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プロローグ 【003】  『涙の理由(わけ)』




  【003】




――しばらくして、僕も彼女も気持ちの整理がついたので(主に僕)、改めて自己紹介を兼ねてお互いの情報を交換した。



「改めて……はじめまして。私は小田桐キリカ。知っていると思いますけど、蒼の国騎士団『蒼の咆哮』副隊長を務めています」

「僕の名前は『薙九十九』。僕の住む世界では、本来、名前の部分も『九十九』と漢字で書くんだけど、この世界では名前は『カタカナ』……だよね?」

「はい、そうです。殺された勇者様の名前も『薙ツクモ』と名前はカタカナでした」

「そ、そう……」


『やっぱり、この世界は本当に僕が書いた物語の世界なのだろうか?』……僕はまた、さっきと同じように膝を抱えてループな悩みを考え始めようとしていた。


 すると、突然――キリカが僕を見てプッと笑い出した。


「!? ど、どうしたの……突然?」

「い、いえ……九十九様って私達からしたら、いわば『創造主』とか『神様』みたいな存在のはずなのに、さっき、私の横で膝を抱えてうんうん唸っているところを思い出したら、つい、可笑しくなっちゃいまして……」

「こ、こんな『神様』で申し訳ない……です」

「そんなことないです。むしろ、九十九様みたいな人が『神様』で良かったです!」

「えっ?」

「だって、威張ったりするような神様だったら私、嫌です。それに、こんな『気さくな神様』だったらこうやって親しくお話もできますし、私は九十九様みたいな人なら……好きです!」

「ええっ……!?」


 キリカの口から飛び出した『好き』という言葉に、不意打ちだったこともあって、あたふたしてしまった。


「えっ?……あ! あ、いえ……か、『神様』としてですよ、『神様』として……?!」

「えっ?……あ、ああ! そ、そうだよね! は、はは……『神様』として、ね?」

「そ、そうです! か、『神様』として、です」


 二人は、顔を真っ赤に染めながら、あたふたなやり取りをしていた。


「そ、それにしても……本当に、この世界は僕の創った物語の世界なんでしょうかね……はは」


 僕は、場の空気を変えるべく、話題を変えてみた。


「何、言ってるんですか!」

「わわっ……?!」


 キリカは突然、僕の言葉に感情的に反応した


「私の名前や役職まで当てておきながら、この期に及んでまだそんなことを……。もう、いい加減、素直に認めてください、九十九様!」

「は、はい……すみません」


 僕はキリカの勢いに、只々謝った。キリカは『ふぅ~』と溜息を一つこぼす。


「まったく!……私は九十九様のことを完全に信じているのに、これじゃあ…………何だか、私だけ『バカ』に見えるじゃないですか!」


 と、キリカは人差し指を立てながら下から覗き込むように顔を近づけ呟いた。


「!? そ、そそそそ……そんなことな……痛っ!」


 僕は慌てて、キリカに弁解しようとして…………噛んだ。だ、だって、こんな美少女に顔を近づけられてそんな仕草されたら対応できないですよ。三十九年も生きてきたけど、そんな美少女耐性なんて持ち合わせていません。


「だ、大丈夫ですか、九十九様?! す、すみません、調子に乗りすぎました?!」


 キリカはそう言うと、慌てて僕に謝ってきた。


「い、いや大丈夫、大丈夫。ぼ、僕が勝手に舌を噛んだだけだから……は、はは」

「ご、ごめんなさい……!」

「そ、そんな、気にしないでください。何の問題もありませんから」

「ほ、本当にすみません。私、つい、九十九様の優しさに甘えてしまって調子に乗っちゃいました」

「や、優しいだなんて……そ、そんなことないですよ?! 単に、僕が美少女耐性を持ち合わせていなかっただけですから……」

「??……美少女耐性?」

「?!……い、いえ! す、すみません……何でもないです! と、とにかく、気にしないでください。僕は別に『神様』でもないですし、同じ人間ですから、はは……」


 少し涙目になりながら謝っていたキリカに対して、僕は本当に気にしないよう何度も言って説得した。


「わ、わかりました。九十九様がそこまで仰って頂けるのであれば……あ、ありがとうございます!」

「う、うん。わかってくれたなら、それでいいよ。それに僕のことは『九十九様』じゃなく『九十九』でいいよ」

「それはダメです! それは私が『九十九様』と呼びたいという私の勝手ですから! いくら九十九様の命令でも聞けません!」

「!? え……あ、いや……別に命令だなんて……そんな……」


 僕は、キリカのセリフにまたあたふたと同様した。


「ふふ……冗談です。でも、本当に私が『九十九様』と呼びたいので、そのまま呼ばせてください、ダメ……ですか?」


 ドキッ!


 キリカはそう言うと、さっきと同じように下から覗き込むしぐさで言ってきた。今回のは明らかに『確信犯』だった。


「ダ、ダメじゃない……です」


 僕はその言葉を出すだけで精一杯だった。


「ふふ……ありがとうございます、九十九様っ!」


 キリカは少しイタズラな表情と満面の笑みで返事を返した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「キリカちゃん……ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「?……はい、何でしょう?」

「どうして君は、さっき…………泣いてたの?」


 僕は、彼女にさっき流した『涙の理由わけ』を聞いてみた。


「え?……あ、ああ、気づいていたんですね……」

「い、一応……」


 キリカは九十九から目を背けた。


「……べ、別に話したくないならいいよ。ご、ごめんね」


 僕は、すぐに切り返してこれ以上詮索しないという旨を伝える。


「いえ、ちゃんとお話します。私は薙九十九様を信じてますから」

「……キリカちゃん」


 キリカは一度、深く息を吸い、話を始めた。


「……私は『大長老』のご命令に従い、あなたを……薙九十九を迎えに来ました。理由は、この世界の勇者である『薙ツクモ様』が『魔種族』に殺されたからです」

「!? ゆ、勇者が殺された……?! そ、そんなバカな……!」

「はい、殺されました」


 お、おかしい……おかしいぞ! 僕の書いた物語ではそんな設定にはなっていない。当然のことながら、結末エンディングは勇者が『魔種族のラスボス』を倒してそれで終わりだったはず…………どういうことだ?


