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義勇兵 結成

 結局、義勇兵には約七百人近い応募があった。

 これは、ラルウの住民のうち、義勇兵応募資格がある十六歳以上の男性のほぼ全員が志願した計算になる。

 審査で50歳未満という線引きをするとその数は三百九十七名に絞られ、十六歳未満の子供をもつ親を除外すると二百名そこそこになった。

 さらに、要介護の扶養家族がいる者や役所で重要なポストについている者などの個々の事情を勘案するとその数は百四十二名となった。

 私の予想では、百名に届くかどうか? というところだったので、まぁ妥当な線と言えた。

 その百四十二名についても、これから訓練を行いつつ、適性があるかどうか絞り込まないといけない。


 今から全くの素人を精鋭部隊に育てる時間はない。

 兵士として、必要最低限のことを習得してもらう。

 弱兵でも、最新式連発銃があれば強敵に立ち向かえる。弟の戦術書のキモはそこだ。この説を、実地実験によって証明する。

 私は、そのために戦雲たなびく北の辺境にきたのだから。

 訓練は、今回の迎撃戦に特化して行う。

 そこで重要になってくるのは『今回の迎撃戦で求められるものは何か?』ということだ。

 今回の迎撃戦は、伏兵による奇策。

 無人の野を往くが如く、ブルーナン騎兵団は、小国家群を次々と平らげた。

 その小国家たちは、少人数の野盗を想定した土塀や防柵はあったが、本格的で組織的な軍隊に対する防備ではなかった。

 それゆえ、悉く籠城策は敗れる結果となった。逆にいうと、貧弱な防備に頼るしか手段はなかったのである。

 我々は、違う。

 打って出るのだ。地形を味方にして、伏兵による奇襲を行う。

 これが、奇策の一つ目。

 そして、地形を考慮に入れた野戦築城。地形そのものを城塞に見立て、寡兵をもって数倍の敵に立ち向かう。

 これが、奇策の二つ目。

 最新鋭の銃による連射、精密射撃、常識外の射程距離。

 これが、奇策の三つ目。

 楽な戦ばかりで油断しきったブルーナン騎兵団は、未知の戦いを強いられるのだ。奇策をもって動揺を誘い、罠にはめて噛み砕く。

 徹底的に。

 容赦なく。

 ラルウという国が、「踏みつぶすには少し手ごわい」国であると、思わせなければならない。

 つまり、ベルズ風に言えば「コスト高の物件」と思わせることだ。

 それには、火力を見せつけるしかないのである。

 小国家群の中には、話し合いで解決を図ろうとする国もあったみたいだが、内部に騎兵団を招き入れた時点で焼き払われてしまった。

 ブルーナン騎兵団にとっては、楽に攻略で来てラッキーとしか思っていないだろう。武力を背景にしない話合いなど、愚者の幻想にすぎない。


 書類選考に通過した百四十二人の名前は、翌日に広場の掲示板に張り出された。

 皆を熱狂させたゴードリー王の演説から一晩、人々は冷静になったのだろう。

 掲示板に名前を見つけた者は青ざめ、そこに名前が無かった者はあからさまに喜ぶわけにもいかず、複雑な表情をしていた。

 この百四十名に選ばれて、喜んでいるのはごく少数だ。

 臨時にはなるが、ラルウという国の軍籍とされた百四十二名は、改めて庁舎に赴き、宣誓書にサインをすることになる。ここで、サインを拒否することもできるが、この期に及んで拒否する度胸がある者などおるまい。

 宣誓書は『戦争で死んでも文句は言わない』ということであり、臨時だが身分は国家公務員となる。国から給金が出て、戦死した場合は遺族に年金が支払われることになる。戦争とは、金がかかるものなのだ。

 ラルウがどこまで、この戦争状態を維持できるか、国の財務担当者は必死で計算をしているところだろう。

 義勇軍の司令官はゴードリー王。士官は商隊のベルズと鍛冶頭のボウモア。技術士官は銃の開発技術者のスコフィールド。憲兵的な役割は、治安官のタラモアデューが務める。

 私の立場は『軍事顧問』という曖昧なもので、ラルウに着いて日が浅いことを考慮すれば、こんなものだろう。

 これらが、この小さな軍隊の幕営ということになろうか。

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