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ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~  作者: 祈願
〈海外〉 :海を渡る狐
28/47

『2』ふふ…『8』切れんばかりのprpr

〈コッペリア〉


コッペリア、あぁ、コッペリア・・・

哀れな翁に作られし人形コッペリア・・・


貴女は何故コッペリア?翁に作られし彷徨うばかりのコッペリア

光を見つけてもコッペリア、仲間が出来てもコッペリア・・・


されどもコッペリア?

コッペリアがコッペリアを否定したらコッペリアではないもの変われるわ


あぁ、哀れなコッペリア・・・

貴女の未来に祝福を・・・



「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」著作者:くずのは

より抜粋……



「……ぬしは半端もんでありんす、染まり掛けているのに気付かない半端もん。変わる事を恐れないで欲しいでありんすな~?しかし…」


朧けにコッペリアに向けていた視線を春翠に向けた。彼女は目を大きく見開きながら「ぜん・・めつ?」と呟き、仲間からの念話に頷いている


「……どうもキナ臭くなってきんしたねぇ~」


日が沈み辺りがオレンジ色に染まる中、彼女は不敵に笑いをこぼすのであった







ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~


落ち着け?…あぁ、餅つけでありんすな!





「全滅ッ!?」


村を出てから二日後の夕暮れ、春翠が所属する〈楽浪狼騎兵〉の仲間から念話が届き〈列柱遺跡トーンズグレイブ〉での〈灰斑犬鬼〉討伐レイドの結果が春翠の口から伝えられた


結果は、レオナルドが口に出した意味通り、後方支援要員として残していた予備兵力を除き前線部隊は全滅、事実上の敗戦を意味していた。だが、カナミ達に事の詳細を伝える春翠の声は暗かったが、絶望的ではなかった。


もとより〈冒険者〉に死がないことは確認されている。 春翠の話によれば、〈楽浪狼騎兵〉も、神殿が存在する所を根拠に現在の本拠地を定めたほどだ。全滅はしたものの、倒れて現地での蘇生が出来なかったメンバーは神殿に戻り蘇生していたとのこと。事が生死に関わる様な戦闘なら危機感を覚えるが、不死の〈冒険者〉にとって全滅とは言え、致命的な事態とは云えない。


それに、もともとゲームである〈エルダー・テイル〉では戦闘行為にも様々な規模があり今回の〈灰斑犬鬼〉討伐レイドは十分にやり遂げたプレイヤーがPTを組み挑む大規模戦闘。すなわち二十四人のメンバーを集めて遊ぶフルレイド用コンテンツや、九十六人のメンバーを集めて遊ぶレギオンレイド用のコンテンツに入る

こういった大人数用のコンテンツは、〈エルダー・テイル〉においてはハイエンドな遊び方だと認識され当然のように難易度は高く、たった一つのダンジョンを攻略するだけで、半年近く時間が掛かる場合も珍しくはない。


今回は、相手が〈灰斑犬鬼〉だったので、彼我のレベル差から、誰しもが早期の攻略を予想していた。しかし、大規模戦闘であると言うことを考えれば、全滅というのは消して珍しいことではない。精鋭で構成された一流ギルドでも、高難易度の大規模戦闘を初見で突破することは難しいのだ。

春翠の表情に、驚きや落胆があっても絶望している気配はないのは、そのせいだろう。


カナミ達もそれを十分に理解しているが為、深くは考えず冷静に春翠の話を聞く事ができた

しかし、気になるのは――。


「やはり、ステータスの二重表記現象が確認されたそうです」

「そうか」


誰が答えた訳ではないが、春翠の一言が重くパーティーに圧し掛かった


「やっぱりねぇ……」

「あの現象は、広がっているんだな」


肩をすくめるカナミや表情を変えないコッペリア、林檎と戯れる彼女、難しい顔のエリアスも含めて、レオナルド達一行は、〈楽浪狼騎兵〉本部に知り合いは居ない。

そう言ったでは現地の戦闘光景は春翠からの報告から想像するしかなかった


そんな中、まだ顔を伏せ落胆していた春翠の目の前に赤い球体が差し出された

驚き、差し出された先を見てみると、この二日間では見たことのない真剣な面持ちをした狐が目の前にいた


「……二重表示はどのくらいの規模でいんしたか?」

「え、えっと…数も多くて、後半戦ではほとんど全ての敵に確認されたそうです」


昨晩の事もあり、彼女に苦手意識が生まれつつある春翠は彼女の質問に淀みながら答えつつ伏せていた顔を上げジリジリと後ろへと下っていった。そんな春翠の行動など気にも止めず彼女は手を顎に当て、少し考える仕草をした後ニンマリと春翠に笑みを浮かべた


