第十四話:「ごごごご、合コンっ!?」
翌日。何事もなく登校した僕を待っていたのは、窓際一番後ろと言う好物件な僕の席の周りで立っている三騎士だった。
クラスメートは遠巻きに、女子は頬を染め、輝いた目で見詰め、男子は忌々しそうに見る。男子の忌々しそうな視線の理由は、千歳絡みである事は間違いないと思う。
「……で? どうして君達がここにいるの?」
「いや、秋ちゃんに頼みたい事があってさ……」
壱は困ったように笑い、浮かない顔をした。うーむ。何時も陽気な壱が表情を曇らすとは……。明日は雪かな。
「何? 壱にしては珍しく歯切れが悪いけど」
「うーん。余り気が進まないんだよね、秋ちゃんに頼むの」
ははは、と壱は乾いた笑いを零す。
「それって、ここじゃ言いにくい話?」
「多分。直ぐに済むけど、今から屋上行ける?」
行こう、ではなく、行ける、と聞いてくる事が壱らしいな、と思い、少し笑った。
○○○
屋上。今日は風が強い。そして僕の叫びが木霊する。
「ごごごご、合コンっ!?」
「うん。友達から頼まれちゃってさ。秋ちゃん、そう言うの苦手そうだったから誘わないでおこうと思ったんだけど、琉は面倒くさいって言うし、環は――」
「桐谷さんでしょ? 怒ると怖いもんね」
昨日の事を思い出して、環に同情したくなった。合コンなんて行った日には、環が天に召されてる。
「なっ、何で知ってんの!?」
環が顔を赤くしながら僕に詰め寄る。ちょ、近いよ顔。ああもう、相変わらず整ってるお顔立ちですこと。
「何でって……千歳と桐谷さんと一緒にカフェに行った時、言ってたよ」
「へえ。サボってそんな事してたのか」
目を見開き、琉は言った。失礼な。僕だってサボる事はあるぞ。去年までは。ただ、今年はサボると後が怖いからしないだけだ。……僕ってとことんヘタレだな、と感じた瞬間。
「秋ちゃん、話が逸れてるよ……」
「あ、そうだった。琉と環が駄目だから、僕に言ったんでしょ? でもさ、僕、そう言うの一回も経験ないんだけど……」
「いや、未体験でもいいから、人数合わせで来てくれないかな? 俺、こう言うの、苦手なんだ。親しい友人とかが一緒に居れば平気なんだけど、今回のは付き合いが浅い友達から誘われたからさ。で、琉と環は絶対来ないから、そこで秋ちゃんにってワケなんだよね」
ほう。それは驚いた。壱はそう言うの好きだと思ってたからなぁ。
「……駄目かな?」
「うーん。まあ、別にいいか」
「ほんとっ!?」
「いいけどさ、それ、いつ?」
「明日の土曜日午後6時から!」
あーはいはい。感謝してるのは分かったから、いい加減、手を離して。
「でも僕、何を着ていけばいいのか分かんないんだけど」
「じゃ、明日の昼、一緒に俺の母親の店に行って、良い服貰おう! それじゃ秋ちゃん、また昼休みにね! バイバイ!」
「おいっ! 待てっ! あ、じゃあな! 秋!!」
「秋、あの事は他言無用だからな! って待て、琉、壱! 俺は走るの遅いんだ!」
「……一体なんなんだ、あいつら」
ポツンと一人残された屋上で呟いた。
青い空を見上げて思う。明日、何事もなく、平穏に過ごせますように。
それは僕の切なる願いだった。