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奴の重低音、あたしの鼓動

作者: 尼崎楓

かなり短い話です。

未熟ですがよろしくお願いします。

剣道を初めてニ年。

なんでこの部に入ったんだろうと、今更後悔している。

臭いし、痛いし、何より、男受けしない。

テニス部とか、バレー部とか、もっといいところはあったはずなのに…興味本意で入ったのが、運のつきだったのかなぁ。

そんなことを毎日考えていた。

「稽古始めるぞー」

同級生で主将の大内隆也の、掛け声。

頭に響く重低音。

「春日ー早く面つけろよお」

急かすように言われて、私はやっと手拭いを頭に巻きはじめる。

またさっきと同じ後悔の言葉が、ぐるぐる回ってやがて、奴の重低音に掻き消される。



「郁子はさぁ、何でこの部に入ったの?」

帰りの電車の中、友達の理恵は、いっちょまえにアイシャドウを塗った瞼をパチパチさせて聞いてきた。

「さぁ…何でだろ」

私も負けずに、マスカラを塗ったくった睫をシパシパさせて言った。

「じゃあさ、うちの部に来たら?帰宅部だけど」

理恵の言う“うちの部”とは、社会理念情報部という取ってつけたような名前の、そして中身も適当な、帰宅部である。

「あそこは元カレいるからパス」

あたしは即答した。

「まじでぇ?つぅか帰宅部だから会わないって」

「あいつと同じ部にいたら今カノに変な目で見られるからさ」

「そう?つまんないなぁ。郁子以外に友達いないからさぁ」

ケラケラと笑う理恵は、どこか悲しそうだった。

いつの間にか、理恵の降りる駅で電車は停まっている。

「また明日ね」

理恵は小走りに電車から降りて行った。



「春日ー」

あたしの事を名字で呼ぶのは、先生と、奴しかいない。さらに呼び捨てとなると、確実に奴だ。

「なに」

「今度の大会のオーダー決まったから、今から道場に集まって欲しいんだけど」

「昼休みじゃん。しかも今パン食べてんの」

「昼休みだからだろ。」

「やーだーよ〜」

「しょうがないだろ。放課後はテスト期間中で部活休みなんだから」

大内は眼鏡を中指でくいっと上げた。

あたしはしぶしぶ席を立った。



道場に繋がる渡り廊下は年期が入っていて、踏み込む度、みしみしと危うい音がする。

「大内はさぁ、何で主将になったの?」

大内の後ろを歩きながら、あたしは聞いた。

「何でって、なりたかったからだけど?」

「何でなりたかったの?」

大内は少し困ったような、それでいて照れたような表情をして、やがて口を開いた。

「俺、剣道の選手になりたいんだ。小さい頃からの夢で、少しでもアピールするために主将になった。」

大内は顔を隠すようにうつ向いた。

「どうしたの?」

あたしは大内の顔を覗きこんだ。

その瞬間、心臓が跳ねたような気がした。

大内は顔から首まで真っ赤になって、必死にそれを隠していたのだ。

「こんなこと話したの、春日が初めてだ」

大内の顔が、一層赤くなる。

「そー…なんだ。あはは。なぁに照れてんの」

不覚にも、あたしのペースは、大内の言葉で掻き乱されっぱなしだ。

「大内ってもしかして…」

あたしはどうして、思ったことがすぐ出ちゃうんだろう。

「あたしの事好きなの?」





脆い廊下を、必死にかける。さっきより酷い音がした。

聞いてしまった。

聞かなきゃ良かった。

聞かなければ、ただの同級生で、同じ部活をやってる仲間だったのに。


でも一番変なのはあたしだ。


大内が頷いた事がこんなに嬉しいなんて、変すぎる。


これが何なのか、あたしは分かってた。



あたしは大内が好きなんだ。



そう、気付いてしまったあたしの横を、初夏の風が吹き抜けていった。


END


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― 新着の感想 ―
[一言]  はじめまして、雛瀬早悟です。早速ですが感想です。  郁子と、大内との関係の変化が描ききれていないように思います。途中経過を端折って、淡々と結末に辿り着いた感があります。  郁子と理恵の…
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