彼女の笑みに対し「ひぃ!?」と声を上げた春翠は昨晩の事を考えると悪くないと思う


「感謝しんす!これはお礼、これ食べて元気になりんしゃい?」


すっと差し出された手の上にあるのは先程、視線を埋めた赤い球体『林檎』

春翠は訳も分からないが、とりあえず林檎を受け取った。 

この地域では珍しい果物であり、荒野が広がるアオルソイにおいて瑞々しくテカリ、光を反射する林檎は一種の宝の様に見えた


林檎から視線を外し宝をくれた彼女にお礼を言おうとしたが、彼女の姿は既になく驚きのあまり大きく口を開けるレオナルドとニコニコと笑みを浮かべるカナミが視線に入った


「ふふふ、それはね?くーちゃんなりの心遣りだよ?」

「……え?」

「大規模レイドでは全滅ってよくあるけど、やっぱショックだもんね!」

「っ……」


春翠も気持ちの整理は出来ていたつもりであったが、心のどこかでは自分の所属するギルドが全滅したと言う結果に動揺していたのであろう

手に持った林檎から微かに香る甘い臭いが春翠の胸に広がりーーー


「ふふ、甘いですね?」


不器用な彼女なりの心遣りも胸いっぱいに広がったのであった。








彼女が報告の場からいなくなった後、春翠の話を聞く限りレオナルド達に出来ることは、何もなく、ここはひとまず東を目指して、可能であるならば〈楽浪狼騎兵〉の本拠地で更なる情報収集をするのが無難と言う結論に至った



そんなカナミやエリアスにとって釈然としない結論に至った夜―――レオナルドは時間となったので目を覚まし寝袋を抜け出した。

レオナルド達は、この旅の間、不寝番、見張り番を立てている。〈冒険者〉だけの一行ではない。〈大地人〉商人ジュウハも同行する旅だ。それなりの警戒はしながら進むべきだという判断があったからだ。


不寝番は交代制なのだが、その交代制にひそかなサボタージュを続ける仲間と顕なサボタージュをする仲間がいた。それはコッペリアと駄狐だ


レオナルドはあくびをしながら、その隣に座る。

乾ききって脆くなった砂岩質の岩の上に、コッペリアは、あの村で買ったクッションをおいて座っている。紺色のメイド服の裾下から、きらびやかな刺繍をした刺し子が覗いているのだ。


「おはようございまス。治癒をご所望ですか?」

「まだ夜中だけどな。……くーはどうした?」

「クーはコッペリアとの不寝番が始まる2時間45分前からいません。クーはこの後、1時間15分、不寝番の予定ですがコッペリアがこのまま警戒続行の予定です」

「ほぼ最初からじゃないか」


旅の初めに決めた不寝番をサボタージュする彼女に仲間同士の公平と言う問題が最初あがっていたが、毎度の様に逃げ続ける彼女に仲間達は諦めの心持に至っていた


………働けよ駄狐


とはいえ、本来2人で不寝番をする予定なのだがクーが来るだろうと儚い希望を持って一人待っているのはなんだか悲しくなり、レオナルドはむっつりと押し黙ったまま、「すまないが一緒に頼む」とだけ呟いた。




周囲は闇に沈んでいる。今夜はたき火もしていないためだ。

たき火は動物を避けるのには役立つが、知性のあるモンスターを引き寄せてしまう可能性も低くはない。また、明かりが突然消えた場合の視力低下などを考えると、メリットばかりとも云えないのだ。


しかし、明かりがない訳ではない。澄み切ったアオルソイの空に浮かぶ月は、そのほの白い輝きを大地に投げかけていた。隣に座るコッペリアの横顔を窺うのには、十分すぎるほどの。そんなコッペリアの横顔はとても―――


「きれ「レオにゃるどは、ペロペロを所望しんす!」 黙れ!駄狐!」


みんなが寝ているとかモンスターが寄って来るとか関係無しにレオナルドは声が聞こえた背後に向かって叫んだ

案の定、レオナルドの台詞に被せてきた相手は腹が立つほど優雅に9本の尻尾を揺らしながらピンクのパジャマに林檎のクッションを抱いてニヤニヤと笑っていた


「恐いでありんすね~?折角わっちが来んしたと言うのに」

「来るのが遅い!あと何時そんな服用意した!そのクッションもだ!それと僕はそんな事思っていない!」


怒涛の勢いで彼女を罵声し続けたせいで、息は荒くなり肩で呼吸するほどレオナルドは言い聞かせた。だが、悲しい事に彼女はレオナルドの事など最初からいなかったかの様に岩の上に腰を起こしたのであった


