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第五話:「三騎士登場」

「向坂秋! 出てこいオラァ!!」


 そんな暴言と共に入ってきたのは、黒髪を短髪にした少年。ちなみに、入ってきたのは教室の教卓側のドア。ネクタイは赤だから二年生か。一言で表すと美形。

 って言うか、僕に何か用なんだろうか。


りゅう、君はもうちょっと礼儀と常識ってモノを知った方がいいと思うな」


 黒髪短髪の少年の後ろから、茶髪で猫っ毛の少年が出てきた。これまた美形。


たまきも人の事言えないと思うよ?」


 またまた美形登場。今度は金に近い茶髪を持った美少年。何か不良みたいで怖い。でも喋り方はソフトだ。何か背中から優しそうなほんわかオーラが出てるのは、僕の見間違いと言うか錯覚だろうけど。

 三人の美形が集まった扉の周りだけ、異空間と化している気がする。何だここは。美形の国か?


「琉、環、いつ! 止めろと言っておるだろうが!」


 ………あれ? どこかで聞いた声が、美形三人組の後ろから聞こえた気がする。


「千歳は黙ってろ! 俺はそいつの顔を見なきゃ、腹の虫が収まらねぇんだよ!!」


 琉と呼ばれた美少年が、後ろを振り向かずに言った。顔は教室を向いていて、教室内を見回している。その目は、肉食獣のようにギラついていた。

 ………ギラついていると言えばタケちゃんを思い出した。アレはまた違った意味でのギラついている、だな。って言うかやっぱり千歳だったんだ。


「俺も琉に賛成。千歳が気に入った奴、見てみたいし。それに何だか信用出来ないから、会って確かめるんだよ」


 環と呼ばれた美少年が後ろに居る千歳の方に振り向き、さとすように言った。どうでもいいけど、信用出来ないって僕の事? だとしたら結構傷付く。


「俺はどっちでもいいんだけどねぇ」


 壱と呼ばれた美少年は欠伸あくびをしながら言う。なんかその動作でさえも様になっているのは何故だろう。美形って得だ。別に美形になりたいとは思わないけど。


 薔薇姫と三騎士。


 その組み合わせに、クラスは阿鼻叫喚と化した。

 と言うか、四人が話してるのってどうも僕っぽいよ。て言うか、名前言われたんだから僕に決まってるか。あはは。どうも、僕の中にあるヘタレな心が話題に出てる事を拒否してるんだよね。


「向坂秋って誰だよ」


 琉と呼ばれた美少年が頭をガリガリと掻きむしる。相当イラついているご様子だ。何かいちいち動作が怖いんだよな、この人。


「千歳に聞けばいいんじゃない?」


 ニコニコ笑いながら言う環と呼ばれた美少年。それが逆に怖い。お友達になるなら、あの後ろからほんわかオーラ出してる人がいいな。


「それもそうだな。千歳、行ってこい」


 琉と呼ばれた美少年は、千歳の腕を引っ張って、教室の中に入れた。

 クラスの女子が悲鳴を上げ、男子は彼女を紅潮した頬で見る。姫フリークの野郎なんて、興奮の余り鼻血を出している。後でちゃんと掃除してよ。

 彼女が一歩踏み出す。クラス中が、釘付けになった。教卓の前に辿り着き、彼女はクラスを見渡す。


「……」


「……」


 ――目が合ったその瞬間、僕の体は硬直した。彼女が無表情でこちらを見つめ、覚束おぼつかない足取りで歩き出す。

 教壇からこの席までは数秒の距離だけど、何十秒と長く感じた。そうしていつの間にか目の前に千歳が居た。彼女は無表情で僕を見ている。静まり返る教室の中僕と彼女は見つめ合う。


「秋……」


「……」


 僕は返事をしなかった。いや、出来なかったと言った方が正しい。返事を返したら、何かが変わってしまうような気がして怖かった。


 ああ。なんて、臆病者。


 千歳が返事をしない僕を見て傷ついたような、悲しそうな顔をする。無表情が微かに、ほんの数秒だけ変わった。今更ながらに僕は後悔した。彼女を傷付けて、悲しませてしまった事に。

 彼女は何かを言おうとするが、直ぐに閉口する。俯いたまま首を横に振り、背中を向け立ち去ろうとした時、僕は思わず彼女の手を掴んでいた。


「……っ」


 ――彼女が振り向く。その表情は驚愕。目を見開いて僕を見ている。

 綺麗な紅い瞳に、僕が映った。 ああ。何で僕は、今にも泣きそうな顔をしているんだろう。

 クラスの女子が息を呑む音が聞こえた。男子は凄い形相で僕を睨むが知った事じゃない。僕は僕のやりたい事をやる。その意思を表すように千歳の手を強く、強く握った。

 扉の前に立つ三騎士の目が見開かれている。一人は憤怒と驚愕の混ざった表情で、一人は嫉妬と戸惑いが混ざった表情で、もう一人は純粋な驚きの表情でそこに立つ。

 でも、今の僕にはそんな事どうでもよかった。優先事項は、目の前にいる少女。


「久しぶり、千歳」


 一週間前、僕と彼女が初めて喋った日。それは夢の出来事のようで。その事を夢であると決めた自分と同時に、夢でない事を望んだ。それは僕の中で確実にあった思い。

 ああ、しまった。彼女の手を掴んだ瞬間そう思った。けれど微かに目尻が下がった顔を見て、そんな思いは消えて無くなった。

 僕は少女に微笑みかける。彼女の瞳に映る自分は泣き笑いのような表情で、微笑みかけていた。こうなる事を一番望んでいたのは、己なのかも知れない。

 手を繋ぎ、見つめ合う平民Aと姫。その光景を呆然とした様子で見る三騎士。そして悲鳴を上げる民衆。


 それが、約五分前の出来事。




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