第七十七話:「夢がよかった」
気が付いたら一ヶ月以上経ってましたね、弓槻です。
読者様、大変お待たせいたしました。
姫の最新話です。
あ、お知らせが八つほどあります(多い
・えむさんの指摘により、今までの前書き後書き削除しました。今後は最新話だけに書いていくつもりです。
・それから、姫の夏休みの間のお話をブログに移す考えです。何にせよ多すぎ。
・ブログは明日、きちんと更新します。今日はもう眠いから許して。
・これから一ヶ月に一回ぐらいの不定期更新……かも。
・学園祭の番外編、やっと書き終えました。うっかりデータ抹消してしまったあの頃の自分を張り倒したい。
・ブログで細々と平安版の姫を書いていこうと思案中。
・金曜日、バイト先に携帯電話忘れてきてそろそろ禁断症状がやばい。明日取りに行って来ます。
「「特進クラスとその他諸々inフランスー!」」
遍さんと艶子ちゃんが仲良く手をつなぎ、せーのと足を揃えて空港の出入り口を飛んだ。そして着地した。
二人とも、ノリが一緒だ。案外ウマが合うのかもしれない。その他諸々ってのは、僕と壱と琉しか当てはまらない。
普段の僕なら、指を差してでも笑っていただろうか。もしくは、苦笑しながら注意していただろうか。
だが予測は予測。所詮は僕の想像でしかない。
『大人になるって事は、一緒にいられなくなるって事なんだ』
『千歳もそれを知ってる』
何時間か前に聞いた、彼の言葉が重くのしかかる。環は一体何を考え、僕に打ち明けたのだろうか。
大人になるってどう言う意味? 千歳は前から知っていた?
考えれば考えるほど坩堝にはまっていく。
それでも、先を歩く千歳の肩が揺れているのを見て、心が多少軽くなったような気がした。
とりあえずは、あの二人に感謝すべきだろう。遍さんや艶子ちゃんが騒ぐ度に、気持ちが軽くなっていく気がする。
「……よし」
一生に二度とない、修学旅行なんだから。さっきの事は帰国するまで忘れよう。最後の最後まで、楽しみたい。環の言う通り、いつか彼ら四人が離れ離れになってしまうのだとしたら……僕は少しでも、多くの思い出を彼らの中に残せるように頑張るだけだ。
先を歩く千歳の肩は、まだ少し揺れている。
――恐らくは笑っているであろう彼女を見るために、僕はその背中を追った。
笑顔を見れたかどうかは、ご想像にお任せ。
○○○
翌日の夕方。
昨夜、ホテルにチェックインした後は各自の部屋で待機となり、結局どこへも行かなかった。
そして今日はクラスごとの団体行動でルーブル美術館の見学が主だった。てか全部それ。集合時間だけ決めて、各々が好きなように周り半日を過ごすと言うなんとも充実したいい一日だった。その後はレストランで夕食をとり、ホテルに帰ってきた。フレンチに大満足。
ホテル帰宅後は自由に行動してもいいと担任教師様からのお告げがある。……と言っても、ここは日本より治安が悪い為にホテルから半径50メートルまでらしい。この時ばかりは、学年全体がひとつとなってずっこけた。
とまあ、そんな訳でたった50メートルなら外出する価値なしと決め込んだ同部屋である佑樹と圭司と僕は、とりあえず世間話をしながらトランプをしていた。種目名、ばばぬき。
「ねみぃなー」
「はぁ? 佑樹、レストランに向かうバスの中で爆睡してたじゃん」
あくびを漏らす佑樹に、妖精さんが見えなくなった(立ち直った)圭司がカラカラと笑ってツッコミを入れる。見慣れた光景だ。
僕らが三人集まった場合、ボケとツッコミの役割はローテーションでぐるぐると回る。誰かがボケれば誰かがツッコんで誰かが笑う。それなりに居心地のいい空間と言ってもいい。
「ほら、秋。ちゃっちゃと選べよ」
「う、うーん……」
佑樹の持つ手札は二枚。圭司は既に終わっていて、僕と佑樹の一騎打ちとなってしまったのだ。
さあ、どうする僕。右か、左か? 二者択一。これほど難しい事はない。
「ほら、ほらほらほら」
「佑樹うるさい」
「はっはっは。気にすんな……ん? 誰か来たみたいだぜ?」
コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえ、三人揃って首を傾げる。
何の用だか知らないが、こんな男三人が集まるむさ苦しい部屋に来るなんて相当の物好きだろう。いや、もしかしたら担任様かもしれない。佑樹が何か不祥事でも起こしたのかも……。
「誰だ? 圭司か秋の客かな?」
「さあ? 俺は知らないけど?」
「僕も知らないよ? でもまあ、いいんじゃない? 見られて困るようなものもないし……外で待たせるってのもアレでしょ」
コンコン、と再度聞こえる催促の音。何やら早くしろと急かされているようだ。
仕方ない。よっこらせとオッサンくさい事を呟きながら重い腰を上げる。ここのホテルは鍵がない限り、中から開けないと入れない仕組みになっているのだ。もし閉め出されてしまった時は廊下で夜を明かす事になる。
「はいはい、いらっしゃいま……え?」
目の前にある面子を見て、自分の目を疑った。
「アキくん一時間ぐらい久しぶり。会いたかったよ?」
「こら遍。そう言う冗談を人前で言ったらダメだよ」
「ん? 秋、お前風呂上がりか? 髪が濡れているぞ」
「おふぅ! 向坂くんの風呂上がり頂き! これは目に焼き付ける事、必須ですね! 今、あたしの血液が鼻に集中しようとしている!」
特進クラスの中でも選りすぐりの一部。通称、天才組の女性陣が部屋の前にいた。……夢?
「夢じゃないぞ、秋」
「ですよねー」
あっはっは、と僕の軽やかな笑い声が、むなしく廊下に響く。
「それで、みんなどうしたの?」
首を傾げて問えば、ニヤリと笑う女性陣。ああ、何だかとても嫌な予感。
心中で得体のしれない恐怖と不安に駆られる僕を知ってか知らずか、遍さんは胸元からカードを取り出す。
「これ、何か分かる?」
「その前に、どこから取り出してんだよとツッコミたい」
「気にしない気にしない。……実はこれ、招待状なんだ。秋くんも、行くでしょ?」
遍さんの白い指先は自らの唇をなぞり、それは妖艶に半月を描く。
アキくんではなく秋くんと言われた事に違和感を覚えながら、僕は何も言えなかった。……前々から思ってはいたけど、色気ありすぎです。
「うわっ、アキくん照れてんの? かわいー」
面白いものを見たと遍さんは口に手を当てて笑い、上目遣いでこちらを見ている。その横でお腹を抱えて笑っている理月さんと、呆れたような顔をして遍さんを窘める千歳、まだ鼻を押さえている艶子ちゃん。
先ほど行われた遍さんの仕草は日本にいる汐姉みたいで、人知れずその姿を脳内で思い描いた。シスコン? 違うよ、姉思いなだけだよ。