崩れ落ちそうになる精神を気合で奮い立たせて更に罵声を浴びせようとしたが、優しく肩を叩かれた事に気付き、肩を叩いた相手・・・コッペリアに振り返った


いつのも表情と変わりないが、彼女の雰囲気がレオナルドに何故?と語り掛けているように感じた。そして普段と変わりない口調で舌を出しながら―――


「ペロペロをご所望デスか?」


レオナルドは膝から崩れ落ちたのであった……






彼女達(一人は悪意一人は純粋)に質問されてから短くはない時間が過ぎた。


レオナルドの視線の先で、月影が、黒々と、地を這うようにわずかに動いてゆく。

それは不思議な気分だった。影が動く。それだけのことに、不思議な感動を覚えている自分にレオナルドは気が付いた。


現実世界風に考えれば、それは月が動く――つまりは地球の自転のせいである。ゲーム世界的に考えれば、天空のテクスチャにおかれた光源が移動している、と言うことになるだろうか。


いずれにせよ、荒れた大地に落ちる月影が移動する現象は、可視化された『時の流れ』だ。


レオナルドは時間が経つという当たり前に不思議さを感じた。

時間の流れの中で、自分という個人が存在する事への、言葉にはならない静かな好奇心。 すぐにそれは、傍らのコッペリアへとうつり、このアオルソイの夜空の下で、自分がその少女と一緒に居ることの不思議を思った。

〈大災害〉がなければ、可愛らしい少女と月の光を浴びるなんてことは起こらなかっただろう。だがしかし、大災害が起こったからだとしても、影が移ろうのを見つめるような、穏やかな時間を、なんの会話もなく過ごせる自分を、レオナルドはやはり不思議に思うのだった。


「クー、このケープを貸与します」


気が付くと、コッペリアが、キルトのような布地を僕に渡し、もう一つのケープを隣で不寝番なのに寝ている駄狐に掛けてあげていた。林檎と朝顔、名も知らぬ花の刺繍で埋められたマントのような布地は、温かそうだった。


「そいつも動物型だろ?KRみたいに必要はないと思うけど……これはセケックの村で?」

「はい。頂きました」


コッペリアも似たような布を〈マジック・バッグ〉からとりだして、自分の小さい肩に巻き付ける。


「あの人たち、こんなのくれたんだ」


レオナルドは座ったままで、手近な小石を掴んで、投げ飛ばした。まぁ、コッペリアは村で病人やけが人の治癒もしていたし、感謝されるのは当たり前だろう。それは問題無い。問題はないが、ちょっと腹立たしくもある。


(僕はあのうざったらしい子供達の相手をしていたというのに……、まぁ、何ももらえなかった訳でもないけどなぁ)


レオナルドは抱えた膝にがっくりと額を落とす。

丸くて綺麗な石、変な布の切れっ端、木刀風に削った木の枝、食べかけのパン。ひからびた虫の死骸。馬の尻尾の毛で作ったおまじない。レオナルドがもらったものは、どれもろくでもないものばかりだ。


「コッペリアは良いよな」

「?」

「いや、このケープ、温かいなという話だよ」

「はい。保温性能に優れた民芸品でス」

 

調子の外れた返答を聞き流しながら、レオナルドはため息をつく。

しかし、それは、実際、悪い気分ではなかった。


「あの村で……」

「ん?」



 珍しく自分から話し始めたコッペリアを、だからこそ、レオナルドは急かさずに待つことが出来た。


コッペリアの口から出てきた言葉はレオナルドにとって衝撃を受けるものだった

コッペリアには目が見えないと言う事、そしてコッペリアは〈エルダー・テイル〉に存在する人・物をタグとデータストリームそして魂の色合いで、周囲を認識しているという事、

その認識から〈冒険者〉を青、〈大地人〉をオレンジ、〈モンスター〉を緑と見分ける事が出来ると……


そしてコッペリアが言うにはセケックの村の少年はコッペリアが近づいた事により『疫鬼』を抑える事が出来、治療する事が出来たと言うモノであった


コッペリアが唱える説明を理解する暇もなく通説は進んでいき―――


「コッペリアには色がありません。それはコッペリアが透明であるという意味ではなく『色』を発する振動体、すなわち魂が欠如していることを示します。――二重なるパラレル・ワンがあの時消えたのは、おそらく不安定な構造、もしくは状態に、構造的に虚であるわたし……もしくはクーが接近したことにより、より不安定な魂の片方が誘引されて―「デートしているところに無粋で済まないがね」

「KRッ!?」



二人の間に鼻面を突き出した白馬。幻獣〈白澤〉《はくたく》に憑依した召喚術師の声で、レオナルドとコッペリアの会話は打ち切られ自体も加速するのであった





NEXT 少年よ!りんごを抱け!


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