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第六話:「馬鹿もたまには役に立つ」


 そして現在。僕は食堂でオムライスを眺めていた。うん。視線が痛くて食欲無くなっちゃった。逆に胃が痛くなったけどね。

 あれから大変だった。千歳の手を握った事で姫フリークの友人からは睨まれるし、クラスメートからは、『何で? え?』みたいな顔されるし、三騎士に無理矢理食堂連れてかれるし。千歳の手を握ったままだから、廊下に固まってた方々や教室の廊下側の窓から顔を出す方々に睨まれるし。そう言えば、体育教師の大山からも睨まれた気がする。もう笑うしかない。


 当然、廊下には姫ファンも居た筈だ。明日からの学校生活に不安を抱いてしまう。いっその事、不登校になってやろうか。ああ、もう、笑うしかない。


「……憂鬱ゆううつだ」


 小声でボソッと呟く。

 目の前には美形三人組こと三騎士が勢ぞろい。隣には、全校生徒の憧れ日宮千歳。あれ、コレって両手に花状態じゃない? 今の状況じゃ片手と目の前に花だけど。






○○○






 以前、バカ(姫フリーク)から教えてもらった情報は姫の事が主だったが、その中に三騎士が含まれていたのを憶えている。と言うか、その情報が書かれたメモを貰った。捨てるのが面倒で、内ポケットに入れっぱなしにしていたのが功を奏したみたいだ。

 バカもたまには役に立つと言う事を証明された歴史的瞬間だ。お礼に、あとでジュースでも買ってやる事もなくはないかな?

 僕は内ポケットからメモを取り出し、テーブルの下でソレを開く。


 ――その一、草食獣を狙う肉食獣みたいな目で僕を見る美形の情報。


 庵原いはら琉二りゅうじ

 運動神経抜群。成績は下から数えた方が早いらしい。素行が悪く、言葉遣いが荒い。しかし顔がいいので女子からの人気は絶えない。言い寄ってくる女子には厳しいが、その他の女子や男子には割りと優しいと評判。


『顔が良いからって何だ! 俺達にはハートがあるだろ!! by佑樹(ゆうき)


 ――その二、親のかたきを見るような目で僕を見てくる美形の情報。


 明瀬あかせたまき

 成績は常に上位をキープ。運動音痴。丁寧な物腰とはっきりした態度で生徒から親しまれる。教師がつける最も逆らってはいけない生徒ランキングで見事一位に輝いた経験あり。理由は、以前逆らった教師が異動になったから、が一番多かったとの報告。


『コイツには逆らわない方がいいぜ。by佑樹』


 ――その三、僕が最も友達になりたい美形。


 斎木さいき壱人いつひと

 成績並。運動並。しかし素行の良さで教師からの信用は厚い。明るい言動から、男女問わず親しまれている存在。


『怒ると結構怖いって話だ。by佑樹』




 う、うぜー……。バカ(佑樹)の個人的感想がどうしても目に入ってしまう。コイツ、嫌がらせか? 僕に対しての嫌がらせと解釈しても、いいんだよな? あとで100%オレンジジュースを目にお見舞いしてやる。味わって悶えろ。そして願わくば、その脳にいたカビが消えますように。オレンジの除菌効果で。

 それにしても、三騎士の名前初めて知った。今まで興味無かったからなぁ。千歳の事はテレビ見てれば嫌でも目に入るし、バカ(佑樹)が語るから知っていたけど。考えてみれば、三騎士とは初対面なんだよなぁ……ん? 初対面?


「……僕達、初対面ですよね?」


「うん。そうだよ?」


 よかった。壱って人は、僕の問い掛けに答えてくれた。他の二人は完全無視だけど。


「じゃあ、何で僕の名前知ってたんですか?」


「ああ、それはね、この前、人見知りの千歳が秋ちゃんの話をしたからなんだよねー」


「い、壱人!」


「別にいいでしょ? 聞かれて困るようなこと言ってないんだし」


「確かに聞かれて困るようなことは言ってないが………後で覚えてろよ、壱人」


「はいはい。分かったよ。まあ簡単に言うと、めったに他人の話をしない千歳が、初対面の秋ちゃんと手を繋いで仲良くお喋りしたって言うのを聞いて、秋ちゃんに対する不満が爆発しちゃったって訳なんだよ」


「はあ」


「あ、俺の事は壱って呼んでよ。同い年でしょ? 敬語も止め止め。琉と環も、呼び捨てにしちゃっていいよ?」


 あははははー、と能天気に笑う壱。うーん。今までに見なかったタイプだ。それより、琉との手がプルプル震えてる事に壱は気付いてないのだろうか? あ、無意識で呼び捨てにしちゃってるし。これは千歳の影響?


「ふっ……ふざけんなっ! 俺はコイツを認めた訳じゃ――」


「俺、認めた憶えは無いよ。それに、気安く名前で呼ばれたくな――」


 二人が硬直する。何故か。そう、何故か壱の方を向いて。壱の顔は僕達から見えない。食器を載せるトレイで顔を隠しているのだ。スーッと血の気が引いてく琉と環。トレイの向こう側で、壱はどんな顔をしているんだろう。


「……あっちで俺と、お話しよっか?」


 トレイの向こう側から、今までの壱の声より一オクターブ低い声がした。


「い、いや! 俺はいい!!」


「俺も、遠慮しておく!! これから宿題やるから!!」


「……お話、しよっか?」


 必死の抵抗を見せる二人。しかし壱はソレを無視。


「……」


「……」


「お話、しようね」


 疑問符が付いてない。断定だ。断定されてる。壱はトレイを持ったまま、食堂を出て行った。その後に、肩を落とした二人がついて行く。……なんか、不憫ふびんに思えてきた。


 隣の千歳と顔を見合わせる。


「……千歳」


「……何、秋」


「この空気、どうしよっか」


「……とりあえず、食べた方がいいんじゃないか? 昼休み、もう直ぐ終わりそうだし」


「……そうだね」


 まあ、数分後にはこの空気も霧散し千歳と楽しく会話しながら昼食を食べれたので、よしとする。ああ、それと何だか、三騎士が居なくなってから視線が随分と増えた気がする。多分僕の気のせいだろうけど。

 そして結局、昼休み中に三人が戻る事は無かった。



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