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第三十話:「汐姉とデート(3)」


 横には汐姉、そしてその汐姉の前には桜さん。美女二人を連れている僕を見る男(複数)。


 それを全部無視して、窓の外を眺めポテトを食べ続けると言う行為をかれこれ五分は経っている。ああ、早く帰りたい。


 しかしそれは無理な事。こうしているのも暇なので、汐姉と桜さんの会話に耳を傾ける。


「私、あんたの家が倒産してるの、聞いてないんだけど?」


 汐姉は怒り気味……というか、怒っていた。

 何気に汐姉は人情深く、一度ふところに入った人は、最後まで面倒を見るのだ。普段の僕の扱いはこの際スルーして、汐姉を賞賛の視線で見た。


「ごめんなさい……。あまり心配かけたくなくて……」


 対する桜さんは、怒られた子供のように縮こまっていた。少しばかり目に生気が戻ってきた桜さん。あれかな、仕事の時だけ、死んだ魚の目になるのかな。


 桜さんの答えに、汐姉は、はあ、と溜め息をつき、頭を掻きむしった。


 昔からの癖。汐姉はイライラすると頭を掻きむしるのだ。


 僕は汐姉のボサボサになってしまった髪を撫でる。しばらく撫でていると、汐姉のサラサラした髪はすぐに元のヘアスタイルに戻った。


「心配かけたくないって何よ。私とあんたってその程度の仲だったんだ?」


「違っ――」


「少なくとも、私は桜を親友だと思ってた」


 桜さんの言葉を遮り、汐姉が言う。

 うう……。何かこの会話、僕が千歳と喧嘩した時の会話みたいでヤだなあ……。やっぱり、血筋って言うか姉弟だから?

 と、そんな事を思っていると……。


「ご、ごめんなさい〜〜」


 桜さんは泣き出してしまった。


「あ、あわわ」


 と、マヌケな声を出したのは僕。ヘタレ全開である。


「ああもうっ。何泣いてんのよあんたっ」


 そして泣かせた張本人は、僕の隣から、桜さんの隣へと移動し、ぎゅっと桜さんを抱き締めた。


「うう〜」


 それでも桜さんは、下唇を噛み締め、声を押し殺して泣き続ける。汐姉も、もーごめんってー、とか言いながら桜さんを子供みたいにあやすが、彼女は泣き続ける。


 集まる注目。冷ややかな目が僕に一斉砲撃。


 あー、皆さんあれだね、僕が桜さんを泣かせたって思ってるんだね。うん。言わせてもらおう。なんでやねん。


「し、汐ちゃあん」


「あーはいはい、泣け泣け。私の胸で思いっきり泣け」


「ふえ〜」


 ……完璧に置いてけぼり状態だな、僕。とりあえず、そんな寂しさを紛らわす為にバニラシェイクを飲んでおいた。






○○○






「何で!? 何で、サク姉ちゃんがここにいるんだ!? ボクは聞いてない!!」


 と、琉。


「ちょ、落ち着け、琉!」


 と、環。


「琉、昔の口調に戻ってるよー。ボクって言うのが子供っぽいからって直したのにさー………もしかして俺、今、秋ちゃんのこと否定しちゃった?」


 と、俺。

 ごめん、秋ちゃん。と心中で謝罪し、今にも店に入ろうとする琉を羽交い締めにする。


 俺と環に取り押さえられた琉は襟足にも満たない長さの髪を、一生懸命振り回して抵抗してきた。

 ううん。琉はサクさんのことになると、我を忘れちゃうんだよなー。小さい頃よく遊んだからと言って、ここまで過保護になるのはサクさんの人柄か、それとも琉のガキくさい独占欲か。恋愛感情なんて持ってないのに、この超過保護っぷりは千歳のお父さんに値する。と言う訳で。


「えいっ」


「むぎゅっ」


 暴れる琉の首に手刀を食らわせて、意識を奪った。気絶する際に、琉が変なうめき声を上げたような気がするけど、気にしないことにした。


 そして俺は、琉が向かおうとしていた店に目を向ける。全国チェーンのファーストフード店。そのガラス越しには、秋ちゃんと美女と、サクさんがいた。


 ……どうなってるんだかな、これは。






○○○






 桜さんが泣き止み、僕に向けられる視線が大分なくなってきた頃。桜さんは僕に、弱々しい笑顔を見せた。


「いきなり泣いたりして、ごめんなさい」


「いえ、別に気にしてませんよ」


 僕はバニラシェイク飲んでただけですから。


「汐ちゃんの彼氏さんに、悪いことしてしまったわ」


「「彼氏?」」


 二人揃って首を傾げる姿は、流石姉弟と言った所。しかし、桜さんからは恋人同士に見えるらしい。


「あははっ、違うわよぉ」


 汐姉は、おかしそうに笑いながら、否定の言葉を口にする。


「秋は弟よ、弟。私達、何となく似てるでしょ?」


 すると汐姉は、僕の隣に座って顔を寄せてきた。うわわっ! 顔っ! 顔が近い! と、心の中で叫ぶ。現実リアルの僕は硬直中。


「うーん……言われてみれば、そうかも……」


「でしょ?」


「えっと……弟、くん?」


「は、はい?」


 桜さんの呼び掛けに、汐姉を押し返しながら答える。声が裏返っているのは、汐姉の所為だ。


「初めまして。汐ちゃんの友達の榎原エノハラ桜です」


「あ、初めまして。汐姉がいつもお世話になってます。僕のことは秋でいいですよ、桜さん」


「はい、了解しました。秋くん、ですね」


 うふふあはは、と二人で笑っていると、横から汐姉が口をはさむ。


「波長が合ってるわね、あんたたち」


「「そうかな?」」


 あ、と二人、口を揃える。あはは、と二人、照れ笑いをする。……ほんとだ! 波長合ってる! 凄い!


「汐……さん、凄い! ほんとに波長が――」


「ちょっと桜ぁー、許婚ってなによー」


 聞けよ。


「あっ! イケメン三人組発見!」


 落ち着けよ。


「りゅ、りゅーくん! たまちゃんに、いっくんも!」


 落ち着けよ、汐姉……ってあれ? 桜さん?

 目を見開く桜さんが指差す先を、見る。


「ああっ!」


 とまあ、奇声を上げましたよ、ええ。一つだけ言いたい。なんでやねん。




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