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侍女と勧誘



 あたしは医務室でぐっすり眠っていたようだ。久々に夢も見ずにすみ、短時間とはいえかなり質の良い睡眠だった。


(よく寝たーっ!)


 くーっと腕を伸ばし肩を回して寝台のはたにある窓を見やれば、窓の向こうは夕焼けの色。


(ん?)


 そして、あたしはお師匠とは違う気配を感じた。


「……………」


 横を見れば、木の椅子にはお師匠はいなかった。

 代わりに、金髪な小柄な侍女がいた。ちゃんと正しい使用方法で椅子に座っていた。


「………こんにちは?」


 えっと。あたしは状況が飲み込めず、とりあえず挨拶(疑問系)をしてみた。

「どーもー」


 すると、手を振りながら相手も挨拶してきた……間なりか軽い口調で。


「えっと、キーア・ターナーさん?」


 確か、人質役の一人だったよねこの人。奥宮でよくお料理のカートを押すのを見たことがある。あたしより一年後に入った、同年代の子だと侍女長に聞いた覚えがあるし。


「へーい」


 と、またかなり軽い調子で返答があった。……なんか、本人にはそのつもりがなくてもさ、人をバカにしているの? と勘違いされそうな感じ。


「確かにわたしはー、表向きは陛下と殿下の居住区の奥宮内で配膳担当をしてるキーア・ターナーさんですよー」


 キーアは侍女長あたりならイライラする感じのだらり感で自己紹介をした。特に、表向きはってとこを強調して。


「侍女言葉は?」

「あんなかったるいのはいーでしょーよ。同僚同士だしさー。ね?」


 と、にかりと裏表のなさげな笑みで返された。なんか掴み所無いなこの人。


「んでさー、わたしがなぜここにいるか〜的なとこを知りたいんじゃないの?」


(確かに……。ん?なんかこの人のペースに流されてた?!)


 受けた印象より、すごい得たいが知れない人みたいだなこの人。いつのまにか気づかないうちにペースに巻き込まれてたよ!


「わたしね、あなたに説明と勧誘をだね〜、陛下から託されてたりすんのさー」


 そして、さらりと重要事項を告げたキーアは、言葉を失っているあたしを放置してすいすいすいと次の説明へ移っていった。


(てか理解できた? とかの確認求むー!!)


 もちろん、あたしの心の叫びは無視して話は進められていったのだった。



◇◇◇◇◇



「ってわけよー」


 と、やはり軽い口調で締め括られた。

 語られた内容は茶番劇(※詳細は前話参照。長いのではしょりました)の詳細だった。


「へー軍事訓練?へー私を守るため?に兵に顔を覚えさせることも兼ねてた?へー」


 あたしは、このことを当人(もちろん陛下!)から告げられないことがすっっごく、腹立たしかった。


「陛下なりに…あなたのことを思って、なんだけどなー……」


 この際、怒れるあたしを見てキーアが少し引いちゃってるのはどうでもいい。


「陛下って、言葉足りないんだ」


 陛下にたいして丁寧語とか尊敬語とか使うのがなんだか馬鹿馬鹿しくなってきてた。


「あー…あちゃー、イーラん中で陛下の評価下がってる?」

「聞こえてるんだけど、そこ」


 さっきから、キーアがぶつぶついってることとか、能力者恐るべしーとかいってることとか、どうでもよかった。


「で、話はそれだけ?」


 とにかく、あたしははやくリュクレース様のところへ戻りたいの。邪魔しないでねー。


「えっと!」


 キーアは慌てたようにこういった。


「えっとさー、能力使用禁止ってのはわかってんだけど」


 いいにくそうに、キーアは問題発言を投下した。


「護身術とかー……護身魔法とかー……教えるからさ〜、隠密、入らない?」

「はぁっ?! ……何が目的? あたしを勧誘して、何があるの? あなたにとって、何が有益なの」


 勧誘されて、あたしの機嫌度はおもいっきり下がった。氷点下だ。


「それは」


 ここでようやく真剣な表情を浮かべたキーアは、一拍おいてこう告げた。


「あなたが狙われる確率はすんごい高いの。リュクレース様のお側は離れたく、ないんでしょ?」


 キーアはあたしの反応を窺ってる。だからうなずいた。離れたくない。だって、あたしが忠誠心を捧げたのは陛下じゃなくて、リュクレース様だから。


「なら、リュクレース様の御身と我が身を自分で守らないと、だよね?」


 リュクレース様のお側にいる…ということは、あたしへの火種がリュクレース様にもいってしまうかもしれないということ。護衛がいるから大丈夫だけど、万が一ってものがある。

