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第三十二話:「汐姉とデート(4)」


 壱と環と琉。そして僕と汐姉と桜さん。二組は、向かい合う形で座っていた。


「えっと、とりあえず、右から紹介していくね」


 桜さんはそう言い、汐姉に三人を紹介していく。


「斎木壱人くん。私の幼馴染みで、秋くんと同い年」


「どうもっ」


「明瀬環くん。以下同文です」


「よろしくお願いします」


「で、眠ってるのが庵原琉二くん。以下同文で、一応、私の許婚です」


「「許婚ぇ!?」」


 見事にシンクロした僕らは注目を浴びることになったが、今はそれどころじゃない。


 マジで? と言う視線を壱に送ったら、肯定の頷きが返ってきた。んなアホなー、と言いたかったが、そうすると僕が空気読めない、みたいな感じになりそうだったので黙っておいた。


「青臭い許婚ねー」


 失礼なことを言ったのは僕の実の姉、汐姉だ。毒舌はいつでも健在らしい。そしてそれに賛同したように頷いたのが壱と環。幼馴染みとは時に残酷なり。


「うーん……でも、親同士が約束しただけだから、そんなたいそれたものじゃないよ。それに、りゅーくんも私も、お互いに恋愛感情抱いてないし」


 桜さんの言葉に、うんうん、と頷く壱。


「琉はサクさんのこと、本当のお姉さんみたいに思ってるから超過保護なんだよねー」


「って言うか俺は、琉の頭に恋愛って言う文字が入っているのかさえ怪しいと思うけど」


 と、環の言葉に、あー、有り得るねー、と笑い合う壱と桜さん。琉の扱いが物凄く酷いように思うのは、気のせいじゃないみたい。


「ところで、秋ちゃん、この美女さんは誰かな?」


 壱のその言葉に、僕は自分の家族のことを話していなかったことに気付いた。って言うか、僕たちが一年の時、汐姉は三年で、あまりのモテっぷりに、知らない人はいないってぐらいに有名だったのになあ。

 日宮千歳と向坂汐の二人は、学園で一、二を争う美貌を持つってその当時言われてるし。その汐姉が有名すぎるがあまり、僕も『あの向坂汐の弟』と言うことで一時期、凄い注目を浴びていた。

 善也兄も、僕たちが通っている学園が母校で、凄くモテたらしい。まあ善也兄は運動も勉強も出来る人だったから、当然かも。汐姉もそう言う『才色兼備タイプ』だし。ちなみに、千歳は規格外。

 菊花は運動が苦手な所を勉強でカバーしてるし、裕太だって、勉強が苦手な所を運動でカバーしてる。結局、平凡なのは僕だけなのだ。……なんかヘコんできた。


 ……げふん。


 まあ、と言う訳で、『向坂ブランド』と呼ばれるようになった僕を含める向坂兄妹。

 それは時代の波と言ったようなもので、


『向坂兄妹と付き合った人は幸せになれる』


 と、都市伝説か、とツッコミたくなるような噂が街中に広まり、汐姉は毎日、告白の嵐。善也兄も大学でモテモテ。菊花も裕太も凄かったらしい。


 その所為せいで菊花と汐姉に、変な男からの危害が及ばぬようにと、僕は汐姉と一緒に菊花を中学まで送り届け――裕太はサッカー部の朝練で、菊花と一緒に登校が出来なかった――下校時にまた汐姉と一緒に迎えにいく、と言うことを繰り返していた。


 そのおかげで、僕は母校の中学ではちょっとした有名人らしい。寝顔写真とは別で。


 今は菊花と裕太が三年になり、裕太の部活動が少し余裕が出来たことで、二人は毎日一緒に登下校し、汐姉も、善也兄と同じ大学に進み、善也兄と一緒に大学に向かい、そして一緒に帰ってくる、と言うことで向坂家は未だ安泰あんたいだ。


 話を戻すが、そしてその余波よはは勿論向坂兄妹の一員である僕にもきた。

 ……うん。正直に言ってしまうと、僕もそれなりにモテていたのだ。アレだろうね、皆。珍しいものを欲しがる、みたいな感じだったんだと思う。


 ただ、僕は顔も知らない人と付き合うつもりはなく、そこは丁重にお断りして、友達になる、と言うスタンスをとっていた。


 たまに顔見知りがいるのだけど、いくら友達とは言っても、昨日まで友達だった子に、いきなり友情から愛情に変えるなんてのは僕には無理な話だったので、やっぱりここも丁重にお断りをし、今まで通り友達を続けよう、と言う、さっきのとはまた別のスタンスを使った。


 たまに男子生徒からの告白があったのだが、そう言う場合は即座そくざに逃げた。

 そして汐姉の教室に逃げ込んで、よくかくまってもらってた。しかし、汐姉の教室に逃げ込むと、汐姉の友達や、知らない先輩にちょっかいを掛けられたり、連絡先を聞かれたりするので、僕としてはあまり行きたくなかったのだけど、背に腹は変えられなくて、結局行く羽目になってしまうのだった。


 だけど、それも汐姉が卒業して落ち着き、僕は平穏を取り戻した。ま、それも直ぐに終わってしまったけど。


 とまあ、ようやく僕は長々とした思考を打ち切って、壱に言った。


「知ってるでしょ? 『向坂ブランド』の長女」


 壱と環の顔が固まった。ぱちくり、と目を見開かせて、二人は顔を向かい合わせる。


「こら、秋。もっと他に言い方あるでしょ。お姉様、とか」


「汐姉はちょっと黙ってようね」


 笑顔を向けて言うと、むう、と唇を尖らせる汐姉。その男心をくすぐる仕草に、ちょっと参る。その顔は反則だと思う。


「……ほんとに、向坂先輩?」


 と言うのは壱。まあ、当然の反応だと思う。その当時の汐姉は、ちょっと反抗期に入っていて、髪の毛は金に染めて、化粧もちょっと濃かったのだ。しかし今はすっかり落ち着いて、髪は茶色だし、化粧もほんの少しのナチュラルメイク。とても同一人物とは思えないのもわかるかも。


「う……あ、あの時は若気の至りと言うかなんと言うか……結構私も気にしてるんだけど……。そ、そんなに変わったかしら……?」


 髪の毛を指でクルクル巻き、珍しくいじらしい汐姉に、壱と環が頬を染めた。男なら、誰でも見とれるだろうから、二人を責められることは出来ない。そして汐姉も相当気にしているらしく、ちょっと不安げに僕を見上げた。


「しゅ、秋。私、そんなに変わった?」


 さてさて。ここはどう答えるべきか。僕のボキャブラリーからして、伝えることは難しいだろう。


「えーっと、まあ、変わったよ。うん。面影なく。あ、でも、僕は今の汐姉の方が好きだよ」


「う……あ、ありがと」


「……? どういたしまして?」


 にこり、と笑って告げると、何故か琉を除く全員が頬を赤くした。……皆、熱でもあるのかな?




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