プロローグ 【002】 『九十九は"辱め"を受けた。防御力が著しく低下した』
【002】
「うう……う~ん」
あれ? 僕は一体、何をしていたんだっけ?
ああ、そうそう、確か、出勤前に最近オープンしたカフェで小説を書こうと思って
あれ? でも、その店は確か、店長の都合で開いてなくて……、
それで、仕方なく出勤時間まで近くの公園で本でも読もうとして……、
そしたら、そこで、誰かに声を……かけられて……、
「……あの、すみません」
「そうそう……そんな透明感のある綺麗な声で、たしか……」
「そ、そろそろ、起きてもらっていいですか……その、私の太股が……痺れて」
「太股……?」
僕はゆっくりと目を開けた。すると、目の前には僕を見下ろす『銀髪の美少女』の顔が映った。
「わ、わわっ……!?」
僕は、ビックリして起き上がる。どうやら僕はこの『銀髪の美少女』の腿の上に寝ていたようだった。
つまり、『ひざまくら』をしてもらっていたということだ…………一気に目が覚めた。
「す、すみません?!」
「い、いえ、大丈夫……です」
「夢……じゃなかったんだ」
僕は『銀髪の美少女』を見ながらそう呟いた。
「はい。夢ではありません……現実です」
『銀髪の美少女』は淡々と呟く。
「そ、そうですか……」
この子……『あの子』に似てるな。まるで、そっくりそのまま『出てきた』ようだ…………まあ、そんなことは『あるはずない』のだけれど。
それにしても、この子……『夢ではありません……現実です』なんて、おかしな言い方するんだな…………て、あれ?
違和感――。
『違和感』の正体。それは…………目の前に広がる景色。
気持ちの良い『青』が広がる空と、ひざくらいの高さまである『草』が辺り一面を埋め尽くしていた。
「あ、あれ? ぼ、僕はたしか、公園のベンチで寝てたはず……なのに……『草原』? しかも、空は曇り空だったはず……でも……『晴天』」
もしかして、寝てる間に僕は移動したのだろうか? 夢遊病みたく? い、いやいやいやいやいや……そんなバカな! じ、じゃあ、この子が僕を移動したとか? でも、なぜ?
すると、ここで『銀髪の美少女』が呟いた。
「お気持ちお察しします」
「……えっ?」
「今、薙九十九様は、ここが『さっきとは違う場所』だということを疑問に感じてますよね?」
「ま、まあ……そうですけど」
『銀髪の美少女』は、ここで、一旦、大きく息を吐いた。そして、意を決したような強い眼差しで再び、言葉を紡ぐ。
「ここは私の国…………『蒼の国』です」
「……蒼の国?」
『蒼の国』……なんだ? 国の名前……なのか?
目の前の『銀髪の美少女』は、僕を見つめていた……まるで、僕の反応を探っているかのようにすぐに言葉を続けることなく、じっと……。
「『蒼の国』……どこかで聞いたことのあるような…………………………あっ!」
すると、僕は『蒼の国』というキーワードに符号する『ひとつの可能性』に辿り着いた。しかし……、
「い、いや、まさか……まさか……そんなの……」
僕は浮かんだ『ひとつの可能性』を、すぐに、むりやりに、強引に押し潰した。
「……やっぱり」
「えっ……?」
僕の反応を見た『銀髪の美少女』は、『確信めいた表情』を浮かべた。そして……、
「そうです。その"まさか"です。ここは、"あの"……『蒼の国』です!」
「なっ……!?」
『銀髪の美少女』は、僕が強引に押し潰した『ひとつの可能性』を、僕以上の強引さで引き上げた。
「な、何だ? な、何を言っているんだ、君は……はは……」
「……」
『銀髪の美少女』は、力強い意思を込めた瞳で僕を凝視する。
「あ、蒼の国? な、何、それ? そんなの、この日本には……い、いや、日本どころか海外にだって、そんな名前の国……」
「はい、ありません。あるわけがありません。だって…………」
「!?……」
や、やめて……くれ。
「蒼の国は……」
や、やめろーーーー!!!!
