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ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~  作者: 祈願
〈乙女〉 : 狐が斬る!
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人の暖か『3』は逆に『9』るしい…

窯変天目刀(チェンジインキルン)

黒地の刀身に美しい模様の走るセラミックブレード。黒の釉が光の反射を防ぎ、隠匿性を高めている。「数寄者」が作る製作級アイテムである

また『数寄者』とは芸道に執心な人物の俗称であり、専門業とはせずに何らかの芸事に打ち込む人たちの事を言う


〈常闇の黒装束〉

闇に溶け込むような色合いの忍衣。周囲が暗いほど装備した者の能力を上昇する特異な魔力を持ち、闇の魔法および暗視装備との併用が定石である。ようは真っ黒クロ助でありんすな!


〈ヘリオトロープの髪留〉

幸運値と魔法防御が上昇する装飾品。破壊を代償に周辺のモンスターの敵愾心を煽る任意起動効果を持つ。ヘリオトロープの花言葉は「忠誠心、献身的な愛」。

今のツッキーを表しておりんしてあまりわっちは好きではありんせん



「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」著作者:くずのは

より抜粋……



「〈ヘリオトローブの髪留〉…ぬしが身に着けるものは今のツッキーを表しておりんしたね…、しかし」

「ん?書き終わったのかい〈くずのは〉?」


同族と一緒にソファーに寝転がる彼女は、慌しく動き回る乙女達を尻目にお茶請けとして出された苺大福を口にした


「一歩踏み出したぬしには些か身に余る髪留でありんすなぁ~?」

「無視ですか、そうですか。…もう膝枕してあげないぞ?」

「うにゃにゃ~!」

「うぉっ!?くずぐったいって!」


大福の粉で口元が白くなっている事など気にせずに同じく白い肌をしたナズナの膝に全力で擦り付く


「狐が二匹……と言うより猫が二匹、ですね」

「…と言うよりお二人にも働いて欲しいのですが」


二人がじゃれている様子にヘンリエッタとリーゼはため息をこぼすのであった





ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~


狐、心の向こうに……





「うにゃ~…寒いでありんすな」

「そう、だな」


アキバの夜空は一面の星空に包まれていた

大神殿から直接連行されてきたアカツキはとりあえずという言葉と共に朝食兼昼食を食べさせられたあと、詳しい事情を聞くという流れになり、『水楓の館』の執務室に通されたのだが、蓋を開けてば己が羞恥心を思い知らされ更には自分を気にかけてくれる人や心配してくれる人が沢山いる事を再確認したのであった


自身がどれだけ無謀で自分勝手な事をしていたのか思い知り、後悔に見舞われると思っていたがホームに赴く足取りは重くはなかった…むしろ、新たな決意を胸に秘め決して今度は間違えない為にもしっかりとした足取りで帰り道を歩んでいた


「ツッキーは明日から〈口伝〉と連携の練習でありんすか?」

「あぁ…でもクーは本当に参加しないのか?」

「めんどうでありんす~!興味ありんせんからね~」

「………」


だからだろうか…

愚かな自分を諭してくれたリーゼやヘンリエッタ、自分の事を『友達』と言って背中を押してくれたレイネシア……正面から向き合う事で周りがあたえてくれる『暖かさ』を感じる事が出来たアカツキだからこそ彼女の本心がわからないでいた


昔の自分なら「あぁ、いつも通りのニート駄狐」と割り切るのだが、どうしても心に引っ掛かりが残った


「ヘンリーとりぃぜの二人がいれば安心して〈大地人〉なんてイチコロでありんしょう!」

「……そうだな」


先の言葉もそうだが、彼女の言葉には皆を心配し、影ながら応援する良き友人の

言葉の様に聞こえるが何故か重みが無いように感じられた


「ぬしは人の心に触れて一歩進みんした!やったね!」


彼女が陽気に話しかけるが、偽りの言葉を聞いているようでむず痒くなり言ってしまった――


「クーは……進もうとしないのか?」

「うにゃ?」


振り返る彼女に気づき慌てて手で口を隠すが、近づき顔を覗き込みながらニヤニヤする彼女に耐えられなくなり、アカツキは思った事を口にすることに決めた


「私は…おまえのおかげで前に進めた…だからわかる。いまのお前は昔の私と同じだって…」

「なんと!陽気で楽しく!そして怠ける事が生きがいのわっちが、コミュ障じみたぬしと同じともうしんすか!?」


コミュ障と言う言葉に眉を上げるが、周りから見たら口下手な私はコミュ障と思われても可笑しくはないのか?と嫌な事で納得が言ってしまい更に眉を上げた


「確かに!…オマエはみんなに好かれている…と思う。けど……なにか一線引いているようにも感じる」

「……根拠は?」

「ない。でも上端だけ…みんなに好かれる仮面を被り、その…人の心…本心に触れる事も正面から向き合う事も避けているみたいに感じる。そんなオマエが…さっきまでの自分の様でツライ…」


