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キング・キャッスル

 城の前は広場になっていて、露店が軒を連ねていた。

 かつて壮麗な商館が贅を競っていた頃とは比べようもないが、何かを販売できる程度には経済状況は安定しつつあると考えていい。

 ベルズの話では、以前は食料も配給制だったそうだ。つまり、国民の大半が生活保護を受けないと暮らしが成り立たなくなっていて、新しい市街地建設という公共事業を起し、労働力を対価として衣食住を保証しなければならないところまで、ラルウは追い詰められていたということだ。

 破綻からギリギリのラインで支えたのが、ベルズの様な商隊とブラスコー家の備蓄だった。

 いわゆる、緊急事態をなんとか乗り切ったラルウの次の課題は、経済の抜本的な立て直しである。

 膨大な産業廃棄物である金採掘の際に出来たクズ岩(通称「ズリ」)の集積であるボタ山からは、微量であるが鉄鉱石が取れる。

 鉱山技師がいなくなってしまった現在、工芸品などを作成する原材料は、この産業廃棄物から取り出しているのだった。

山を掘り起こさず手に入れた鉄鉱石はコストが低い。タダ同然で手に入る。

それを、刀剣などの高価な工芸品に加工し、輸出する。

……これが、現時点で採っている基本方針で、規模は小さいながらも落日のラルウを再び浮上させる原動力ではあった。

 一通り、市街をベルズに案内してもらったあと、私は村役場のようなみすぼらしい王城兼行政庁に向った。

 もちろん、きらびやかな衛兵などいない。あれは、国の威信をみせつけるための飾りの意味があり、ラルウには無用だ。

 ラルウ唯一の警察機構である「治安官」から、衛兵は派遣されていて、二名が所在なさげに入り口に刺又を持って立っていた。

 ベルズの弁では、治安官といっても、皆が助け合って生きているようなこの国では犯罪などめったに起きず、酔っ払いのケンカぐらいのものらしい。

 そのケンカすら、めったに発生しないのだ。

「治安官つっても、青年団に毛が生えたようなものさ」

 商隊メンバーを除くと、この治安官たちが、ラルウ唯一の武装勢力となる。ラルウの住民として銃器の扱いは慣れているが、戦争などしたことがないのだ。

 危険な傭兵連中が荒らしまわっている現在、ベルズの杞憂はそこにあった。


 ベルズは、不思議なことに居ながらにして各地の情報が手に入っているようだ。

 なにか仕掛けがありそうなのだが、今はこのベルズの情報が正しいという前提で、ラルウ防衛戦略を練らないといけない。

 そのために、私はベルズたちに生かされたのだ。私の存在理由は『ラルウを救う放浪の軍師』という、あやふやなもの。自分を売り込むためのプレゼンテーションを行わなければ、この小さなコミュニティには浸透できないだろう。

 ヒマそうな門番の脇を通ると、そこは大きなエントランスになっていた。

 入り口の正面には、長いカウンターがあり、各種申請手続きの窓口になっているらしい。軍事施設である『城』というよりは、まるっきり役場の造りだった。

 『郵便』『納税』『生活保護申請』『相談窓口』などといった札が下がっている。

 面白いのは『砂鉄・砂金取扱窓口』があることで、砂金はめったに採れないが、砂鉄は子供や老人のいい小遣い稼ぎになっているらしい。

 膠でコーティングした磁石を引きずって遊んだり、散歩したりすると、砂鉄が集まる。それを、ラルウが買い取っているのである。

 無駄がないと言えばいいのか、いじましいと言えばいいのか……。


 各種窓口のカウンターの両側は、大きくカーブした階段になっていて、壁面にはこんな山国には似合わない海の風景を描いた絵が飾ってある。

 踊り場は大きく、そこがその絵画のギャラリーになっているのだが、この建物の構造は城というよりは……。

「ご賢察の通り、ここは、元・劇場さ」

 クツクツとベルズが笑う。

 広いダンスフロア。酒を出すカウンター。階段にはオーケストラピッド。なるほど、ここは劇場の造りだ。

 かつて『キング・キャッスル』という名前の劇場がここにあり、ゴールドラッシュでラルウが景気いい時代には、馬車でここに乗りつけて食事と音楽と踊りを楽しむのが、成功者のステータスだったらしい。

 だが、ラルウは凋落し、旧市街地は災害で壊滅し、遷都を余儀なくなされた。

「まぁ、名前も『キング・キャッスル』だし、ここを王城にしよう」

 そんな冗談みたいな理由で、ここが新市街地の中心とされ、廃墟同然だったここを、王城兼行政庁に定めたという経緯があるそうだ。


 拙作『ペンギンの海』が最終回に向けて大詰めでした。

 それで、しばらく休止していたのですが、無事最終回を書き終えたので、再開します。


 もたついてすいませんでした。

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