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第二十四話:「語り」


「バカ」


「バカだね」


「バカだなぁ」


 事の顛末てんまつを三人に話した後の反応。上から、環、壱、琉と、それぞれ僕に向かって言うのだった。


 時刻は昼下がり。

 顎が外れるってくらいに驚いた琉の家、って言うか豪邸にいた。僕、メイドがいる家なんて初めて見たよ……。聞けば壱と環の家も、こんな風らしい。


 琉のお祖父さんは外資系企業の会長。壱のお母さん――玲奈さんは世界的に有名なデザイナーさん(後から壱に聞いた)。環のお父さんはIT企業の社長。


 聞いた時は、そりゃもう驚いた。『生きる格差社会だな、お前ら!』とか意味不明な事言っちゃうくらいに混乱してた。


「さて、ではそろそろ、調査員の琉二くんと環くんに、千歳の様子はどうだったか聞いてみようか」


 ふおっほっほっ、と壱はある筈もない髭を撫でる仕草をし、琉と環は、敬礼をしながらイエッサー! と叫んだ。


 ……案外ノリがいいね、君達……。


 その様子を冷たい目で見ている僕も何のその、琉と環は敬礼したまま兵隊口調で喋りだした。


「はっ! 庵原琉ニ軍曹が調査した結果、日宮千歳は大変落ち込んでいる事が発覚しました! 詳細はめんどくさいから、環二等兵、頼んだ!」


「俺、二等兵なんだ!?」


 む。中々いいツッコミ具合。……じゃなくて!


「僕は二人の漫才を見に来たんじゃないんだけど」


「「漫才なんかやっとらんわボケェ!!」」


 ……怒鳴られた。怒られた。ぐすん。


「秋ちゃん秋ちゃん、落ち込まないで。部屋の隅っこで膝抱えるの止めて」


「うん。分かった。じゃあ、部屋の真ん中で膝を抱えるよ」


「悪化してるよ! って言うか何で俺がツッコんでんの!? ここは普通、秋ちゃんがツッコむ所でしょ!? 秋ちゃん、今日なんか様子がおかしいって、絶対!!」


「ああ、俺もそう思った。どうせ、昨日の事、引きずってんだろ」


「俺も。なんか、秋のツッコミにいつものキレがないって言うか……今日、ボケにいってない?」


「壱人少佐、琉ニ兵長、環二等兵……」


「「だからもうそれはいいって」」


「結局俺は二等兵なんだ……」


 だって環、運動神経鈍いんだもん。司令官とかなら納得出来るけど。






○○○





 こほん、と環は一つ咳をつき、話し出す。


「えー、では、由衣さんから聞いた、千歳の様子を報告したいと思います」


 ごくんと、喉が鳴った。


「千歳は非常に落ち込んでいて、昨日からボーっとしているらしいです。あんな様子は、初めて見るとの事。あ、あと、部屋で泣いてるような雰囲気だったってさ」


「……」


 唇を噛む。

 ガリッ。

 ……うん。マジで鉄の味がした。手加減し忘れたね。色んな意味で、僕のバカ。……痛いいいいい。


「……なんか、あの時の千歳みたいだね」


「……壱もそう思った?」


「……いや、あの時よりひでぇよ」


 あの時。その言葉が、頭の中を駆け巡る。


「あの時って……?」


 三人は、顔を見合わせ、苦虫を噛み潰した顔をした。壱は僕を見て、笑う。

 ――それは、泣き顔に似た笑い。


「秋ちゃんには、知っていて貰いたい事かな……」


 壱は、淡々と語り出した。僕の知らない彼女を。






○○○






 信じてもらえないかも知れないけど、昔は千歳、よく笑う子だったんだ。……あ、信じられないって顔してる。まあ、信じられないのもしょうがないよね。そこらへんは、後で写真見せてあげるから。

 えーと、何だっけ。あ、そうそう、昔の千歳だったね。もう、それはそれは可愛かったよ。何せ、俺達三人の初恋は千歳だし。あれ? 知らなかった? ま、初恋は実らなかったんだけどね。ちょ、痛っ! な、何? 何で琉と環が怒ってんの? わ、わ、ごめんごめん!


 ……。


 ……ごほん。じゃ、次ね。

 えーと、あ、そうそう。それでね、中学がさ、千歳の家の近くに建って、学区が違っちゃったんだよ。美波ちゃんは千歳の家の隣だったから、一緒の中学だったんだけど。あ、でも、週に一回は千歳の家に行ってたよ。そう遠くない距離だったし。まあ、初恋だったから、必死だったのかも。え? しつこい? ごめんごめん。

 それでね、ある日、見つけたんだ。千歳の腕に青痣があるのを。それは見る度に増えていって、千歳にそれを聞くと、転んだ落ちたの一点張り。

 俺達は千歳に絶対的な信頼を寄せてたから、それを信じてしまったんだ。


 本当はね、虐められてたんだよ。目の色が、違うから。


 千歳は頑張ってたよ。俺達に悟られないように、いつでも笑ってた。でも、俺達は知ってしまったんだ。


 ある日、美波ちゃんが俺達の中学に乗り込んできて――美波ちゃん、美少女だから、結構注目浴びてたよね? ははは。それでさ、俺達三人の中の誰かと付き合ってるとか一時期、噂されてたなあ。紹介しろって友達が煩かったよ。え? 話がズレてる? あはは。ごめんね、俺、どうしても話が違う方向へズレちゃうんだよねぇ。あ、何だっけ? ああ、そうそう――俺達にさ、言ったんだよ。


 『千歳をちゃんと見てやって。それが出来なきゃ、あんた達に千歳を好きになる資格はない』


 ってね。その時、初めて知ったんだ。千歳が虐められてるって事。


 で、ここからが、美波ちゃんから聞いた話。


 千歳が学校では無表情な事。誰とも喋らない事。美波ちゃんを巻き込まない為に、美波ちゃんを無視してる事。時々、ボーっとしてる事。千歳が美波ちゃんに頼んで、俺達に言わないよう頼んでる事。


 その日、俺達は美波ちゃんと千歳の家に行って、その事を問い詰めた。

 千歳は、美波ちゃんを責めなかった。

 で、美波ちゃんは言ったんだよ。今でも憶えてる。


 『千歳、もう頑張らなくていいから。頑張らなくてもいいんだよ』


 『そう……か。ありがとう、美波』


 憑き物が取れたように千歳は笑ってた。そしてその時から、千歳の笑顔は消えたんだ。


 まあ、その時ね、何と言うか、若気の至りって言うの? 勢い余って琉が千歳に告白しちゃってさ、続くように俺と環も告白して、玉砕って訳。今も友達でいられるのは、千歳の気遣いかな。ん? 未練? あー、ないない。今はいい友達関係築けてます。いえい。あ、キモイとか言わないで。普通に傷付くから。




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