 それに、……制約を破って力を使ってでも、あたしはリュクレース様をお守りする。


「わたしたち隠密は、その手段をあなたに提供できるわけ。でも、隠密の技とか術は門外不出。だから、知りたいのなら隠密に入ってもらいたい」


 キーアの真剣な眼差しはあたしを捉えて離さない。


「これは、あなたの独断?」


(陛下の判断?それとも)


 たしは陛下自らの判断を期待した。


「勧誘は、陛下自ら許可が出た。お勧めしたのはわたし。陛下はあなたがすぐ近くにいるのに何もできないのが心苦しいの」


(勧めたのあんたかい!)


 あたしの中で陛下はへたれ決定になった。なにそれ陛下。こないだのあっつい持論は?あたし守りたいとか、少し期待したのに!

 あたしのこと、どう思ってんのよ。


「なぜ、陛下はそこまであたしに肩入れするの。能力者だから?」


 だったら、あたしをなんでこんなに守りたいの。あの情熱はいずこからなわけ? 心配してくれてるって、あたし期待していいの、だめなの?


「それはわたしの口から言えない。あなたが陛下から受けた説明以外は、陛下から聞いて」


 キーアは正論で返してきたし!まあ、確かにそうだけど!


「陛下は、あたしを守りたいのよね。あたしを軍事利用させたくないのよね」


 そこは、まあ、わかる。能力を軍事利用させたくないのは。それの動機は、何? 能力者だからって、だけ?


「うん」

「なら…あたしは、あたしは参加するわ」


 それであたしがリュクレース様のお側にいられるなら、隠密なり何なりになってやる。


「なんか、あっさりだねー……もっといやがると思ってたもん〜ほんとに能力使わないんでしょーね?! とか駄々こねたりするかなってー」


 ありゃま拍子抜けだー、とキーアは続けた。机が前にあったら突っ伏してる感じ。


(…………)


 あたしは少しムッとした。


「あなただって、陛下に忠誠を誓ってるんじゃないの? なら、わかるでしょ」

 あたしは言葉の先を濁した。いわなくてもわかるよね?


「…………」


 一瞬だけ目を泳がせたキーアは、激しくうなずいた。


(何?何、その間?!)


 ……陛下を信頼しようと考えたのは、早すぎた……ってことないよね……。

 あたしはすぐにその考えを振り払った……後から、あたしはこの事を死ぬほど後悔することになる。

 ちゃんと聞き出せていたら、話していたらと。けれど、あたしの中でグッとさがっていた陛下の評価(言葉足らずのへたれ)から、陛下がそんなに忠誠を誓われてないのまさかとか思ってたから。……なにより、この時のあたしの頭ん中は別の事で一杯だったし。


『力が軍事に悪用されないよう、集めている。優秀な分、危険性が高まる。前陛下も、平和だという理由で、次代の王たる俺に任せなかった。しかし、今のこの情勢なら、王妹であるお前でも危ない』


(陛下は、確かそう“いった”わよね)

 あたしの“一度聞いたら忘れない記憶力”はいつも、常に発動している。息をするのと同じことみたいで、こればかりは何ともできなーいとお師匠に匙を投げられたし。


「ね、隠密になったら、陛下にいつでも会えるの?」


 あたしは、陛下と話したいことがあった。あの言葉に疑問点がひとつあったし、なによりも例えば陛下直属でも専任侍女の任はとかれなくなかったから。


「会えるよ」

「なら」


 この時のあたしは、すごい顔をしていたようで、キーアから後で怖い笑みだといわれたのよ。腹黒って、ね。失礼だっての。


「連れてって」


 会えるなら、あって……問いただす!

 覚悟してね、陛下。


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