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アプリ認証@生徒会室

6/15 改稿中です。

― モンスターになれるかもしれない君に ―

 簡単な質問に答えてください。これはこのアプリ活用実験に協力いただける君への大切な質問事項なので、答えていただけなかった場合は協力しないという意思表示と判断し、アプリを凍結します。

 

― 質問に答えますか? 「はい」か「いいえ」で答えてください。


 なんだか、すごいアプリに賛同してしまったような気がする

 


 佩人は放課後の生徒会室で一人タブレットの画面を見つめながら考えていた。


 副会長席からは、眼下に広大な学園全体を見渡すことが可能で、秋も深まってきているこの時期に17時を過ぎればすっかり夕焼けよりも宵闇の暗さが強くなっていた。


 生徒総会は大きな混乱もなく、小学部から大学部までの全ての総会議案審議が円滑に進み、佩人の高等部生徒会副会長の任期も正式に2期目となった。

 つい先ほどまで、総会打ち上げをこの生徒会室で行い、部屋には甘いお菓子の匂いと飲み物の匂いが残っていた。


 朝、あわただしい中で賛同ボタンをタッチしたまま完全に放置していた【 M・A 】というアプリを起動すると、銀色の美しい蛇と西洋式の龍が絡まったような装丁を模した、いわば魔術書のような画面が起動し、そこに現れたのが『モンスターになれるかもしれない君に』という文面だった。


 佩人の記憶からは、昼間の透明女の後輩のことはとうに消滅していて、彼は言葉に出さず、整った顔立ちの眉間に皺を寄せながら、考える。


『こんな珍しいアプリなんだし、学園で正式に配布しているもののようだし。それにしても生徒会の中で話題にもならなかったということは俺だけがこのアプリにあたったのか…。いや、まてまて。こんなある意味気持ち悪いアプリが俺の手元に届くなんて確率は…どれくらいなんだ。それは奇跡の確率なのかそれともそんなに珍しいものでもないのか…あああああ、そんなことはどうでもいいっ。』


 佩人は、彼なりに煩悶していた。


『協力を申し出れば、なんかすごいことになりそうだし、申し出なければこれまでの平凡なままになるのだろうなぁ。平凡は何より大切だと義姉さんには言われているのだから、それはそれでいいのかもしれないが…アニメと漫画と小説に全てをぶつける日々にも決別したいようなそんな気もするし、してはいけないような気もするし…。』


 どうでもいいことに対しても無駄によく考えを回してしまうことが、佩人の特性ではあるのだが、こうして頭の中の脳内麻薬を全開にして、佩人曰く『思考の海』に揺蕩い始めると、ただでさえ周囲に対する注意力が散漫なのに、それに輪をかけて鈍くなる。


 だから、いつのまにか生徒会室の扉が薄く開き、静かに音を立てないように閉められ、時々小さな足音を立てて誰かが侵入してきていることになど、気がつくはずもない。

 そして、姿のない侵入者が、彼が見つめるタブレットの『はい』の部分を今まさにタッチしようとしていることにも、気がつけるはずもない。


 ポーンッ


 悩み、瞳を閉じていた佩人のタブレットが、軽やかな音を立てた時には画面は切り替わっていた。

「ぬぁっ!しまったぁ!!俺の指先が勝手に運命を決めてしまったぁ!!ぬぅぅっ…これが運命さだめの瞬間というやつかぁ。儚いものだなぁ、人の運命など。」

 佩人は変化してしまった画面を見つめながら、一人遠くに目線を彷徨わせ、哀愁さえ漂わせる口調で呟く。


  画面には、新たなメッセージが、相変わらず魔術書の装丁でもたらされる。


 ― 協力者の君へ ―

 私たちはMBTMP @University of the Tokisadaという特殊アプリ開発集団です

 この学園の正規団体として登録され、認証を受けています(詳しくは学園総務部活動管理課まで)


 このM・Aアプリケーションは、この地球上のありとあらゆる怪談・奇譚・怪奇現象などを検索し、その中から君が「なってみたい」と願うものを実際に疑似体験することを目的として開発されたものです。

 このような実証実験に参加していただける君に、いくつかの質問をいたします。

 その質問内容に対する回答が、君の願うモンスター再現性に極めて重要な判断基準となることを念頭に置きつつ、真剣に答えていただけることをお願いしておきます


 ― MBTMP @University of the Tokisada ―


 画面下部には『次へ』の表示があった。

 次を選ばないという選択肢は、画面上にはなかった。

 そして……佩人にもそんな選択肢は無かった。


 生徒会副会長をやっていれば、学内に100を超えると言われている部活動、同好会活動一覧と代表者名程度のデータは覚えている。

 漫画やアニメや小説をこよなく愛する、ある意味2次元フェチで文章フェチな佩人だが、やや変態チックなその偏光性と人間性に関係なく極めて明晰な頭脳を持ち合わせていた。

 定期試験では中学部・高等部を通じて一度たりとも上位10位以内から名前が外れたことはなく、学年1位をとったことすらあるのだから。


 その佩人の記憶の中に、


 ― MBTMP @University of the Tokisada ―


という団体名が確かに存在していた。

 

 ――佩人が中学部に入学したときに、実質的な運営休止状態になったまま、今を持って代表者名が登録されていない学内研究団体であり部活動団体として――


 部活動名は『オカルト事象検証部』。

 活動目的は、オカルト現象を実在のものとして検証を行い再現することを目的とする…だったかな。


 佩人は目じりを細め、まるで獲物を見つけた獰猛なネコ科の生物のような表情を浮かべ、クスクスと小さく笑い声をあげた後で、

「おもしろいなぁ、これ。退屈はしないかもしれないなぁ。」

と、新しい玩具を見つけた肉食動物のような笑みを浮かべた。

 

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