序章
どうやら暗闇は恐怖を呼び起こすものらしい。
あらゆる媒体で見受けられる、少女が(少年でもいいが)暗いところを怖がるシーンに僕は、ちっとも共感を得ることができなかった。その女の子は認識できないところに怖いものを生み出して勝手に恐ろしくなっているのだろう、と昔の僕は結論付けていた。暗いはステキ。ステキは暗い。
そして、今、目の前に広がっているのは、愛してやまない暗闇だった。少しは光があるが。体はシートにもたれかかり、足は歪な形をした前の座席に絡みとられている。動けない。あたりに漂う腐臭にはもはや慣れた。救いの種であるはずの、隣の人が残した機内食はついさっき食べきった。
眠い。足が熱い。
三日前は海外合宿の準備をしていた。これでもその道では名が通っている敏速ランナーだった。足がダメになってしまった今となっては最早どうでもいいコトだが。
僕は助かりたいのだろうか。意識は薄れ、曖昧模糊となりつつある。死ぬのだろうか。隣の死体は昨日、死体となった。腹部に鉄柱が刺さってある事以外は何も不自然なところはない、四肢は丈夫、顔も整った美しいOLさん。最期はこんなひどい人間に人生のあらましを話しながら迎えた。
瞼が重い。次、目を覚ました時には死を目視できる世界なんかじゃなくて、優しい世界がいいなァ。グッバイディスワールドってやつだね。文法あってるかな?英語は得意じゃないんだ。