第十三話:「姫と鬼と平民Aの午後」
今更学校に行くのも面倒臭い、と桐谷さんが言い出したので、カフェに行く事になった。それでいいのか委員長。
「向坂くんは何にする?」
「あ、キャラメルマキアートで」
「……へぇ、甘党なんだ。……くすっ」
く、屈辱的な目線が! まるで小動物を見るような目で見てくるよ!
「千歳は?」
「む? ハーブティーでいい」
千歳は常に常備している黒のカラコンをしているが、それでも目立っていた。オーラっぽいのが出てるのかな。
「キャラメルマキアートとハーブティーとアイスコーヒーください。あ、向坂くん、トッピングにホイップクリームはどう?」
「いらないよっ」
そんなに甘いものばかりじゃ流石に飽きるって。しかし、確実にバカにされてるよな、僕。
「はい、代金は千百六十円になります」
「あ、僕が払うよ。先に座って待ってて。持って行くから」
「そう? じゃ、お言葉に甘える。千歳、行こ」
「ああ。悪いな、秋」
「うん」
今日は天気がいいからテラスにしよー、と遠くなる桐谷さんの声を聞きながら、僕はふと思った。……これって、両手に花じゃね? ああ、そっか。だからさっきから、視線が痛いんだー。あは、あは、あははははは……はぁ。
「お待たせしました。……あの、お客様は優柔不断なのですか?」
「いいえ。違います」
だからその好奇心溢れる目を僕に向けないでください。
○○○
「お待たせ」
「おっ、ありがとー」
「む。すまんな」
丸いテーブルには、千歳と桐谷さんが向かい合うように座っていて、僕がどこに座っても、二人に挟まれる。それを考えなしに座ってから気付いた。後の祭りだ。そしてリアル両手に花。ほら見てよ、あのテーブルに居る男の二人組。僕の事凄い睨んでるから。アレ、絶対、千歳と桐谷さんをナンパしようとしてたんだよ。
苦笑いをしながらキャラメルマキアートを啜る。あー、糖分万歳。思わず笑顔になっちゃう美味しさだ。
「秋、キャラメルマキアート好きなのか?」
「うん。好きだよ」
意識したつもりはないけど、自然と笑顔になってしまう。
「……」
「……」
「……? 二人共、どうかした? 顔が赤いよ?」
糖分を摂取して機嫌がいいので、普段は見せない満面の笑み。そして絶対にやらない『首を傾げる』と言うオプション付きだ。
「……私、初めて向坂くんの笑顔見たわ」
「え? そう?」
ニコニコ。
「うっ。心が揺れるような揺れないような……」
「……成子、環に言いつけるぞ」
環、と言う言葉に固まる桐谷さん。
「や、やあね。冗談よ」
そうは言うものの、顔が引きつっている。僕はニコニコを止め、千歳に聞いてみた。
「桐谷さんと環ってどんな関係?」
「さ、向坂くん? それは聞かなくても……」
「恋人だ」
「ち、千歳ぇ!」
顔を真っ赤にさせる桐谷さんは、新鮮だった。
赤鬼。そんな言葉が僕の頭を過ぎった事は内緒だ。
○○○
桐谷さんは環の従姉妹。二人は高校一年生から付き合っているらしい。桐谷さんと千歳が知り合ったのも高校一年生。会ってすぐに意気投合し、仲良くなった。
どうやら千歳の方が桐谷さんより強いようだ。まあ、信じれなくもない。
「――とまあ、こんなところだ」
「ううう……千歳のバカ」
「む。失礼な」
「バカバカバカ、バカぁ! プライバシーの侵害だ!」
「あっそ」
「ぐぬぬ……」
真っ赤にしながら怒鳴る桐谷さん。サラリと無表情でかわす千歳。苦笑いな僕。これからは醜い争いが始まるので会話だけでお楽しみください。
「向坂くんも何とか言ってよ!」
「ええっ? 僕っ?」
「そうよ! 千歳にぎゃふんと言わせなさい!」
「そ、そんな事言われても……」
「見苦しいぞ、成子」
「何で優雅にハーブティー飲んでんのよ!」
「全く、少しは落ち着け。きーきーきーきー煩い。山猿か、お前は」
「……ごほっ! や、山猿! は、ははははは! つ、ツボに入ったぁ! げほっ!」
「何笑ってんのよぉ〜!」
「痛い痛い痛い! 腕を掴まないで! 潰れる! キャラメルマキアートが零れる!」
「ああもう。成子、静かにしないと、アレ、言うぞ」
「……ゴメンナサイ」
「ふん。まあいいだろう。貸しが一つ増えたぞ成子。ああ、その貸しと言うのは、成子の浮気疑惑の事だ。まあ、わざわざ繰り返さなくても分かるだろうがな」
「……はい」
……。
何か今までのやり取りで桐谷さんと千歳の関係が見えた気がした。
――秋の脳内日記――
今日はとても騒がしい日でした。あと一つ新発見。
―― 千歳がSでした。