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設計技師 スコフィールド

 ベルズは、議会に提出する資料の取りまとめを商隊副官のスプリングバンクに任せ、議員として会議に出席する人物たちと私を引き合わせてくれるらしい。

 会議をスムーズに行うために、人物紹介を今のうちに済ませてしまおうという算段のようだ。

 ラルウは一応『国』という体裁をとっているが、地方の寒村程度の規模の集落にすぎない。主だった者全員に紹介しても、それほど時間はかからないのだろう。


 まず、ベルズが向かったのは、ゴードリー王と地図を作ったスコフィールドの実験工房だ。鍛冶工房が並ぶ、湧水池からの川の下流にその工房はあった。

 私が弟に与え、弟の野心の核になった『胡椒箱』は、ここで産声を上げたのだ。私は柄にもなく昂りを感じていた。

「あらかじめ断っておく。スコフィールドは設計者として我々にはなくてはならない人物だが、変人だ。失礼な振る舞いがあったら……いや、きっと失礼な振る舞いをすると思うが、大目に見て欲しい」

 私は「了解した」と答えた。

 その変人、スコフィールドの住居を兼ねた工房は、質素な木造の小屋だった。小さいながらもバルコニーがあり、そこにはロッキングチェアとコーヒーテーブルが置いてある。

 北向きに作られた扉は、この寒いのに開けっ放しで、内部はゴードリーの執務室以上に雑然としていた。

「スコフィールド! いるかい?」

 戸口で、薄暗く、用途も知れない様々な工具が雑然と散らかった内部に、ベルズが声をかけた。

「やあ! ベルズのおっさんかい? おかえりなさい」

 ガラクタの中から、、うっそりと身を起こしたのは、ぼさぼさの頭に大量のフケを散らした長身の若者だった。闘神を思わせる均整のとれたゴードリー王の肉体とは正反対に、全く厚みを感じさせないヒョロリとした体つきをしていた。不健康な青白い顔と相まって、ゴードリーとは別の意味で威圧感を感じさせない男だった。

「いくつか、修正しなければならない個所があった。前のは、五百発撃つと、ピンが折れて分解しちまう」

 彼の話は、主語が無く唐突だった。私には、何のことかわらないが、ベルズは彼のこういった物言いには慣れているのか、

「輪胴式拳銃の試作五号機のことか? あれはペテルの貴族に売っちまったぞ」

 などと、答えている。

 スコフィールドは、鼻でせせら笑い

「はん、貴族様が五百発も撃つには五十年以上かかるだろうよ。どうせ珍品扱いだ。試作品だし、まぁいいか」

 とうそぶいた。

 そして、ごそごそとガラクタの山を漁り、一丁の銃を取り出した。

 これこそ、『胡椒箱』の進化形、『輪胴式拳銃』だ。ベルズの商隊員の腰のホルスターに収まっているのを見たことはあるが、現物の全容を見たのは初めてだった。

 たしかに『胡椒箱』にくらべれば、だいぶ軽いだろう。

 銃身は一本。その銃身の根本に六つの短い銃身を束ねたような輪胴がある。輪胴にあいた六つの穴にはそれぞれ銃弾が込められていて、輪胴が回転することによって、次々と銃弾を発射することが出来る仕組みだ。

 銃身ごと回転させる『胡椒箱』より、銃身一本をを固定して、弾薬を詰めた綸胴を回転させた方が軽量化を図れる。そういう理屈だ。

「こいつは、輪胴式拳銃試作第七号。今、タラモアデューの旦那に試射してもらっているんだが、構造を『単独動作』に一本化したことによって、耐久度が大幅にアップした。五百発毎のメンテナンスで五セット行っているが、未だ故障せず。一つの完成形と考えていいと思うよ」

 私がいる事を忘れてしまったのか、自分が言いたいことを滔々とまくしたてている。なるほど、こいつは変人だ。

「では、増産体勢を敷こう。ボウモア工房長には伝えたか?」

 ベルズが、スコフィールドの言葉を受けてそう返事したが、ボウモアという名前が出た途端にスコフィールドの顔が曇った。

「あの人、苦手……」

 などと呟いている。

「あのなぁ、お前はもうすぐ二十六歳になるんだぞ」

 ベルズの説教が始まりそうな気配に、逃げ道を探すかのように視線を泳がせていたスコフィールドが、ようやく私に注目したようだ。

 私は壁にかけられた、輪胴式拳銃の銃身を長くし、輪胴を大型化し、銃床をつけたような長銃を見ていたところだった。

 ベルズの商隊員が持っていた銃と同じものだ。

「これは、八式輪胴長銃だよ。ラルウの制式長銃だったけど、構造的欠陥が見つかってね。教訓のためここに飾っているんだ」

 彼の話では、この後継となる長銃がすでにテストされていて、試作第七号輪胴式拳銃とともにラルウの新・制式拳銃と長銃として登録される予定だという。

「おっと、忘れるところだった。この方は軍師としてラルウに招いたダーハ殿だ。連発銃の運用方法について助言を貰う」

 やっと、ベルズが私を紹介した。

 スコフィールドは、ベルズが説教から注意が逸れたのを見計らって、言葉を続ける。

「あ、どうも。ダーハさん。ぼくはスコフィールド。設計者です。それでね、銃身だけど銃身内部にらせん状に溝を掘って発射される弾丸に回転を加えると、射程距離と直進性が増してね……」

 テクニカルな話を続ける様子に、ベルズはうんざりして

「案内があるから、続きはまた今度な」

 と話を打ち切った。

 

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