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ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~  作者: 祈願
〈乙女〉 : 狐が斬る!
40/47

『4』ろしく『0』ねがいします

今回の「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」は作者である〈くずのは〉の体調不良な為、休載させて頂いております、皆様にはたい―――


「ふぅ…筆が進まないわね」


執筆していた手を止め、ふっと目の前に広がる森へと視線を送った

森の中では戦闘が行われていると思われる光が頻繁に立ち上がっていた


「〈口伝〉の習得……そもそも〈口伝〉とは」


言い掛けた所で口が止まってしまった

脳裏に浮かんだのは、今も尚〈口伝〉を会得する為に教えを受けている一人の少女…


〈くずのは〉は顔を顰め、空を仰ぐのであった………





ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~


雪解け……春眠アカツキをprpr!





アカツキと言葉を交わしてから早二日、〈くずのは〉は宛てもなく歩き続けた

特に目的もなく、ただ足が赴くままに歩き続ける。片手には度数の高いアルコールを手に持ち、フラフラと足取りが主ならないまま歩き続ける…


側から見れば飲み過ぎた女性が千鳥足で帰宅していると思われても可笑しくはない。現に目は虚ろに、行く宛てもなく進む足取りは覚束ない


だからと言って彼女の声を掛けるモノはいなかった

『殺人鬼』のせいで円卓会議により夜間の外出が禁じられている為、クリスマス前だと言うのに町は静寂に包まれている


誰にも止められずフラフラと行く宛ても無しに歩いていると路地裏から何かを蹴る音と罵声が聞こえてきた


何気なく、音がする方へ赴いて見ると地に伏せ頭を隠す〈大地人〉に囲みながら暴行し罵声を上げる〈冒険者〉(生ゴミ)達…

殺人鬼であったのならストレスの発散も兼ねてPKしている所であったが、宛ても外れてしまったので柄を返そうとしたが、〈冒険者〉達が〈くずのは〉の存在に気づく方が早かった


「よぅ、姉ちゃん?今は円卓の勅令で夜遊びは禁止になっているんだぜ?」

「円卓様の命令を守らない君も僕達と同じで悪い子ちゃんなんでちゅね~?」

「それとも姉ちゃんも交ざるか?オラッ!」


下衆な笑みを浮かべながら話しかける三人に眉間が寄る

本来なら「死ね、下衆」と言い放ち立ち去るのだが、〈冒険者〉(生ゴミ)に虐げられている〈大地人〉に見覚えがあり、気分は良くないが〈冒険者〉(生ゴミ)と言葉を交わす事にした


「……そこな〈大地人〉は円卓の伝令役ね?」

「そうだよ?俺らはさ~、最近〈アキバの町〉に来たんだけど、円卓っていう組織がデカい顔してんじゃん?あれ…ムカつかね?所詮ゲームだって言うのに警察みたいな事しやがってよ?」

「円卓より勅令です!殺人鬼が出没するので夜間の外出を控えてください!だって!はは!ちょ~ウケる!粋がってんじゃねぇよ!」

「死ぬのは〈大地人〉であって俺らじゃないって言うのにな~に本気になってんだか!オラッ!」


言葉尻を上げ、さらに追い詰めていく〈冒険者〉(生ゴミ)を横目に〈くずのは〉はちょうどよい高さのタルに腰を掛けると暴行を働く三人を肴にお酒を傾けながら観戦し始めることにした


最初に不快に思ったのは暴行を働く〈冒険者〉(生ゴミ)……〈ススキノ〉で腐るほど見てきた行為だが、〈アキバの町〉に来てからお目に掛れなかった暴力により自己優越感を高める行動

次に不快に思ったのは虐げられる〈大地人〉……相手が〈冒険者〉(生ゴミ)だからと言う事だけで抵抗する事を放棄していたと言うのに〈くずのは〉が円卓と言った瞬間、何かを期待するかのように視線を送ってきた他人任せの気持ち


「自己優越感と他力本願…ほら、無理じゃない。どうしても『不の感情』しか見る事しかできないわ」


吐きようのない感情に〈くずのは〉は直接、瓶からアルコールを口にした

飲み慣れた果実酒ではなく、数倍も度数の高いアルコールが〈くずのは〉の喉を焦す…

火照った頬を冷たくなった手で冷やそうと手を顔に持っていくが―――


ここ(アキバ)のお偉いさんって〈大地人〉なんだよな?」


―――手がとまった

コイツ等はいまなんと言ったのか?


