義勇兵・徴兵
川沿いの『第二の伏兵』の役割は二つ。
騎兵を回り込ませないことと、山車櫓と対峙している捨て駒部隊への側面攻撃だ。
街道上の捨て駒部隊は、この時点で三方から銃撃を受けることになり、よほど肝が据わっている連中でも崩れる。
ましてや、食い詰め浪人や山賊崩ればかりである。士気は高くない。
「ブルーナン騎兵団が最初に送り出してくる部隊を、この時点で潰走させる事は可能です。もともと、ブルーナン騎兵団が景気がいいのでなんとなく追随してきた集団。追い撃つ価値もありません。我々が徹底的に叩く必要があるのは、ブルーナン騎兵団本隊。二百騎あまりの主力です」
斜面上の伏兵からの射撃。
川沿いの平地からの射撃。
山車櫓からの射撃。
これら三方向からの射撃によって、押すも引くもできない状態を作り、騎兵を擦り削ってしまいたい。
射程距離が長く、連射が可能な最新鋭の銃ならこれが可能だ。
ポイントは、川沿いの平地側の陣地が持ちこたえる事。ここが落ちれば、山車櫓の背後に騎兵が回り、山車櫓も落ちる。
騎兵は一気にラルウに走ってもいいのだ。
我々には後詰はない。
ラルウを焼き討ちされてしまっては、この防衛戦には意味がなくなってしまうのだ。
「この作戦を筋書き通りに進めるためには、兵員は百人以上、銃は一人二丁で二百丁は必要です。用意できますか?」
ボウモアが在庫リストに目を落しながら、発言する。
「銃は、出荷待ちのストックを入れれば最新式のが二百丁は用意できる。旧式のも含めれば、総数五百ってとこだな。数は十分だ」
ボウモアが言う最新式とは、銃腔内部に螺旋状の刻みをいれて命中精度を上げた銃の事だ。これは、数少ないラルウ側の良い材料である。
銃弾に関しても、この日を見越してゴードリー王と隠れ里イツツの責任者ハーパーが増産体制を敷いていた。今も増え続けているはずだ。
問題は兵員か。
「ベルズの商隊の五十名を主力に据えることとして、残り五十名をどうする?」
ゴードリー王がつぶやく。
「タリスカーの商隊とホクトの商隊に伝令を送ったが、彼らの任地は遠い。どれだけ急いでも春には間に合わん」
苦々し気にベルズがつぶやいた。彼らはベルズたちのように、傭兵として銃の性能をデモンストレーションをしないが、野盗や山賊との交戦経験はある。そういった経験者が欲しかったのだが、仕方がない。
これで、戦闘経験がある者が五十人を切ることが確定した。
我々は、他者に銃を向けた事が無い人々を率いて戦わなければならいということだ。
「公告を出そう。義勇兵を募る」
ゴードリー王が苦渋の決断を下す。
出来れば、この事態を避けたかったボウモアから、嘆息とも呻きともつかぬ声が漏れた。この期に及んで反対はしなかったが……。
「結果、五十人を切ったら?」
ベルズの問いに、ゴードリー王が答える。
「やりたくないが、徴兵するしかあるまい」