「薙九十九、あなたが創った世界。『薙九十九が物語として創造した世界』……その中にある国なのですから」
「!?」
押し潰した『ひとつの可能性』が彼女によって強引に引き上げられ、そして、それは『現実』へと変わった。
「バ、バカな……! そんなの…………あるわけがない!!」
な、なんだ、夢? 夢なのか? ということは、僕は今、まだベッドの中で夢を見ていて……それじゃあ、早く、夢から覚めなきゃ……。
「夢じゃないです」
「わ、わあっ! な、なんだよ、いきなり……!?」
まるで、彼女が僕の心を察したかのような発言にビックリした。
「す、すみません……また『夢を見ているのか?』という顔をしていましたので」
「うっ……!」
図星です。
「すみません。あ、あまりにも、ありえない話過ぎて、ビックリしたって言うか……」
「そうですよね。はっきり言って、私もまだ……半信半疑ですし」
「……えっ?」
「だ、だって、おかしいじゃないですか!……『人が作った話が現実になる』なんて! そんなこと!」
「き……」
き、君が、そんなことを言うかっーーーー?!
「ありえない、そんなのありえるはずがないんです! なのに!…………現に私は、『薙九十九様』……あなたをみつけた、みつけてしまった!」
「……」
「あなたをみつけた、あなたがそこに存在している、そのことが! 今、私の中の『半信半疑』を少しずつ崩してきている……」
『銀髪の美少女』は、瞳に少し涙を浮かべながら、まるで、やっと希望をみつけたと訴えるような瞳で声高に叫んだ。
「それに……」
「それに?」
「すでに、私はあなたを私達の世界へお連れしましたから」
「えっ? どういう……」
「あなたと私がいるここは、あなたがさっきまでいた世界ではなく私達の住む世界、つまり……薙九十九様が創った物語の世界の中にいるのです」
「!? ま、まさか……」
「ウソを言ってどうするんです? それに、あなたは気づいてるでしょう? さっきまでは公園のベンチに座っていたはず、空の色もこんな晴天ではなく灰色だったはず……」
「うっ……?!」
この子は、僕が感じた違和感をすでに察知していた。
「それに、あなたは…………私の名前やどういう人物かということもすでに知っている。そのことに、もう……気づいているでしょう?」
「!?……そ、それは」
「だって、ここはあなたの創った世界なのだから。さあ、言ってください。私が何者なのかを……!」
『銀髪の美少女』が、必死な形相で問い詰める。
「……い、いや、僕は、あなたが誰かなんて知らな……」
「ウソ! 本当のことを言って! お願い、言って! 希望を……信じさせてっ!『確信』をくださいっ!」
そう……口を震えながら叫ぶ『銀髪の美少女』。その黒い瞳からはうっすらと涙が浮かんでいた。その『涙』は一体……何を、そこまで彼女を思い詰めさせているのだろう?
彼女のその『涙の理由』は一体……そう思った瞬間、僕の口から『ひとつの可能性の断片』が自然とこぼれ出ていた。
「……お、小田桐」
「えっ……?」
「小田桐……キリカ」
「?!」
「蒼の国騎士団……『蒼の咆哮』副隊長、小田桐キリカ。騎士や国民からは『蒼の聖女』と呼ばれ……尊敬と羨望を受ける……蒼の国最強騎士の一人」
「そ、そうです! そのとおりです! や、やっぱり、本当にあなたは私達の……この世界の……」
「ウ、ウソ……ほ、本当に君は……小田桐キリカ……なのか?」
「はい! 私は小田桐キリカですっ!」
「そ、そんな……」
涙を流しながら喜ぶ小田桐キリカ。その横では、まだ現実を受け入れられず、軽く打ちのめされている薙九十九の姿があった。
僕は小田桐キリカに『ちょっと一人にさせて下さい』と言って、その場で膝を抱えしゃがみこんだ。
う、うそだ! うそだろ! そんな現実離れした話なんてあるか? いや、あった!
