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第七十一話:「反省会と言う名の後日談」


 学園祭が終わり、一日だけの振替休日をダラダラと過ごした。

 そしてその翌日、いつも通り安寧な(?)学校生活を迎えたとばかり思っていた僕の考えを否定するかのように、スピーカーから流れる名前。思わず自分の耳を疑った。


『向坂秋くん、日宮千歳さん、斎木壱人くん。至急生徒会室へお越しください。これは生徒会長命令です』


 鈴の鳴るような声で紡ぎ出される名は、間違いなく己の名前。その聞き覚えがある声が誰だか気付いた。学園祭の時に千歳から紹介された友達、理月さんだ。


『特に日宮千歳さん。サボろうなどと考えてはいけません。そうなった場合は私が副会長の権力を最大限に行使して、全校生徒の目の前でスリーサイズを暴露及び授業中の居眠り写真を配布しま――』


 スピーカー越しに聞こえる、壊さんとするような扉を叩く音。いで聞こえたのは、怒りに染まった聞き覚えがありすぎる低いとも高いとも言い表しにくい声。


『理月っ! スリーサイズは個人情報だろうがっ! 大体、いつ盗撮したんだお前はっ!』


『スリーサイズは遍から教えてもらって、写真は遍から』


『またあいつか! と言うか結局、全部遍の仕業なのか!?』


『うん。遍、悪戯に関しては凄いから』


『笑顔で開き直るなっ!』


『あ、向坂くんと斎木くん、早く来てください。日宮さんはここにいますから』


『おいっ! 何を勝手に――』


 そこで途切れる校内放送。教室までならず、廊下――いや、学校全体が静寂せいじゃくに包まれる。皆、状況を理解出来ていないようだった。

 その空気に堪えきれず、僕は教室を飛び出して生徒会室へ向かった。何があるのかは見当もつかないが、あの教室にいるよりはマシだと数秒で判断したからだ。




○○○






 生徒会室でまず最初に見たのは、ご機嫌斜めな千歳と人のよい笑みを浮かべる理月さん。それとヘラヘラ笑う壱人に、くつろいでいる生徒会長。女と男で、向かい合うように黒い革張りのソファーに座っている。

 美形が集まると、脳内で背景に薔薇がプラスされるらしい。初めて知った。


「秋ちゃん、おはよー」


「アキくん、おはよう」


 にこやかに笑顔で接してくれる壱と会長におはようと返しつつ、とりあえず会長の横に座った。


「おはよ、向坂くん」


「あ、おはよ。副会長も大変だね?」


「あはは、まあね」


 綺麗で可愛らしい笑みを向けられ、少し気恥ずかしくなりながら言葉を交わす。

 美少女としか言いようのない整った容姿に、これまで何人もの男が魅了されたのか……。人柄良し、愛想良し、成績優秀に眉目秀麗、スポーツだって出来る才色兼備。ここまで完璧な人間、僕は見た事ない。


「秋、おはよう……」


「あ、う、うん。おはよう……」


 どんよりとした空気を全身から漂わせている千歳に、面食らった。ただその気持ちも分からなくはない。僕の場合は実の姉の手によって個人情報を漏出されているのだ。


「暗いぞ、日宮。もう少し明るくしろって」


「会長……他人事だと思って……」


「そう言われても、本当に他人事だからなあ」


 苦笑いする会長と、半眼で睨む千歳。確かに、先程放送された内容は所詮しょせん他人事に過ぎないだろう。それならば、早めに用件を聞いてさっさと退散した方がいい。


「ええと……何で僕達は呼び出されたの、かな?」






○○○






 騒がしい体育館内に、反響する高らかな声。姿の見えない放送部員は、スピーカーから己の存在を主張する。


『只今より、学園祭反省会と言う名のベストカップル授賞式、開催しまーす!』


 戸惑う二種類(男声と女声)の声が入り混じり、木霊こだまする。

 僕はその様子を舞台袖から見ていた。……何故だ。何故こんな事になった。誰か一から十まで今の状況を説明してくれ。


「ベストカップルだと? はっ。バカバカしい」


 右隣の千歳が鼻で笑えば、左隣の壱が首を傾げる。


「って言うか、何で俺達ここにいるのかな?」


「僕だって分かんないよ」


 何も知らされずに、連れられた先は体育館の舞台袖だった。全校生徒が揃っているは、訳分からん企画を発表されるはで、脳内はパンク寸前だ。膨大な情報量を整理出来ていない。


『今年は事情があり、二年生のイベント不参加と言う学校側の判断に不満たっぷりな方々の怒りを沈静化すべく、水面下で生徒会と写真部が作り上げた企画であります! 審査方法は生徒会と写真部の独断ですが、必ずや皆さんも納得出来る結果と言えましょう!』


 事態がようやく飲み込めた全校生徒達は、いいぞー、やったー、などの野次を飛ばして煽り始めた。

 うん。状況は分かった。でも、それじゃあ何で僕はここに? 両隣に立つ二人も訝しげに顔を歪めている事から、僕と同じ気持ちであるのだろう。


『まずは第三位! 学園祭に多いに貢献してくれた二人組です! こちらをご覧ください!』


「何だあの仕掛けは……」


「うっわー、大掛かりー」


 突如として天井から垂れ下がってきたスクリーンに、唖然とする千歳と壱。映画館並みの大きさがあるソレに、流石の全校生徒達も困惑気味である。


『正体不明の謎の美女と我が校のお姫様です!』


 スクリーンに映ったのは、いつぞやの写真。その二人組は間違いなく、女装している僕とゴスロリ千歳。

 体育館は『可愛い』『綺麗』『誰!?』と、様々な叫びで埋め尽くされる。


「ほう。やはり、アレはお前だと気付かない者が大半のようだな」


 ニヤリと口の端を吊り上げる千歳の姿は、何故かしてやったり顔。壱が僕の肩を叩いて慰めてくれる。ありがとう、壱人くん。僕はいつも君の優しさに助けられてばかりだね……。


『この美女が働いていた某クラスの委員長に尋ねた所、このような回答を頂きました』


「桐谷さんに……?」


「一体どう答えたんだろうな?」


「フォローしてくれてるとは思うよ? 秋ちゃんを追い込む事はしないでしょ」


『名前は秋子ちゃん、委員長さんの友達で、普段は女子校に通う十七歳。働いていたのは友達のよしみとして手伝ってくれたから――だ、そうです』


「見事に嘘だねー」


「あいつは詐欺師に向いてるかもな」


「……あはは」


 ナイスフォローですね、本当にありがとうございましたとしか言えません。これって助かったのか……?


『我が校の制服を着ていますが、それは委員長が用意したものであり、当校の生徒ではないので探しても無駄です。卒業生の一人ではないかと言う説もありますが、全くの無関係のようです。他人のそら似と言うヤツですね』


 えー、と不満の声を上げる男子一同(女子も含む)。複雑な心境を抱えたまま、放送部員によって企画は進行していく。


『ではでは、続いて第二位ー!』


 まだ続くんですか。もう勘弁してください。

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