根拠はないし、明確な確証もないのに自分と同じと言う暴言(コミュ障)を吐くアカツキに対し、彼女は懐から質素な扇子を取り出し口元を隠すと―――


「……随分と勝手な事を言ってくれるじゃない?誰のおかげで人と向き合える事が出来たと思うのかしら?」


―――雰囲気を180度、変化させ耳を透き通るような声で返事を返してきたのだ


「クー?いや、違う……今のオマエが本当のクーなのか?」

「私の事はどうでも…よくはないわね。そこまで言うのであれば答えましょう、私は〈くずのは〉。……苦にもシロエと同じく〈放蕩者の茶会〉に所属していたモノよ」


名前を名乗っただけだと言うのにアカツキは3つの意味で驚く事になった

一つは単純に突然変化した声質や態度に対して、二つ目はステータス画面に表記されていたキャラクターネームが〈クー〉から〈くずのは〉に変化した事


そしてなにより、主から聞いていた『情報を操作する』彼女の〈口伝〉が本当に実在する事を目の辺りにしたのだ


「…主から聞いてはいたが本当だったのか」

「人の言う事を素直に信じるのは宜しくはないけれど…それが貴女の美徳だから許しましょう…さて、貴女の質問に答える事にしようかしら。今の私が本当の私なのか?よね」


手頃なモノに腰を下ろし、足を組む。もとより露出が多くスリットも鋭い和服は足を組み替えるだけで仲が見えそうになり淫猥だが、当の本人は気にした様子もなく言葉を口にする


「答えはNO。今の私もクーであり、クーである私も私である。私と私は表裏でわかれているように思えるが、根本的な所は同じよ」


意味が分からなかったけど、要するに二人とも同じ人だと自己完結したアカツキ。

決して哲学的な事に思考が停止したのではなく、息を飲むまに告げられたもっとも気になる話題に意識を集中したかった為だと思いたい…


「二つ目、私が皆と一線引いている…YESよ」

「なぜ?」


やはり、と思いつつも自分の言葉の少なさに焦りを感じてしまった


「『心』と向き合う事は私には苦痛なのよ」

「……はなしがうまくみえない」


含蓄がある言葉にアカツキは先程の様に思考を捨てて逃げたくなったが、逃げる訳にはいかなかった


「ふふ、本心とは『ありのままの心』。なにも『心』は、暖かさだけではなく、時には残酷な冷たさを与えるもの」

「つめたさ…」

「嫉妬、独占、優越感…他にも多々あるわね?まぁ、総じて言える事は他者を陥れても先に、優位に、自分の力を示したいと思う『不の感情』。…人の『心』と向き合うという行為は、そういう事も含めて向き合うと言うの」


冷たい心、不の感情……彼女に言われてアカツキも覚えがあるものだと感じた

祭りの際に、シロエと共に寄り添うミノリを見て感じた言いようのない感情……確かにあれは不の感情ともいえるのではないか?と…でも―――


「…私は皆の『暖かさ』に触れたから一歩進めたと思っている」


だからと言ってミノリを蔑ろにするつもりないし、関係を断ち切ろうとも思えなかった

アカツキの問に一瞬だけ顔色を変えた〈くずのは〉であったが、何事も無かったかのように問に対する答えを口にした


「……もちろん『心』と向き合う事を危惧している訳ではないわ?『成長』するには『心』はとても大切なファクターですもの。でも…」


玩んでいた扇子を閉じるや否や木が折れた破壊音と共に―――


「私は……冷たい心(マイナス)でしか捉える事ができない。どうしても人が陥れようとする気持ちや感情、黒く醜い『不の感情』だけに目が言ってしまうのよ」


鋭い視線と言葉がアカツキに向けられた

まるで自分の心の中まで見抜いているような鋭い視線にアカツキは感情が赴くままに反論する


「そんな、そんな事はない筈だ!ミノリやトウヤ、ルディ!オマエを慕っている仲間さえオマエはそんな感情で見ているのか!?」

「言葉だけ並べても貴女は納得できないでしょう。……ルンデルハウス=コード、確かに彼は私の好むモノになったわ」


感情を爆発させたアカツキを哀れそうに見つめながら〈くずのは〉は言葉を続けた


「進歩しない、進もうともしない醜く愚かな『大地人』から可能性の塊『冒険者』になったわ。素晴らしい『成長』だわ…世界の法則を壊し再構築した存在だと言える。…でも、それを私はシロエの身の安全を捧げて成し遂げたモノ、他人を贄にして得たモノだと考えてしまう」

「なっ!?」

「貴女は知らないでしょうが、シロエはあの一件で『西』に狙われるようになったわ。……身の安全だけじゃない、立場ももう後戻り、振り返る事が出来ない場所まで進んでしまった」