「あぁ~?どうだったかな?誰なんだよオラッ!」

「ひぃ!れ、レイネシア姫です!」

「…だとよ。ほれ、教えてくれたお礼に蹴りをやるよ!オラッ!」


―――こいつ等はレイネシアに何かするつもりなのか?

あんな純粋な気持ちを持った、〈大地人〉と〈冒険者〉の事を誰より思っている姫に…


「なんか円卓の武道派ギルドの大半がいねぇみたいだからよ……姫さま攫って俺達の玩具にしようぜ?」


手に持った酒瓶を〈冒険者〉(生ゴミ)の頭に叩きつけようとしたが、隣でせせ笑う男の言葉によって〈くずのは〉は動きを止めてしまった


「姫ちゃんも俺達を利用してるしな!少しはご奉仕してもらわなくちゃな~?」


利用している……たったそれだけの言葉だけで心が揺れ動いてしまった

レイネシアの味方でいると言った筈なのに、利用されていると思うだけで彼女が憎悪の対象となってしまったのだ


ゴブリン進行の際の救援要請も〈冒険者〉の好みに合わせたやり方で使命感を煽り利用した?お祭りの際の不祥事もレイネシアのバックには円卓と言う強力な力を持った組織がある事を示したかったのだからではないか?


すると好意は180度変わり、レイネシアの『心』が冷たく思えた

混濁する思考に自由を捉われ動きを止まってしまった〈くずのは〉を尻目に〈冒険者〉(生ゴミ)達は計画を練っていく


「なんか護衛に腕が立つ〈冒険者〉がついているみたいだけど流石に夜中まではいないよな?」

「いたとしても俺らはLV90。然したる問題じゃねぇよ」

「へへへ、姫様をペットにするとかゲームじゃなきゃ出来ねぇことだよな」


……レイネシアには悪いが人が『成長』する為には一度痛い目にあった方が良い

彼女の成長の為ならここは素直に見逃すべきなのではないか?

アカツキにも痛みを持って一歩進む事を促した事柄、レイネシアも今回の件で一歩進むことが出来るのではないか?


ならば自分のする事は決まっている。ここは彼らを見逃しレイネシアの『成長』の糧になってもらうべきだと……しかし―――


何も言わず立ち去ろうとしても、足が動かなかった。それだけではない。『心』が痛むのだ

アカツキの時にもルンデルハウスの時も感じる事がなかった痛みが〈くずのは〉の顔を顰めさせた


なぜ?これはレイネシアの為に必要な事だとわかっているのに体が思い通りに動いてくれなかった


困惑する〈くずのは〉を尻目に〈冒険者〉(生ゴミ)達は話が纏め終ったようで地に横たわる〈大地人〉に唾を吐きかけ〈くずのは〉に話しかけてくる


「君も話を聞いてただろ?俺達は、今夜レイネシアを攫いに行くんだがオマエも来いよ」

「円卓のルールが守れない悪い子同士、仲良くしようぜ~?」

「まぁ、ここでNOと言えばそこの〈大地人〉の二の前にッ!てめぇ…」


〈くずのは〉の肩に手をかけようとした〈冒険者〉(生ゴミ)は苛立ちながらも彼の足に縋り付き、歩みを止める〈大地人〉を睨み付けた。仲間の〈冒険者〉もそれに気づき腹を思いっきり蹴り上げ放すように暴力で伝えたが幾ら蹴り上げても一向に〈大地人〉は足から手を放す事はなかった


