのはこのような余計なことを言ってしまうから、問題が起こりやすいトラブルメーカーなのだ……。
「権利があるのはお前が弱いからだろ?」
「弱いと?」
勝馬はネットで合内と通話を始めた。
また、勝馬は一応は低ランクな人間でも意見は無視せず話は聞いている。もっとも本当は聞きたくないが……。
「ああ、そうだよ」
「……」
「価値が高くても弱かったら意味ねーだろ?」
「そもそも弱いって何?」
「何も喋れねーことだよ」
(何でもかんでも考えずに喋ってしまうこともマズイと思うけどなぁ……)
要するに合内が言いたいことは、“自分の主義主張がまともにできない人間は弱い”である(この考えが正しいかどうかは不明だが……)。
これに対してなんとか合内を納得させるような言葉を考えていた。
正直これはかなり難しい事である。バカな人間以上の知性を持つことぐらいは簡単である。しかし、「バカな人間を納得させるとなる」と容易ではない。
「人に物を教えること」は尋常じゃないほど難しいのだ。それも相手が言葉を理解するほどの知性がなかった場合は尚更だ。
(コイツにどうやって物を教えたらいいんだよ……)
「価値の高い人間のことなら最近から知ったてたが、どう見ても弱いだろ? 全然喋れねーだろ、全然意見言えねーだろ」
「まあ弱いようには見えるな、確かに……」
「自己主張をしすぎる人間ってのも全然忍耐がないってことで忍耐がなく鈍感でもあるってことで、それを強いと言えるかどうかは不明なのだが……」と言うこともできたのだが正直、合内は昔っから、しつこすぎて勝馬の言葉が届くかどうか不明だったのだろう。
「言葉で何を言っても無駄かもしれない……」と勝馬は考えてしまった。
「価値が高くても弱かったら意味ねーな! そうじゃねーのか?」
(何で弱いと価値ないといえるんだ……)
実際合内のメンタルは強いようで弱く、そんな弱い人間にも大した価値はないのだ。
本当は合内は弱くて、そして当然価値も低いのだ。また“強さの基準”自体、合内は何も知らないだろう。
合内はその言動の矛盾や不明点を理解していないのに勝手に何もかも先入観で決めてしまってるのだ。
「だから弱いから権利があるんだろ? その弱さを補うためによ! そーじゃねーのか?」
正直ダメ人間の誤解には慣れていたが、勝馬もムカついてきた。
(コイツを黙らせるには、普通の方法では無理か(ムカつくし)……オヤジからもらったものもあるしな……)
「合内君、ここは一対一でも張るか? 単純で分かりやすいだろ?」
合内にとっては願ってもない事だった。
「……いいのかよ? 吉川……」
「いいよ」
勝馬は、本来はこんな選択はとらない。相当嫌いな相手だけだろう……。
勝馬自身がタイマンを張っても合内を黙らせたいと思うほど合内を嫌っていたのだ。
また、合内は、よほど勝つ自信があるのか嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
まあケンカに関しては多少の自信があるのだろう。
「でも、こっちも聞いとくけど、本当に良いのか? 後悔はない?」
「ねーよ別に……」
「一応念書は書いてもらうよ。俺も書くから……お互いケガをさせてしまった時のためにな」
「ケガ……どっちがするだろうな?」
「さあな……」
実際本当は会いたくなかった。しかし死んでからじゃないと分からないような奴には言葉での説明は不可能と思ったのだ。
また、勝馬は口論程度であればあるが、タイマン張ってケンカとなると人生でほぼゼロで、全く自信なんかない。
勿論、それが普通のケンカであれば……。
(誰が普通にケンカなんかするか……)
普通にケンカをするつもりは全くなかった……。
しかしタイマンは武器を使ったりはできない。素手の一対一である。それがルールでケンカであってもルールはあるのだ。
そして勝馬はしばらくしてから少し家から離れた場所の、昼間でもほとんど人気のない空き地まで来た(一応誰にも見られたくないため)。
勝馬は動きやすいよう上下黒ジャージだった。
ここには人も誰も居なかった。近くには空き缶やゴミが転がっていた。一応は鉄パイプや木の棒のような危険物はなかった。
すると2、3分経ってから、なんか栗のような丸い顔でワックスともアブラとも分からないものを自分の髪に付着させたフケだらけの非常に汚らしい髪の、有害を具現化したような訳の分からない生命体(合内)が接近してきた。
服装は上はアロハで、そして下はジーンズのような生地の黒いズボンでポケットに手を入れていた。
嫌なスタイルだ……。一応は汚れてもいい服を選んだのだろう。
一応は一人で来た。
合内からはワックスとも香水とも分からない臭い匂いがした。
勝馬は嫌悪した……。
「お前ホントに良いんだな?」
ガムを食べてるのかクチャクチャ言いながら聞いてきた。汚らしいやつだ。
「君こそいいのか?」
「俺は余裕だぞ」
合内は余裕の様だ。
そして合内の体格は身長175程度、体重は約70前後である。
対して勝馬は、背は170程度、体重は52程度である。つまり勝馬は、かなりやせ形である。
ウェイトでは合内の方が上なのだが……。
「一つだけ聞きたいんだけど念書は用意してくれたかな?」
「書いたぞこれでいいか?」
合内はポケットから細かく折りたたんだ紙を取り出した。
勝馬はそれを広げて、さらっと目を通した。
「まあいいよこれで……」
(どうせ手加減するし特権あるからな……)
念書の内容なんか多少適当でもよかった。勝馬にはどうせ特権があるのだ。
また、勝馬は最初から普通の勝負なんかするつもりがない。かと言ってあからさまな反則行為をするつもりもない。
「では始めようか……」
どうもありがとうございます。
よかったら点数とか感想とかも付けたり書いたりしてほしいです。




