僕は雨が嫌いだ
僕は雨が嫌いだ。
一人ぼっちになったあの日を思い出す。
まだ、小さかった僕にとって両親がいない世界は考えられなかったし、考えたくもなかった。だが、幸せな日々は一瞬にして崩れた。
あの日の事は今でも鮮明に覚えている。
家族で外を散歩していると、雨でスリップした車がけたたましい音を発しながら、僕たち家族に向かって突っ込んできた。幸い体が小さかった僕は、電柱と壁との隙間に潜り込んでいたみたいで無傷だったが、両親は……。
次の日の朝。僕は雨が降りしきる中一人で河川敷に座り、流れる川をじっと見つめていた。
もし、悪魔がいるのなら僕を両親の元へ届けて欲しい。
もし、天使がいるのなら両親を僕の元へ届けて欲しい。
頭の中で念仏のように繰り返し繰り返し唱えていると、僕の願いが届いたのか背後から誰かがやってくる気配を感じた。
「どうしたの? そんな所にいると風邪ひいちゃうよ?」
声をかけてきたのは、可愛らしいピンクの傘を持った少女だった。
悪魔? それとも天使? そう尋ねようとしたが寒さと疲労で声が出ない。
「大丈夫? あっ! ちょっと待っててね」
少女は鞄から大きなタオルを取り出し、僕の体を拭いてくれた。
「お父さんとかお母さんはいないの? はぐれれちゃったの? おうちは?」
僕は少女の目を見るだけで、何も言えなかった。
「……そっか。じゃあ、私についてきて」
行く当てもなかったうえに、疲れきっていた僕は少女についてい行く事にした。
少女の家は立派な一軒家で、雨風が凌げるだけじゃなく家の中でも自由に遊べるほどの広さだ。
部屋に案内されるなり、新しいタオルで僕を暖めながら少女が口を開いた。
「これからは一人じゃないよ。君も今日から私の家族の一員だよ」
僕は小さく返事をした。
「……ありがとう」
数ヶ月たった今でも僕の声は理解されない。相手の言葉は理解出来るのに……。でも大丈夫。僕にだって知恵はある。言葉が理解されないのなら行動で示せばいい。
呼ばれたら返事をするし、お風呂に入ってる時は入り口で待ってるし、学校から帰ってくる足音が聞こえれば、一番に玄関で待っている。
一緒に寝るのは信頼の証。
足に擦り寄るのは愛情の証。
毎日のように行く散歩だって、一緒に行くから楽しいし怖くない。紐がついていなくても離れたことなんか一度もない。ただ、雨の日になると散歩は中止になってしまうし、僕との遊ぶ時間が減ってしまうのがとても寂しい。
僕は雨が嫌いだ。