「うぜーんだよ!とっとと放しやがれ!」

「ぐふっ…は、放すもんか…れ、レイネシア姫に手を出させるもんか!」

「ッ!」


目を見開いて驚いた

なにもかも諦め他人に助けを求めるしかなかった〈大地人〉が、強き意思のもと必死に〈冒険者〉に食らいついたのだから


「レイネシアぁ?テメェは利用されてるって実感あんのか!あぁ!」

「利用されてもいい!ッグ!れ、レイネシア姫が俺達と〈冒険者〉を繋いでくれるなら…俺は利用されてもいい!」

「……」


〈くずのは〉はただジッと虐げられている〈大地人〉の言葉に耳を傾け続けた

この先に…この話の先に……己が見つけられなかった答えがあると感じて…


「俺らとテメェらが繋がるぅ?はっ!夢話も大概にしやがれ!現にテメェは俺らと繋がっていんのか?あぁん!」

「ィッ!…たとえ今が無理でもいつかきっと繋げてくれる!お、俺はレイネシア姫を信じているから!」


信じている……〈くずのは〉が忘れてしまったピース。言葉では幾らでも使った事があるフレーズだが、アカツキに諭され、新しい仲間と出会い、見守っていたいと思う人が出来て思い出した『心』……


茶会の時は当たり前過ぎて、気付けなかった『心』。

確かに茶会の時はみんながみんな『信頼』し『放蕩者の茶会』と言うグループを良くさせようとしていて……自分もその一員になってみんなを『信頼』していた


茶会解散時に失くしてしまったモノをやっと〈くずのは〉は見つけられたのだ………


「仲間を信じ、信じてくれる仲間に答える………不の感情(マイナス)があったとしても」

「あぁん?気でも狂ったッ!」


クスリっと笑みを浮かべた〈くずのは〉は、一陣の風となり振り返った〈冒険者〉(生ゴミ)の顔に全力で掌底を叩き込んだ


本当に女性魔術師の筋力かと疑問に思う程の威力を持った掌底は〈冒険者〉(生ゴミ)を壁に叩きつけるだけで終わらなく完全に意識を叩き落としたのであった


「デクッ!?テメェ!何して「黙りなさい生ゴミ」 ご、ゴミだぁ~?」


懐から魔法具〈金毛九尾〉を取り出し、勢いよく開くと笑みを浮かべながら口元を隠した


「息が臭い」


……守護戦士の〈アンカー・ハウル〉よろしく一言口にしただけで完全に二人の〈冒険者〉は標的を〈くずのは〉に移した


「ど、どうやら〈大地人〉の二の前になりてぇらしいな?えぇ?」

「話し方が下品、三流チンピラ、口が臭い」

「――――ッ!」


最早、言葉はいらなかった言葉にならない怒声を上げながら〈くずのは〉に襲いかかってきた

対する〈くずのは〉は笑みを絶やさないまま、突撃してきた一人目を脇を抜けて避けると二人目の顔目掛けて酒瓶を叩きつけた


パリンっと心地よい音が響く反面、中に入っていたアルコールで「目が~っ!目が~っ!」と苦しもがく男の悲鳴も路地裏に響き渡った


いくら気に食わない相手だとしても全力で酒瓶を顔に叩きつける〈くずのは〉

現場を知らない人が見たら犯人は間違いなく彼女であろう・・・・・


「お、おい!大丈夫かノーオ?て、テメェ!」

「なにかしら?私のレイネシアに手を出そうとしたのよ……当然の酬いだわ。あと口が臭い」

「レイネシアだとぉ?はっ!テメェも利用されているだけじゃねぇのか?えぇ?〈大地人〉と〈冒険者〉が友達になれると本気で思っているのかよ!相手はデータの塊だっていうのによ!」


データ……確かにそうだ

レイネシアもだが〈大地人〉は数式が組まれたプログラムでしかない

決められた動作、決められた発想、決められた力……全てが決められた中でしか動けなく前に進もうとしない〈大地人〉は私の嫌う人種だが……〈くずのは〉には些細な事でしかなかった


