プロローグ 【004】 『神楽神殿(かぐらしんでん)』
【004】
一通り、キリカの話を聞き、現状を把握した僕は少し落ち着くことができた。
……というより、開き直った。
僕らは今、元いた草原から移動していた。
「ところで、僕たちはどこに向かっているの?」
「えーっと……まず、これから私と一緒に『聖典』のある場所へ一緒に行きましょう」
「『聖典』のある場所?」
「はい。『聖典』は今、『神楽神殿』で厳重に保管していまして、その『神楽神殿』で『聖典』をお守りしている『大長老様』とお会いして欲しいんです」
「『神楽神殿』『大長老』……?」
「もしかして、それも九十九様の創った話にはないものなんですか?」
「う、うん……」
「そ、そんな……それじゃあ『大長老……ゼンノウ様』も知らないんですか?」
「ゼンノウ様?……ご、ごめん」
「知らないん……ですね?」
「う、うん……」
「……ど、どうしてこんなことがあるのでしょう?」
「……さあ」
僕はますます混乱した。仮に……というか少なくとも、僕は今、地球以外の世界にいることは間違いない。それは疑いようが無い。
だが、問題は『この世界が僕の創った小説の世界なのか』ということ。
そして、『誰が、僕の書いた小説の世界を創造したのか』……『誰が、その世界に僕を招いたのか』……ということだ。
キリカは『大長老』に頼まれていたと言っていた。ということは『大長老』がすべてを知っているのだろうか?
僕は、まるで出口が見えない迷宮に紛れ込んだ気分だった。
「ところでキリカちゃん、その大長老って一体何者なんですか?」
「一応、偉い人ではあるんですが……詳しくは私も知りません」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。私……というよりこの国で大長老様のことに詳しい人はおそらくいないかと思います。でも、少なくとも、私達には優しいですし、それに味方です。これまでもいろいろと大長老様から知恵を授かってきましたから」
「へーそうなんだ」
「はい。あ!……あと、前に大長老様がボソッと教えてくれたのですが、大長老様は『人間とも魔種族とも異なる存在』なんだそうです」
「えっ? ど、どういうこと?」
「よくはわかりませんが大長老様がそう言ってたことを子供の頃に聞いたことがありました」
「子供の頃? し、知り合い何ですか?」
「はい。子供の頃から大長老様の神殿に遊びに行ってましたから……周りのみんなは怖いとか言ってましたけど」
それが普通の子供の反応です。
それにしても、キリカのこんな……『子供の頃、ちょっとおてんばだった』というエピソードなんて書いてなかったけどな~。やっぱり、物語で書いていないところは『自動補完』されているのかな~……ていうか、それ、どういう『仕組み』だよ。
「あ、見えました。あそこです! あれが『神楽神殿』です!」
「!?」
キリカは今、歩いてきた砂利道の坂を上りきると先を指差した。
「へえ、けっこう立派な建物だね……」
キリカが指差したその建物は、古代ギリシャの『パルテノン神殿』っぽい概観だった。建物の大きさもなかなかのものだ。
「神楽神殿まで、だいたい百メートル……といったところか」
僕は建物の大きさを見て、おおよその距離を判断した。
「えっ? 何を言ってるんですか、九十九様?……ここからだと、まだ、あと『一キロメートル』くらいはありますよ?」
「…………へっ?」
一キロメートル? おかしいな~、僕の物語の設定ではこの世界の単位や言語はすべて『日本』と同じように設定しているんだけど……こんなところまで改変されてるってことなのか?
「キリカちゃん、一キロメートルだよ? 一メートルの千倍だよ?」
「はい、そうですよ?」
「えっ?」
「えっ?」
すると、僕はここで『ある異変』に気づいた。
それは、進んでも進んでも……その『建物の大きさ』が変わらないということだった。
「キ、キリカちゃん、ち、ちなみに……その神楽神殿ってどのくらいの大きさなの?」
「そうですね~……前に大長老様から聞いたときは、確か……端から端まで『五百メートルくらい』って言ってました」
「ごっ……?!」
五百メートル! 建物の端から端までがっ?!
「神楽神殿は正方形の形をしてますから、一辺が五百メートルってことになると思います」
「……」
な、なんじゃ、そりゃっ! そんなバカでかいの、神楽神殿?! 地球のショッピングモールの敷地を含めた大きさと同じくらい? い、いや、それ以上……? い、いずれにしても規格外の大きさでしょ、そんなの!