「今、この世界の……すべてではないですが一部の者たちだけが『薙ツクモ様が殺された』ということを知っています。それ以外の多くの国民は薙ツクモ様がまだ生きているとしか思ってません」

「……」


 何というか……自分のことじゃないのに、物語の主人公を『薙ツクモ』と設定してしまった以上、自業自得なのだけれど、こう何度も『薙ツクモが殺された話』をされるのは気分の良いものではない……て言うか、ヘコみます。


「と、ところで、キリカちゃん……」

「はい、何ですか?」

「キリカちゃんの涙の理由は、その、僕の『勇者』の死に関係するの? もしかして勇者と……薙ツクモと恋人だった……とか」

「いえ、違います。まったく関係ありません」


 まあ、はっきりと。


 これまでのやり取りの中で、ある意味、一番ヘコみました。


「……やっぱり」

「えっ?」

「九十九様のその反応……本当なら『勇者が殺される』なんてことはなかったってことなんですね?」

「……う、うん。そもそも勇者はこの物語の主人公だからね。本当なら勇者が活躍する話だったんだけど……」

「やはり、そうでしたか。その言葉を九十九様から聞けてよかったです」

「えっ? それはどういう……」

「私もずっと九十九様と同じように『誰かが創った物語の世界なら、その世界の希望である勇者様が死ぬはずがない』と」

「キ、キリカちゃん……」

「九十九様……私はこの世界が本当に好きなんです。ずっとこのまま、世界が、このきれいな国が、続いていって欲しいと心から願っているんです。でも、魔種族の者達は、この美しい世界を暴力で支配しようとしています。世界を悲しみで包み込もうとしています。でも、私にはその暴力を止めるだけの、魔種族を止めるだけの力はありません。それが、くやしくて、くやしくて…………それが、私の『涙の理由わけ』です」


 キリカは身体を震わせていた。それは魔種族への怒り……というよりも、何もできない自分に対しての無力感や歯がゆさのように見えた。


 小田桐キリカという少女は『責任感が強く、芯のある女の子』という設定なので、僕は、その涙の理由わけを聞いてすごく納得がいった。


「それにしても、いくつか解せないところがあるんだけど……」

「さっき言っていた『勇者様の死』のことですか?」

「あ、うん、それもあるんだけど……それよりももっと重要なことがあるんだ」

「??……何ですか?」

「本来、『勇者』である物語の主人公……『薙ツクモ』は、この世界の『術士ウィッチ』によって異世界に召喚サモンされる設定だった。しかし、僕は実際、『召喚サモン』されたわけではなく、君がこの世界に招き入れた状態だ。この点が僕の書いた物語とは食い違っているんだよ」

「ということは、九十九様はこの世界は自分の創った世界じゃないと……そうお思いなのですか?」

「――正直、まだ答えは出ていない……というのが本音かな?『キリカちゃん』や『蒼の国』は確かに僕の話にあるものだけど、でも、同時に、僕の物語にはない設定があるのも事実だ。だから、今は、何とも言えないとしか言えない」

「……そうですね。確かに、その『一致する事実』と『一致しない事実』の食い違いをはっきりさせないと確証はできないですよね」

「す、すみません……」

「どうして謝るんですか?」

「い、いや、キリカちゃんからしたら僕は『希望』になっているんだろうけど、当の本人は、まだ信じ切れていないヘタレだから、何か、申し訳ないな……と思って……」

「そんなことありません!」


 キリカが顔を近づけ、力強く僕の返事を否定した。


「私にとって薙九十九様が存在している時点ですでに十分『希望』なんです!」

「キ、キリカちゃん……?!」


 キリカの勢いに圧倒される九十九。


「私にはわかります! 九十九様は私達の世界……いいえ、それだけじゃなく、もっと大きな意味での……『希望の存在』なのだと!」


 ドキッ!


 ち、近いっ!


 キリカは九十九にさらに顔を近づけ、熱い想いを吐露した。


「そ、そんな……『希望の存在』だなんて……そんなこと言われても……僕はそんな……大した人間じゃ……」

「大丈夫です! 九十九様が何と言おうと、何と思われていようと、私が信じているのでご心配なく!」


 キリカは僕の手を力強く握り、熱い眼差しで、想いを語った。


「"あ、ありがとう"……でいいのかな?」

「はい、"ありがとう"でいいです!」


 キリカはニッコリと満面の笑みで答えた。


 正直、まだ現実を受け入れるまではいっていないけど、でも、少なくとも、この子の想いに応える為に、自分ができることはやってあげたいなと素直に思う自分がいた。




  「更新あとがき」



お話を読んでいただき、ありがとうございます。


mitsuzoです。



更新しましたー。



更新が大分、遅くなってしまい、本当に申し訳ないです。


何とか、少しずつ更新頻度を上げていけるよう頑張ります。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


<(_ _)>( ̄∇ ̄)

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