「…テメェ、何笑っていやがる!」


〈冒険者〉の怒声の返事が微笑だった事が更に男の怒りのボルテージを上げていく


「ふふふ、ごめんさない。…そうね、貴方、友達いないでしょ?」

「……は?」


思いもしない返答に男は呆然するが、そんなこと知ったこっちゃないとばかりに〈くずのは〉は男の周りを舞う


「データだからなんだと言うのかしら?たとえデータの塊だとしてもお互いに信頼し合えば既に友達でしょう?」

「し、信頼だぁ?テメェは信頼されているなら利用されてもいいって言うのか!?データの塊なんかにぃぃッ!?」


言葉が続かなかった……〈くずのは〉が男の周りを一周周るや否や男を中心とした足元には見たことの無い数字や英単語が並ぶデータが浮かび上がってきたのだ

驚き言葉を詰まらせるが、振り返った先では他の二人にも同じ現象が沸き起こっていた


「――――口伝」

「ッ!」


路地裏に響くリンっとした声が死刑判決のように響き、視線を〈くずのは〉に戻そうとするが思うように体を動かす事が出来なかった


――――ただ見えるのは淡く光る彼女の手だけ


「そもそも利用されているとは思っていないわ。……レイネシアは純粋な子よ?真剣に悩み、親身になって考え、真っ直ぐに決断する。……そんな彼女がこの私を利用できると思うかしら?」

「な、なに「答えは聴いていないわ」ッ!」

「他も同じ、例え利用されようが『心』に『不の感情』を抱いていようが、『信頼』と言う『感情』があれば『不の感情』は些細な事でしかないわ。…確かに嫉み・嫉妬・優越感を相手に抱き『不の感情』しか見えない時もある。だけどそれを含めて全てが人だから、『不の感情』を知って尚、丸ごと信じれば『利用』と言う言葉は『信頼』にかわる」


上手く動かない体を必死に動かし、データの奔流を堰き止めようとするが、全く変化する見込みはない。そして―――〈くずのは〉の魔法は完成した


「残念、時間切れよ?」

「な、な、な、なにしやがるテメェ!」

「…生ゴミに話しかける趣味はないわ。」

「ッ!て、テメェ!…ッ!衛兵はどうした!衛兵は!町は戦闘可能領域じゃねぇだろ!」

「……」

「聞いてんのかデメェ!」

「……うるさいわね、それはゲームでの設定でしょう?ここはリアルなの、穴なんて幾らでもあるわ」

「な、な、な、なっ!」

「ゴミはゴミ箱へ…社会人のルールね?……我!真理築き理を崩すっ!情報書換(オーバーリライト)・『(ゲート)』ッ!行先は…取りあえず南米サーバーでいいかしら?」

「はぁ!?なにを言って「転送」――――」


一瞬の発光、路地裏に光が立ち上り辺りを照らし、光が収まった事には暴虐を行っていた〈冒険者〉は跡形も無く消えていなくなっていた

〈大地人〉は今し方起きた〈冒険者〉の奇跡に呆然と〈くずのは〉を見つめるだけであったが、彼女が溜息をこぼし、パチンっと心地よい音を立てて扇子を閉じたのを気に頭を地面に擦り付けながら〈くずのは〉に感謝の意を唱えたが―――


「あ、ありがとうござ「言わなかったかしら?私は生ゴミと話す趣味はないと」…え?」


―――思わぬ罵倒による返答に体を硬直させたのであった


「ただ虐げられるだけで『成長』しない〈大地人〉など生ゴミと同じだわ。いえ、貴方達はデータの塊だったわね?……ゴミが私に話しかけていいと思っているのかしら?」


まるで先程まで暴力を振るってきた〈冒険者〉が子悪党に思える程の威圧感が〈大地人〉に襲いかかる。……冷や汗が止まらず足が震えて立ち会がる事も出来ない。

彼の本能がこの場を全力で逃げろと訴えかけているが、蛇に睨まれた蛙の様に動く事も話す事も出来ないでいた………しかし、彼女が視線を外し背を向けた瞬間、あの重圧な威圧感は消えて無くなっていった