「そ、そんなの誰が建てたの?」
「それは私達もわかりません。気づいたら、そこに建っていたんです」
「ええっ……?!」
「たぶん、大長老様が建てたのかも知れませんが、そこまでは知りません」
「そ、そうですか……」
ダメだ、まったく訳がわからない。
とりあえず僕は考えることをやめた。
どうせ、キリカも僕と同じくらい、この状況については説明できないだろう……大長老に頼まれただけだって言ってたし。
いずれにしても、『大長老』という人物に会えば、いろいろとわかることがあるだろう……たぶん。
僕は、そう自分を納得させて、キリカと一緒に足早に神楽神殿へと向かった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「到着です、九十九様。ここが『神楽神殿』です」
「で………………でかっ!」
もう、それだけしか言えなかった。
それほどの圧倒的存在感だった。
キリカの言うとおり、『一辺五百メートル』は伊達じゃなかった……建物の端が霞んで見える。
僕が、その神楽神殿のスケールに圧倒されていると、キリカがふいに僕の手を掴んできた。
「さあ! 中へいきましょう、九十九様。大長老様がお待ちです」
「!?……う、うん!」
蒼の国最強剣士の一人とは思えない程、キリカの手は柔らかく、暖かな温もりを感じた。
キリカに手を握られた僕は、そのまま神楽神殿の中へと入っていった。
――神楽神殿の中は真っ暗だった。
「ま、真っ暗だね……」
すると、さっきまで僕らが立っていたの外の景色が………………消えた。
「あ、あれ? い、入口が……消えた?」
「はい。神楽神殿の中に入ると神殿の『結界』が発動する為、外の世界と断絶されるので……」
「へ、へえ……結界、か」
僕とキリカは上下左右どこを向いても真っ暗な……というより、僕が今、そこに存在しているのかという疑わしさを感じるくらいの『完全な闇』だった。
「入口付近はこんな感じで真っ暗なんです。だ、だから、その……て、手を握らせていただきました……すみません、勝手なことして」
「そ、そんな、そんなことないよ! ぜ、全然大丈夫だからっ!」
「本当……ですか?」
「ほ、ほほほほ本当、本当! ぜ、全然嫌じゃないから! き、ききき気にしないでっ!」
僕は手を握ったことをまさかキリカから『すみません』なんて謝られるなんて思ってもみなかった……だから僕はビックリして呂律が回らなかったのだ。だって、女性から手を握られることなんて、これまで三十九年生きててなかったし。
まあ、逆にこっちから手を握ったら『やめてよ、この変態!』って怒られることはありましたけどね。
まあ、そんなことはどうでもいい。どうでもいいくらい、僕はキリカにずっと手を握られた状態だったので、顔を紅潮させ、鼓動がアップテンポに脈打っていた。
「す、すみません、九十九様。もう少し我慢しててください。今、ここで手を離してしまうとこの闇の中をさ迷うことになるので……。そうなると大長老様のところまで辿り着けません……それどころか、永遠にさ迷ってしまいます」
「わ、わかり……ました」
闇、こわっ!
すると、突然、部屋が一瞬、眩し過ぎてまるで目が開けられないくらいの強烈な光に包まれた。
光が収まり目を開けるとそこは、建物の概観とは違って二十畳くらいの大理石のような床板が広がっていた。そして、さらに不思議なことにその床板を取り巻く周囲は……空だった。
「なっ!?……ぼ、僕たちはどこに出たんだ?!」
すると、僕達の背後から声を掛けられた。
「ようこそ、神楽神殿へ」
振り向いたその先には一人の老人が立っていた。
「ワシが『大長老』……偉い人だ」
そう言うと同時に大長老は渋い顔をしながら、キリカの…………胸に顔を埋めていた。
「お久しぶりです、大長老……様っ!」
キリカは右肘を大長老の頭頂部に思いっ切りめり込ました。
「ふむ……中々の攻撃だ。成長したな、キリカよ」
大長老は僕らと真逆の誰もいない『あさっての空間』へと声を掛けていた。
「ありがとうございます」
キリカも別段、ビックリした様子もなく、淡々と会話を続けていた。
シュールだ。
ていうか、この大長老、ただの…………『スケベじじい』じゃないか!
「大長老、この方が薙九十九様です」
大長老は僕達の方向へ振り向き直し、
「ふむ……ごくろうだった、キリカ。よくやったな。これで『世界の可能性』が見えてきた」
と、スケベじじい……大長老は僕の方を見てそう告げた。
「よく来てくれました……薙九十九様」
僕はこの後、大長老から『事の真相』を告げられることとなる。
「更新あとがき」
お話を読んでいただき、ありがとうございます。
mitsuzoです。
更新しましたー。
本当にすみません。更新遅くて。
ちょっと今、いろいろと立て込んでおりまして。
という言い訳でした。すみません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)