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軍師 説得を開始する

「我々は、悪名高き傭兵団に勝つ! 我々が生み育てた銃で! その策もあるのだ」

 ベルズが断言した。ポカンと口を開けていたスコフィールドが、実験者の顔になっていた。

 もしもこのままブルーナン騎兵団との戦闘という事になれば、貴重な実戦での使用データが採れると思っているのだろう。

 議長役のゴードリー王は、避難するという案に積極的ではない。ここまでの復興で備蓄品を使い果たし、財産も食い潰してしまっていた。一度踏みつぶされれば、再び立ち上がる体力などないことを、現実問題として知っているのだ。

 だからこそ、なんとか敵を打ち破る方法はないものかと知恵を絞っていた。近隣の測量は、その一環である。

 ベルズの発言は、ゴードリー王にとって、心強かったことだろう。

 ボウモアは、心情的にはベルズと同じく自らの技術が作り出した銃が実戦で使われることなく、単なる珍品として貴族たちの手に渡ることを忸怩たる思いで見ていたことだろう。誰よりも技術に誇りを乗っているのが、ほかならぬボウモア本人なのだから。

 だからこそ、いつか日の目を見るに違いないと信じ、頑なに技術を守ろうとしているのだ。彼が安全策を採りたがる理由の根本はそれだ。

 戦の経験もない。

 兵力も足りない。

 それでも、連発銃があれば、ラルウは勝てる。

 その根拠を示してやれば、その技術に対する誇りを、主戦論に転換することは出来ないことではない。

 職人は理想を追い求める夢想家であると同時に、力量の限界を推し量る現実家でもある。慎重に議事をコントロールしないと、いつまでたっても平行線のまま進展はない。

「ここに、我々の作った連発銃を見て、その運用を研究した人がいる」

 ベルズが、私の方を見た。

 その目が、ここが正念場だと私に伝えていた。

「我々の輪胴式連発銃の基礎となった『胡椒箱』を見てその有用性を認め、その研究を進めていた軍事研究家である、ブランドック・ダーハ氏です。ここで、彼に我々手持ちの戦力で撃退が可能かどうか、解説をお願いしたいと思います」

 ベルズの言葉に、ボウモアが何か口を挟もうとしたが、ゴードリー王が間髪を入れず

「許可します」

 と言ったので、しぶしぶ口をつぐむ。

 舞台は整った。

 敵意と好奇心、そして期待感。様々な視線を浴びながら、私はゆっくりとオブザーバー席から立ち上がった。


「私は、ブランドック・ダーハという者です。兵学書の古典『ダーハの書』は、私の祖先が書いたものです。私はその縁者です」

 ベルズが用意した偽名『ブランドック・ダーハ』だが、正確には偽名ではない。私はダーハ家直系の子孫で、代々家長は『ブランドック』を名乗る。

 皮肉な事に私は、捨てたはずの名前を偽名として名乗る羽目になったのだ。

「結論から申し上げますと、僅か五百の敵兵など、一蹴できます」

 数式じゃあるまいし、戦に百パーセントはない。しかし、不安にかられている彼らには多少のハッタリは必要だ。

「偶然、この『胡椒箱』を手に入れた時、私はこれが歴史を変える大発明であることがわかりました」

 これは全くのウソである。彼らの作り出した武器を珍品としか見なかった、その他大勢の人々と同じ感想しか私には無かったのである。これに注目したのは、私の弟だった。

 ここで、一旦言葉を切る。

 天才的なひらめきは持っているが、思考パターンが単純なスコフィールドは得意満面な顔をしている。ゴードリー王は、お手並み拝見とばかり、笑みを含んだ視線を私に向けていた。

 今回の会議の主たる標的であるボウモアは、自分の作品が褒められてうれしいはずだが、見事に無表情だ。

「熟練のマスケット銃の銃兵が『早合』を使ったとしても、一分間に四発の発射が限界です」

 『早合はやごう』とは、銃弾と火薬を油紙で包んだものだ。油紙を破いて火薬を露呈させ、マスケット銃の筒先から込めれば、発射可能になる。

 通常は、『火薬』を筒先から流し込み、『銃弾』を入れ、それらが零れ落ちないように『おくり』といわれる布片を入れて、さく杖で突き固めるのが、本来のマスケット銃の装填手順なのだが、『火薬・銃弾・おくり』が油紙の中でワンセットになっているのが、『早合はやごう』である。銃兵はそれで、装填から発射の時間を短縮するのである。

「しかし、ラルウの連発銃は、その常識を大きく超えるものです。それゆえ、連発銃を前提とした戦術は存在しません。しかし、私は『胡椒箱』を見た時から、常に新しい物を取り入れ、柔軟に戦術に取りこむという先代の教えに基づき、検討を重ねてきたのです」

 私の言葉が浸透しているかどうか、一同を見回す。特にボウモアの反応が重要なのだが、表情は変わらない。なかなか手ごわい。

「つまり、連発銃を前提とした戦術はここにあります」

 そういって、私は私の頭を指差した。

「しかし、連発銃を選定とした戦術への対抗策は存在しません。まだ、連発銃が世の中に浸透していないからです」

 どうだろう? 私の言葉は、彼らの心を掴んだだろうか?

「敵は、未知の戦術と戦うことになります。そして、我々には地の利もあります。必ず勝てると、私は断言します」

 相手は、自らの技術に誇りを持っている職人だ。

 一段高いところから話せば反発される。

 おもねれば見抜かれる。

 純粋に連発銃の有用性を認め、その特性を生かす方法論を客観的に述べることが肝要だ。

 

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