「…でもまぁ、貴方の言葉は心に響いたわ。…一度だけは許してあげましょう、早く消えなさい」

「ッ!あ、ありがとうございました!」


蛇に解放された蛙は一目散にその場を後にするのであった



遠ざかっていく足音に耳を傾けていた〈くずのは〉は、完全に足音が聞こえなくなった頃合いで振り向き、空を見上げた


「今の仲間…昔の仲間…」


四方を建物に囲まれて狭く目に映る星空…


「昔の仲間に縛られて前に進むことの出来ない私…」


四方の隅を侵食する色に気づいた〈くずのは〉は目尻をあげた、そして―――


「だからなのね?自分が進めないから進める、『成長』出来る人を好むのはッ!」


言葉尻を僅かにあげ、足元にデータの奔流を浮かべると〈くずのは〉は屋上に飛躍した


「受け入れる……無責任な言葉ね?貴女もそうだとは思わない?私…」


重力に喧嘩を売るように飛躍し着地した〈くずのは〉は背に暖かな光を感じ、目を細めながら振り返る……


「自らの道を塞いでいたのは……私も同じだったのね」


立ち昇る太陽は〈くずのは〉の『心』の中を写したように綺羅びらかに光り輝くのであった


「……取りあえず休みましょう、朝日がきついわ」



……最後まで締まらない彼女は徹夜明けであった





〈くずのは〉が殺人鬼討伐の予定日が今日だった事に気づいたのは貴重な睡眠を終えて直ぐのことであった

本来、〈くずのは〉は討伐に参加する予定ではなかった為、誰も連絡をしてこなかった。それ以前にフレンドリストがいまだ茶会メンバーと〈記録の地平線〉メンバー、マリエールしかいないのも原因ではあるたが…


