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いつもの朝① @佩人自室

タイトル編集も始めました。

 スマホから大音量のアニソンが流れているにもかかわらず、布団の中に潜り込み、体を丸め眠りの世界に沈み込む。

 部屋の壁に反響するほどの音量のアニソンは、既に5分以上流れているが、布団の中の睡眠を貪る存在は目を覚まさない。

 

 そして。

 2曲目の激しい曲調の音楽が演奏を止めた後、きっちり30秒だけ、部屋は静寂に包まれた。

 

 30秒だけだが。


 そして、静寂は破られ、布団の中の存在は全身を硬直させることになる。


「おはよう、佩人はいと。この声を聴いているということは貴方にはお手軽な死の運命が近づいているかもってことだけど、理解しているのかな?」

 冷たい微笑みを張りつかせているのが理解できそうな、声。

 口調とは異なり、先ほどの大音量のアニソンよりも壁に反響し、布団内に浸透し、なにより丸まっていた男―佩人の意識を凍りつかせそのまま冷凍状態にでもしかねない声。


 全身のひきつるような硬直と、バクバクと音を立てて慌てる心臓に苦悶の表情を浮かべながら、佩人はそこにはいない声に精一杯の大声で返事を返す。


真古刀まこと義姉さんっ、おはようございますっ!!!今日も愚弟を起こしていただきありがとうございますっ!!!」


 と。


 


 佩人が全寮制の学校の個室を与えられる学年になってから半年。

 義姉の声で目を覚ますのも、もう半年になる。


 そして起こされるたびに心臓と筋肉に激しい痛みを感じ、いつも死の恐怖を感じているはずなのだが…。


 なぜだろう。

 

 死の恐怖に戸惑いながら、その戸惑いに脳や心が甘い痺れのような陶酔感を自分にもたらしているのではないかと……そう気が付き始めた自分に戸惑う初めて既に二か月ほどが経過していた。

 

 …我ながら危険な領域に近づいているのではないだろうか。


 心の中で、言葉にださずそう呟くことにも、慣れてきていた。



 体を起こしベッド横にある充電ドックを備えた整理棚から8インチタブレットを取出し、画面上のアプリを起動させる。

 起動すれば…そこには学校への出欠確認と今日の朝食内容、さらには今日の授業予定から各教科担当の確認。さらにはテスト実施状況や課題の状況など…この学校内で必要とされるありとあらゆる情報が網羅された情報ウインドウが展開されるようになっている。


 

 アプリ名は時貞総合情報掲示板。

 学校法人である時貞統合学園に通う全ての学生と全ての教職員が利用する汎用型掲示板アプリ。


 佩人はいつも通りその内容を確認し、ベッドの向かい側の壁に作りつけられた木製棚と一体成型の机に向かい、昨夜のうちに用意した鞄の内容を確認した後で、ベッド頭側の遮光性の強い濃い青色のカーテンを全開にする。


 眩しい太陽の日差し。

 地上4階から見下ろすこの学園の諸施設。

 秋が深まりつつあり、紅葉が進む公園。


 変わらない風景を確認し、頭の回路を切り替え、佩人は一気に下着一枚の半裸になり、部屋に備え付けの洗面室へと飛び込み支度を行う。


 そして、15分と経たないうちに彼は制服に着替え、身支度を整え、再度自分のタブレットを確認していた。


 その画面に、一つの目立たないアプリが追加されていたことに気がついたのは、このときだった。


 *** ***

  M・A

 *** ***


 画面上には円形の魔方陣のような文様に銀色の装飾文字が浮き彫りになったようなアイコンがあった。

 

 

 ……こんなものはインストールした覚えはないんだが。

 

 佩人は少しの間そのアプリを睨みつけていた。

 だが、学園側が貸与しているこのタブレットに新たなアプリが更新プログラムとともにインストールされている可能性は否定できず、アイコンに指を滑らせる。

 最初の表示ウインドウにはアプリの使用許諾が明示されていて、その画面はこの学園の公式アプリとして認証されているものであるということを示していた。


 ……怪しい雰囲気がしないでもないが、何か意味があってのことなんだろう。

 佩人はそう考え、それ以上何も考えることもなく、アプリ認証を行った。


 認証後間もなく、メッセージウインドウが開き、アプリ認証者に対し質問を投げかけ始める。ご丁寧に、人工音声付で。 


 「M・A活用実験に賛同してくれるならば、以下の賛同を 賛同しないならば以下の×を選択してください。」

 

 いや。

 なんだか人工的なかわいい声で賛同するか否かと問われても、それがなんなのかがわからないとどうしようもないのでは。


 佩人は困惑する。

 正直、朝食時間開始まで残り10分を切っている。

 朝食を取り損ねても、食堂の購買で購入すればおにぎりぐらいは確保できるのだが、せっかく毎朝温かな栄養バランスのとれた食事が食べられるというのに、それを食べないのも佩人の流儀には反する。


 だからとりあえず、自分の所属する学園が配布している物なのだからと、何も考えることなく【賛同】を選び、その詳細を朝食後に確認することにした佩人は、タブレットを学園公式のレザーケースに押し込み、食事が提供される場所 ― 時貞コミュニティホール ― へと向かった。


 【君はもんすたーになれるかもしれないよ】


 佩人は確認しなかったが、その表示は彼がアプリを閉じた1分後から10秒間だけ表示され、何事も無かったかのように消滅していた。



 この日。

 この学園に通う学生たちの何%かに同じアプリがインストールされていたことに佩人が気がつくのにはしばらくの時間を要した。


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