い、いやいやいやいや……何、こんな状態で僕はボケてんだ?! い、一旦落ち着こう。
九十九は、一度、立ち上がると大きく3回深呼吸をして、また、しゃがみこんだ。
その横でその様子をキョトン顔で眺めている小田桐キリカ。
しかし、今の薙九十九には、キョトン顔の『銀髪の美少女』でさえ目に映らないほど、混乱していた。
それにしても信じられない、信じられるわけが無い!………………でも、今は『信じる、信じない』という話は置いといて、まずは整理しよう。そうでもしないと頭がおかしくなりそうだ。
僕は一度、大きく深呼吸をして頭を整理してみた。
……彼女が言っていることを整理すると、まず、この世界は僕が創った世界であるということ。確かに『蒼の国』も『小田桐キリカ』も僕がラノベ作家を目指して初めて完成させた処女作『異世界召喚されましたけど何か?』で設定したものと一致する。
「……」
すると、九十九は顔を赤らめ震え出した。
は、恥ずかしい!? なんて、恥ずかしいんだ! 『異世界召喚されましたけど何か?』……確かにラノベのタイトルって感じではあるけど、しかし、九年前の自分と今の自分とのこの『温度差』が作り出す、何とも言えない『恥部を無抵抗で見られているような辱め』は一体?!……ラノベ、なんて恐ろしい子!
『九十九は"辱め"を受けた。防御力が著しく低下した』
ま、まあ……『ラノベ的タイトル』でわかりやすくていいじゃないか! わ、わかりやすさは大事だからな、うん。
『九十九は納得の落としどころをみつけた。少しだけ生きる勇気が湧いた』
と、とりあえず、そこは気にしないでおこう。気にしちゃダメだ! 気にしてしまったら何だか……ここの人達にいろいろと申し訳ない気がする!
「?????」
僕が、横でバタバタと一人悶絶しているのを小田桐キリカが『キョトン顔』で眺めていた……が、そんなこと僕には知る由もなかった。知る余裕もなかった。
とりあえず僕は、タイトルの件はなるべく考えないようにしようと脳内会議の結果に従う……従順なまでに!
とにかく、今のところ、彼女の……小田桐キリカからの話だけで判断すれば、確かにこの世界は僕の書いた物語の世界のようだ。そもそも、この『小田桐キリカ』自体、顔も姿も性格も僕が考えたキャラクターのままだったし、『蒼の国』だってまた然りだ。
「……ということは」
本当に僕の書いた物語の世界ならばそこで登場する『主人公』……異世界に召喚された主人公は『今の僕』ということになるのだろう。実際、物語の流れを考えると、今の状況は物語のプロローグとほぼ一緒だからだ。違うのは、物語の主人公の年齢が『十七歳』ということくらいなだけだ。
年齢はね、さすがに……その、『やっぱ主人公は若い子の方がええやん?』的、発想です ターゲットは十代だし、四十代の主人公なんて誰も自己投影できないし、ライトノベルを読んでる四十代なんて、十代や二十代程、多くないだろうし……。
なんて――そんな過去を振り返ると、いろいろと思い出してきた。
そう言えば、確か、この物語の主人公のキャラクター設定は『自分自身』をほとんど反映させていたんだよな。理由は、自分を土台にして考えたほうがイメージしやすかったし、何より自分がその物語の中で主人公として活躍しているような気がして楽しかったから……。ちなみに外見は『完全フィクション』として自分の理想を目一杯盛り込んでいた。所謂、『どこにでもいる普通の高校生という名のモテたことないなんて言うが外見はどうみてもイケメンの部類』という設定だ……ちょっと憧れていたので。
あと、主人公の名前も自分の名前をそのまま使った。理由は、自分で言うのも何だけど、僕の名前『薙九十九』って、けっこう『中二的な名前で使える』と思っていたからだ。まあ、物語の『世界観』の設定上、『名前』は『カタカナ』にしたけど。
この世界の『蒼の国』という国は、地球で言うところの『日本』に似た国を意識して創った。そのわかりやすい形が、蒼の国の人達の名前だ。蒼の国の国民はすべて『苗字は漢字』で『名前はカタカナ』という設定となっている。まあ、単純な設定ですけど……。
とは言え……それは、あくまで本当に、この世界が、『僕の創った物語の世界であるなら』という話だけれど。
「更新あとがき」
お話を読んでいただき、ありがとうございます。
mitsuzoです。
更新しましたー。
とりあえず、第二話まで更新しましたが、ここからまた、しばらく更新頻度は遅くなるので、ご了承ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
<(_ _)>( ̄∇ ̄)