そんな事で〈くずのは〉は苛立ちながらも集合場所となっている『水楓の館』へと歩みを進め、小隊ごとで作戦会議をしている集団の、よく知る人物に話しかけたのであった


「ナズナ」

「……〈くずのは〉?どうしたんだい?」


予想もしない人物に話しかけられた事でナズナは驚き、何か伝えにきたのかと目を細めた


「私も今回は参加してあげるわ、パーティーに入れなさい……あと人払いを」


声は上げないが、本当に驚いたとばかりに両手をあげ驚きを現した

なによりも〈くずのは〉の纏う雰囲気が自分達を相手にしている感じに近い事に口元を緩めた


「へぇ~、どういう心境の変化かな?」

「そのにやけ顔を斬られたくなければ言うとおりにしろ」

「おぉ、怖い怖い」


恍けながらも〈くずのは〉の目的の人物以外に声をかけ先に行っている様に即し、自身も後に続こうと〈くずのは〉の隣を横切ろうとしたが、足が止まり口が開いてしまった


「……なんだか、昔みたいだよ〈くずのは〉」

「いけない事かしら?」

「いいや!惚れちまいそうだよ」

「残念、貴女では役者不足だわ」


友人の変化に、いや友人が自分の良く知る友人に戻っている感じがして嬉しくなりナズナは笑みを隠そうともしないで大きく笑いながらその場を後にした


「…まったく、あの馬鹿は人目を気にしなさいよ」

「〈くずのは〉…」


ナズナの計らいにより、二人っきり……アカツキと対面する形になった〈くずのは〉は表情の硬いアカツキに物語を読み上げる様に言葉を口にし始めた


「相手はレイド級の力を持つ〈大地人〉。…間違った『成長』をした愚かな凡愚」

「……」

「だとしても力は強大。言わば殺人鬼は〈アキバの町〉そのモノ…それは一度、敗れた貴女の方がよく知っているわね?」

「あぁ」


アカツキと視線を合わせようとしなかった〈くずのは〉が、初めて己が意思でアカツキを視界に入れ、彼女の状態を確かめるように眺め呟いた


「…貴女の求めた〈口伝〉は未収得、装備は皆の好意で新調した辛うじて一級品……それでも挑むのね?」

「…主と約束した。それに私を思ってくれる仲間の為にも私は行く」


アカツキの言葉は真っ直ぐに〈くずのは〉の目を見ながら告げられ、明確な意思が宿っていた


「本当に愚かね……後ろを向きなさい」


そんな目で見つめてくるアカツキを見つめ返し、〈くずのは〉は理解した。彼女が言った『仲間』の中には自分も入っていると言う事に……


何故か〈くずのは〉の事を警戒しながら後ろを向くアカツキに笑みがこぼれてしまうが、普段の自分の行いを振り返ってみれば当たり前だったなと笑みが苦笑に変わった

そして、口伝を発動させながらアカツキの髪を纏めていた〈ヘリオトロープの髪留〉を素早く抜き取り代わりの髪留で髪を纏め上げた


「・・・・・・これは?」


新しく髪を纏めてあげている髪留を髪型が崩れない程度に触りながらも〈くずのは〉のした行動に不審がり説明を求めるアカツキ


「〈メラストマの髪留〉……上手く使いなさい」

「なっ!」


思わず声を上げて驚いてしまったが、〈くずのは〉に人目を気にしなさいと嗜まれ慌てて口を閉じた

〈メラストマの髪留〉と言う装備品をアカツキは知っていた

昔行われた大規模レイドのレアドロップとして手に入れる事が出来る〈秘法級〉アイテムであり、数多くある〈秘法級〉の中でも上位に入る程人気が高い装備品

理由の原因は見た目もさることながら性能が〈幻想級〉と損色ない、そして暗殺者のステータスを大幅上昇させる効果があり、アカツキも再導入時にはお目に掛りたい一品の一つであった


「そんな貴重なモノを…それに〈秘法級〉だとアンロックが「細かい事は投げ捨てなさい」……そうだったな、〈くずのは〉だからな」

「良くおわかりで……仮にも私を受け止めると言ったのだからそれなりの身嗜みをしなさいな」

「〈くずのは〉……」


言葉の節々に棘があるのは相変わらずだが、彼女が自分の事を思い用意したモノだと思うと自然と心が暖かくなっていった


「………長年、拒み続けていたモノを表に出す事は出来ないわ。でも……少なくとも今日よりは進んで…『成長』するつもりよ」


そしてなりより、人を近づけさせなかった〈くずのは〉の変化に一番歓喜が湧き、普段の自分らしからぬほどの大声で答えてしまった


「あぁ!私は…待っている!仲間だからな!」

「だから人目を………アカツキ、貴女はシロエの忍として生きるのならそれでも構わないわ。でもね……この私を受け止めると言った責任は取ってもらうわよ?」

「うむ!……だが〈くずのは〉が責任と言うと何だか怖いな」

「失礼ね……私の隣に立つのであれば少しは光り輝きなさい?」

「あぁ」



ようやく〈くずのは〉は本当の意味で〈記録の地平線〉の一員になったのであった

だが、彼女たちの行く手を遮る障害はまだ多く残っているだろう…だからと言って〈くずのは〉が〈くずのは〉であり続ける限り――――






――――――この関係は崩れないと思いたい






補足


〈メラストマの髪留〉

5年前に行われた大規模クエスト〈妖怪達の宴〉の木魅からレアドロップとして入手できる〈秘法級〉アイテム。

暗殺者専用装備品さらには女性限定と言う縛りがありながら今尚、高額で取引され、市場に出回る〈妖怪達の宴〉のドロップアイテムの中でも上から数えた方が早い位に高額なアイテムとして知られている

暗殺者人口が多い事もあるが〈妖怪達の宴〉のドロップアイテムの特徴であるデメリット効果がメリットとして使える事が高額の一因になっている

メラストマとはノボタンの別名であり花言葉は「謙虚な輝き・ひたむきな愛情」



◆装備条件

女性暗殺者専用装備品

◆メリット能力

物理防御上昇

魔法防御上昇

特技の再使用規制時間を短縮

◆デメリット能力

火炎属性攻撃被ダメージ4倍

氷結属性攻撃被ダメージ3倍

付属効果の継続時間上昇



裏話

当初『付属効果の継続時間上昇』がステータス上昇、付属回復の継続時間まで伸ばしてしまう。

デメリットである被ダメージの増加が『魔法防御上昇』の矛盾し、デメリット弱くさせている為、修正が入る予定であったが、ドロップ数を確信した所、100もドロップしていなかった為、修正させずに性能は〈幻想級〉なのに〈秘法級〉と言うバグアイテムとなってしまった


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