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第七十三話:「ユリカちゃんは元レディース(噂)」

 それから時は経ち、生徒会の数人に手伝ってもらって何とか立つ事が出来た理月さんと僕(アルプスにおじいさんと二人で住む少女を主人公にした某アニメの名ゼリフを佑樹が叫んでいたので、それは後で殴りに行くとして)。足をひねった僕らはそのまま保健室に直行。授賞式を済ませた後に壱は多少の打撲、千歳は擦り傷、会長は体調不良と言う何とも変な形で保健室に全員集合してしまった。


「この私に、ここまで手間かけさせるんじゃねーよ、バカ共がっ!」


『ごめんなさい……』


 五人仲良く保健室の主に謝罪する光景は何とも言い表せない。ところで、ユリカちゃんの頭に二本の角が見えるのはツッコんだ方がよろしいのでしょうか。いや、やっぱり止めとこう。幻覚だよね? うん、そうに決まってる。


「向坂ァ! テメェ何よそ見してんだ、アァ゛!?」


「ひょええっ!」


 怖えー! びっくりして生きてる内にそう出す事のない声出しちゃったよ!


「先生のありがたーいお説教を聞かないなんて悪い子だな。よし、根性焼きするか?」


「しませんしません! 許してくださ、イヤァー! 笑顔で煙草を近付けないでー!」


「安心しろ。顔に傷は付けん」


「それは不良のよくやる手口なんじゃ!?」


「お、よく分かったな。ご褒美に後で特別折檻だ」


「うきゃー!」


 墓穴掘ったー! と頭を抱える時間もユリカちゃんは与えてくれず、そのまま保健室の床に組み敷かれる。ちょ、マジ? 根性焼きとか冗談でしょ? ってか、貴方は仮にも教師デスヨ!?


「私は欲望に忠実な教師だからなぁ」


 ダメだこの人ー!


「せ、先生っ! どうかその辺で許してやってください!」


 か、会長ナイスっ! 背中から後光が見えるよ!


「あ、あぁん? んだ、テメェ。体育の授業中、ここのベッドを貸してやった恩を忘れたのかぁ?」


「……」


 押し黙る会長。弱い、弱いですこの人。ってか生徒会長がサボっていいのか。


「会長、そんな事していたのか……。私だってかったるいのを我慢して出ていると言うのに……」


「最低ですね、会長。副会長の私ですら真面目に出席しているのに」


「あはは。非難轟々ってヤツだねー。秋ちゃんも俺も今回ばかりはフォロー出来ないよ」


「すみません……」


 心なしか、会長の体が縮こまっている気がする。しかしそれだけじゃあ飽き足らないようで、ユリカちゃんの悪意の矛先は千歳へと向いた。


「ところで日宮、お前は私がいない間を見計らって保健室に侵入しているそうだが?」


「……それが何か?」


「ピッキングは犯罪だぜ」


 え、ピッキングなんてしてるんですか千歳さん。それってマズイですよね、ヤバイですよね、アリエナイですよね。どこでそんな高度な技術を会得したんですか。


「……何故それを」


「柏木が言ってた。『私にもピッキングの仕方教えてねー。その代わり最高レベルのハッキングを教えるよー』だそうだ」


 なんだその別次元な会話。そしてあまりにもそっくりな声マネでした。声帯模写ってヤツですね。


「でも、何で保健室に?」


「んー。ここは何気に設備がいいからね。食堂のテレビよりこっちのテレビの方が画質いいし、冷蔵庫にユリカちゃんが愛飲あいいんしてるコーラいっぱいあるし。まあ、ユリカちゃんが買い貯めたおつまみ食べながら家から持ってきたノートパソコンでネットサーフィンでもしてるんだと思うよ?」


「……っ」


 千歳と話すのに夢中なユリカちゃんの下からなんとか抜け出て、何か知っていそうな理月さんに問いかければ苦笑いと共に返答があった。千歳も何やら図星のような感じでビクリと肩を揺らしていた。学校に何しにきてんの?


「しゅ、秋。そんな目で見るな」


「いや、そこまで傷つかなくても。別に責めてるって訳じゃないし。ただ、何で保健室なのかなぁって思って」


「だって……保健室は居心地がいいし……授業は退屈でつまらないから」


「あー、分かる。遍はいつも屋上らしいけど、サボるのには保健室が一番いいって言ってたしね。サボると言えば、艶子は学校にいないで家に帰っちゃうんだよ。早退になっちゃうからやめろって言ってるのに。なんだったら、私がいつも使ってる生徒会室にいてもいいんだけどなあ」


 うむ。特進クラスの女性陣は相変わらずなようです。


「そういやぁ梁川も……」


 ユリカちゃんが口をつぐむ。それは何故か。理月さんの笑顔が黒いからです。いや、決して嘘ではなくマジで。


「冷蔵庫の一番奥」


「うが」


 理月さんの呟きにうめき声を上げるユリカちゃん。


「一升瓶」


「ぐあ」


「職務怠慢でコンビニへ」


「あう」


職権濫用しょっけんらんようで保健委員をパシリに」


「ぎゃ」


「校長を脅して――」


「ス、ストップ! 私が悪かったからもうやめてくれ!」


 今の会話を見てて思ったのだが、もしかしたら理月さんって最強なのかもしれない。うん、なんとなくだけど。


「一体どこでその情報を手に入れたんだ……」


「別にいいじゃないですか、そんな事」


 うふふと笑いながら髪をくるくる指に巻きつける姿は悪女そのもの。うう……どうしてだろうか。何故か汐姉の顔が脳裏に浮かびました。


「ねえ、秋ちゃん」


「んあ?」


 肩を叩かれたので振り向いてみれば、そこには壱の姿。頬をポリポリと掻いて、大変お困りの様子である。


「会長がさっきから部屋の隅で何かやってるんだけど……」


「……」


 壱が指差す方向を見れば、確かにいた。部屋の隅に背中に哀愁漂わせる会長が。


「……僕は何も見てない。僕は何も見てない。めんどくさいから何も見てない」


「おーい。現実逃避はやめてー」


「やだ」


「現実見ようよー」


「い、や、だ」


 収拾不可能となったこの現場に現実などいらないのさ。……なんて、ダメ人間の言い訳みたいな事を思ってみるのだった。ふう、コーラでも飲むか。




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