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一方的な暴力

 男はまた地面に這いつくばった。

 私は、彼が起き上がるまで待ってやった。


 『お前なんか、いつでも倒せる』


 そう態度で示したのだ。男の顔が、怒気に歪む。

 男は飛び起きて、力任せの大振りな攻撃をしてきた。皆の前で恥をかかせたのが許せなかったのだろう。

 おそらく、この小さなコミュニティでは、ケンカ自慢で通っていたのだと思う。


 『自分だけは特別だ』


 そんな、自意識もあったはず。

 だが、そんなものは、邪魔でしかない。

 我々は短期間で軍隊を作らないと、滅びてしまうのだ。

 指揮官に対して反抗的な態度をとる者は、排除しなければならない。

 

 私は、最小限の動きで、男の攻撃を躱す。

 剣術で鍛えた『見切り』だ。

 最初の攻防はまぁまぁだったが、今は駄目だ。

 怒りと屈辱のあまり、体に余計な力が入っていて、パワーもスピードも乗らないのである。

 素早く、かつ、鋭い攻撃をしたければ、筋肉をリラックスさせ、瞬間的に力を籠めなければならない。

 

 ――― 例えば、こんな風に……


 私は、ダラリと下げた左手を不意に跳ね上げて、掌底を男の顔面に放つ。

 予備動作はなし。しかも、死角からの一撃だ。

 この男のような素人レベルなら、突然掌が目の前に出現したように見えただろう。

 インパクトの瞬間、抉る。

 メリっという音がして、この男の不恰好に大きな鼻がねじれた。

 おそらく、鼻骨は折れたと思う。

 ボタボタと鼻血が流れ、痛みと衝撃に男が口汚く罵る。

 

 大振りの攻撃を続けていたので、男の息が上がっている。

 鼻は出血で塞がったので、犬の様に口で男は息をするしかない。

 男の吐息は、大蒜と酒と胃液の匂いがした。

 素人をいたぶるのは可哀想だが、今後の訓練の事を考えると、見せしめは必要だ。

 私とラルウの人々は信頼関係で結ばれていない。

 比較的、私に好意的なベルズでさえ、打算によって動いている。

 そんな人々を、私の企画立案した作戦に完璧に従わせないといけないのだ。

 ならば、私の採るべき道は一つ。


 『恐怖で縛る』


 これしかない。

 義勇兵には、私が冷酷で恐ろしい人物であると思ってもらう。

 そのために、貴重な戦力が一名失われてしまったとしても。

 不恰好に鼻がでかい『拳闘家くずれ』の男には同情する。マズいタイミングで、私の眼に止まってしまった。

 

 息があがり、足がもつれた男の腹に、拳を突き入れる。

 痛みに、身をよじった瞬間に、脇腹にもう一発。

 げぇげぇと吐いている間に、腰の裏にも拳を叩き込む。

 男は、喉に吐しゃ物が詰まり、鼻は血で塞がり、息が出来ない状態だろう。

 立っていられなくなって、地面にへたり込む。

 私は、彼の水月にブーツのつま先をめり込ませた。

 男は、たまらず、再び吐く。もう、黄色っぽい胃液しか、彼の口からは出なかった。

 私は、彼の髪をつかんで、引きずりたたせる。

 男の眼に、怯えが走った。

 だが、まだ心は折れていない。

 私は、この凄惨な暴力を見ている者が悪夢にうなされるほど、徹底的にやるつもりだ。そう決めていた。

 

 

 

 

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