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第二十一話:「ラブコメ的な、現実では有り得ない話」


 広い浴室。広い浴槽。


「秋、着替え、ここに置いておくからな」


 り硝子の向こうから、千歳の声がした。


「あ、うん。ありがと」


 現在地、千歳の家。何故、彼女の家にいるのかと言うと、これがまた長い話なので省略させてもらおう。

 スケートリンクである程度遊んだ後、空腹になった僕達は、何を食べるか相談し、そこで千歳が、『私が作ろうか?』とかなんとか言って、こうなったのだ。


 わあ。凄ぇ簡単だ。などと言わないように。僕だって、混乱してるんだ。説明ぐらい省略させてくれ。ああ、そうそう、今日、千歳のご両親はいらっしゃらないらしい。


 平然と言ってくれたよ、あのお姫様は。何だか僕が狼狽えるのも馬鹿らしくなって、ふうん、そう、と平静を装ってここまで来たのはいいものの。

 これって、道徳に反しているんじゃないのか………!? つか、そもそも付き合ってもいない男女が一つ屋根の下(マンションだけど)に2人っきりなんて言うのはラブコメ的な現実では有り得ないであろうシチュエーションだろうが僕のバカ!


 ああ、何かもう、自分で何言ってるか分かんなくなってきたぞ。落ち着け、僕。冷静になれ、僕。ビークール。


 友達だ。千歳は、僕を友達として家に招待したんだ。よし。これだ。この設定で行こう。おお。何だか心に余裕が出来たぞ。


 すーはーすーはー、と、深呼吸を繰り返す。


 あれ? 何か目が回る。まさか……のぼせた?


「あう……。やば、早く出なきゃ」


 うう。気持ち悪。そして、僕に悲劇が降りかかる。

 浴槽を出ようとすると――


【ここからは、音声と説明文と会話だけでお楽しみください】


 つるっ。←滑った。


 ――はうっ。←僕の心の叫び。


 ばたーん。←倒れた。


 ――えう。←僕の心叫び。


 ドタドタ。←足音。


 ガラッ。←扉が開いた。


「秋! 何だ今の、は……」


 かあー。←千歳が赤面。


「〜〜ッ!?」


 ずざざざざっ。←千歳が後ずさる。


 ゆらり。←僕が立ち上がる。


「あの……お水もらえる?」


「は……?」


「いや、のぼせちゃって……」


 ……。←沈黙。


 ゴゴゴゴゴ。←千歳の怒り?


 たらー。←僕の冷や汗。


「この……」


「え?」


「愚か者ーっ!!」


 だだだだだっ。←千歳が走り去る。


「……ええ?」


 下を見る。うん。腰にタオル巻いてる。問題はない。


「……何故?」


 後にその疑問を聞いた瞬間、叩かれるのだけど。






○○○






 パーで叩かれた頭が痛い。あと、フローリングで正座はキツいよ。


「全く! 心配して向かったと言うのに、その、あれだ、上半身を見せつけられた私の身にもなってみろ! 上半身でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだ!!」


「ごめんなさい……」


 うちわ片手に怒鳴られても、迫力がない……あー涼しー。怒りながらも心配してくれる彼女に感謝だ。


「しかも第一声が水をよこせだと!?」


「いや、そんな乱暴には言ってないような……」


「ええい! うるさいうるさいうるさい! 黙って聞いてろ! 私は怒ってるんだ!!」


「はい……」


「……何か、異様に疲れたぞ」


 肩で息をする千歳。無表情の仮面が外れ、現れたのは憤怒。笑顔じゃないのが残念だけど、まあ、よしとする。


「何をニヤついている。喧嘩売ってるのか」


「いや。ニヤついてないし」


「無自覚か。全く。鏡でも見て来い」


 彼女は呆れたような顔をして眼鏡のフレームを押し上げた。……ん? 眼鏡?


「千歳、眼鏡する程、視力悪かったの?」


「ん? いや、日常生活に支障はない。ちょっと悪いだけだ。学校では勉強の時だけだぞ? どうやら私の眼鏡着用写真が、高値で出回ってるらしいがな」


 確かに、黒フレームが紅い瞳に映えている。何かこう……今にも飲み込まれ――

 ぐぎゅるるるる〜。

 ……お腹すいた。


「む。騒々しい腹の虫だな」


「……だね」


 赤面しながら答える僕を見て、彼女はほんの少し笑う。


「仕様がないヤツだ。待ってろ、すぐとは言わんが、作ってやるから」


 千歳はそう言い残し、キッチンへと立つ。

 そして僕は、別の意味で、赤面していた。






○○○






 白いテーブルクロスに、白い皿が並べられて、そのお皿には、色々美味しそうな料理が飾られていて。


「うわ………美味しそうだね」


「じゃがいものビシソワーズ、牛フィレ肉のステーキ、カンパーニュ。ライスを所望なら、遠慮なく言えばいい」


「いや、もう、十分過ぎるくらいに十分です」


「そうか。じゃあ、食べよう。マナーとかは気にせずな」


 千歳はそう言い、席に着いた。僕もそれに続いて、向かい側に座る。


「……あ、ちょっと待って。家に連絡するの忘れた」


 誰に電話するか迷うなあ。うーん。ま、自宅のでいいか。


 プルルルル。プルルルル。がちゃ。


『はい』


 この声――汐姉か。


「あー、汐姉? 僕僕」


『な、何? オレオレ詐欺ならぬボクボク詐欺?』


「違うよ! 汐姉って言ってる時点で気付いて!!」


『むむっ! そのツッコミ……秋ね! そうでしょ!』


「何でツッコミで僕を判別してるんだよ! しかも何か自慢気!!」


『あの鋭い切れ味とも言えないツッコミイコール秋、と私はインプットしてるわ』


けなしてるだろ、確実に!」


『やーほら、私ってツンデレだからさー』


「自分で言うなっ!」




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