「『西』……ッ!まさか今回の遠征も『西』絡みなのか!?」

「答えは…可でもなり非でもある。今回の件はコレの問題よ」

「…お金?」


最近よく耳にする『西』と言う言葉に過剰に反応し、シロエの身を案じたが、親指と突き指で丸を作りながら苦笑する〈くずのは〉によってアカツキが抱いていた危惧は払拭された


「そうよ?今回の遠征でシロエはとても大きな買い物がしたいのよ、それは『西』の支配に抵抗する一手でもあるし、下手したらシロエを『絶対の王』として君臨させる程の大きな買い物よ」


(シロエ)は何を購入するつもりなのかと疑問に思うアカツキであったが、今考える事はシロエの事ではない、気持ちを切り替え〈くずのは〉を見つめた


「……話が逸れたわね。ルディの例もそうだけど、ミノリ達もそう。ミノリやトウヤ、五十鈴は虐げられていたとしても〈ハーメルン〉の贄がなくして今の地位を築けていたかしら?……彼らの救済の為に贄になった〈ハーメルン〉はそのあと、どうなったでしょうね?」

「それは…」


答えなれなかった。あの時はアキバに潜む悪を倒し、悪に苦しむ〈冒険者〉を救い出す事しか考えていなかった。……あの事件の後の〈ハーメルン〉は…いったい…


「どうしても全て冷たい心(マイナス)で見てしまう。…そんな私の『心』を受け入れてくれる人なんているのかしら?」

「・・・」

「・・・そうでしょうね」


無言になってしまったアカツキを当然だと言わんばかりに微笑んで見つめる〈くずのは〉

全ての事に対し裏があると思い、世界そのものが斜めに見えてしまう〈くずのは〉

人とは違う考えを持ち、素直に受け入れる事を禁じられた哀れな一匹の狐…

そんな〈くずのは〉に対しアカツキは―――


「・・・・いる」

「………なんて?」

「ッ!ここにいる!私が私を受け止めて見せる!」


再び感情を爆発させた。

普段の彼女を知る者が見たら声を上げて驚く光景であるが、残念な事に今この場にはアカツキと〈くずのは〉しかいない

そんなアカツキに答えるかのように〈くずのは〉も声を上げた


「なにを馬鹿な!つい先ほどまで『心』を閉ざしていた者が私を受け入れると!?愚かにもほどがあるわ!」

「愚かではない!私は必ずオマエを受け止めて見せる!」

「その口を閉じなさい!根拠もなしに同情で『心』と向き合う事は『心』を傷つけ更に冷たく(マイナス)させる事を知りなさい!」

「根拠ならある!」

「ッ!」


アカツキの言い放った言葉に〈くずのは〉は初めて息を飲み、大きく目を見開いた


「……〈放蕩者の茶会〉。これが根拠だ」

「な、なにを…」

「主が言っていた。〈放蕩者の茶会〉創立メンバーにオマエがいて主の前任者だったと。初めて会った時『愚図』って言われたと語っていた」

「………」

「直継もだ!『屑』と言われたと聞いた!…そこは…私も同意する」

「……」

「老師は『歳考えて話せ愚老』。…〈放蕩者の茶会〉のマスターとの会話は罵倒と皮肉しかなかったと聞いた」

「……なにが言いたいのかしら」


もとより我慢強くない〈くずのは〉は、遠回しな言い方をするアカツキにイラつきつつも続きを即した。そして―――


「だけど…その…主達はオマエの『心』に触れても仲間でいたのだ!だから私も「勝手な事をいうのではありません」ッツ!」


―――初めて、初めて〈くずのは〉として感情を爆発させたのだ

大きな声を上げる事は多々あったとしても感情が赴くままに声を上げる事は決してなかった〈くずのは〉が等々、『心』を表に出したのだ


「あの者たちは特別なの…〈茶会〉は誰もが他人を考え上手くいくように行動していたから私も受け入れてくれた。そんな大切な仲間と貴女が同じと「私達は仲間ではないか!」ッ!」

「なぜ昔の仲間でなくてはいけないのだ!確かに私では主みたいに受け入れる事が出来ないかもしれん!だけど、私は!今の仲間として〈くずのは〉と向き合いたいッ!」


だが、アカツキは止まらない。ここで止まってしまったら二度と〈くずのは〉と向き合える事ができないと悟ったのだ。最初に感じた焦りがこの事だと悟ったのだ


〈くずのは〉を見つめるアカツキの目には強い意志が宿っており、〈くずのは〉の反論をさせまいと思いもままに不器用ながら言葉をぶつけていった。そしてアカツキの説得は―――


「だから!「話は終わりかしら?邪魔したわね」ッ!くずのはッ!」




〈くずのは〉の逃亡と言う形で幕を終わりを告げるのであった…



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