第一話:「平民Aの疑問」
とある高校の昼放課。そしてその学校の食堂。
僕は好物のオムライスを口に運んでいた。
目の前には三人の美男子。そして僕の横には一人の美少女。
人々はこの光景にざわつき、困惑した視線を向ける。中には嫉妬の視線を僕に向けてくる者も居た。
……飯も食えたモンじゃねぇ、と言いたい。
スプーンを置き、ふーっ、と溜め息とも深呼吸とも言えなくも無いような呼吸をしてみる。俯いて、何故自分が今こんな状況に陥っているのか考えてみた。
……ダメだ。全く思い当たらない。
「秋、どうした? 腹が痛いのか? 胃腸薬、保健室から貰ってこようか?」
美少女の気遣う視線が、正直眩しい。紅い瞳が綺麗だなと思ってみたり。
そして外野の男達の視線が痛かった。中には女子からのも入っていてなんか泣きたくなる。
「……おい、秋とやら。千歳をパシらせたらぶっ殺すぞ。俺の手でな」
向かいに座る美形さんが僕を睨む。
黒髪の短髪が何故かうねっているようにも見えるんですが、僕の気のせい……じゃないですよねぇ。ヘタレですいません。第一印象から怖かった人は、思った通り怖い。
「向坂秋くん。千歳を困らせたら、どうなるか分かっているんでしょうね? 俺の警告はここまでですよ?」
右斜めに座る美形が、僕を見た。
猫っ毛で所々ハネている茶髪。お上品なオーラが背中からにじみ出ている。見た目は優しそうだったけど実際はそうでも無かったみたい。目、笑っていないし、はっきり言うとこの人怖い。
「秋ちゃん、大丈夫? 俺と一緒に保健室行く?」
左斜めに座る美形が僕を見る。
金に近い茶髪が少し近寄りがたい雰囲気を出してるけど、本当は凄く優しいらしい。ちゃん付けは気になるけど、その優しさが心に沁みる。
何時もと違う光景。それは、僕の目の前に美男美女がいる事。
○○○
僕が通う学園には、姫と三人の騎士がいる。
正直僕は騎士達の事はよく知らないが、姫の事なら知っている。友人に自他共に認める姫フリークが居るのだ。
他校の生徒を入れたら軽く四桁は超える【姫ファンクラブ】の二桁代のバカ。
そのバカから姫の素晴らしい話を二時間も延々と続けられたのはいい思い出だ。勿論、皮肉である。
艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、イギリス人の祖父を持つクォーターで、紅い瞳を持つ彼女。
日宮千歳。
全国模試一位。弓道、テニス、剣道、バスケットボール、ピアノ、美術、その他多数。ジャンルを問わず必ず表彰台に上がる彼女を世間は天才と呼び、時には神童と呼んだ。
類まれなる才能と稀有なるその美貌。真紅の瞳。彼女はこう呼ばれる。薔薇姫――と。
彼女に初めて会った時――とは言っても、つい一週間前の事なのだが。彼女は、何かに絶望しているようなとても冷たい目をしていて、僕は思わず声を掛けてしまったのだ。
それから、僕の受難が始まる。
僕は物語の繋ぎでしかない平民Aでいたかった。けれど、それを簡単に壊したのは美しい真紅の瞳を持った姫君。王城から出てきた姫様が僕を舞台上に上がらせた。
護衛の三騎士と、真紅の姫と、平々凡々な平民A。
それは全く華にならない光景だった。