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侍女と暗殺事件―3


 いつのまにか、手が汗ばんでいた。いつのまにか、震えていた。

 あたしは、汗ばむ手を握りしめた。震えてくる手ををごまかして、わき上がってくる感情にどうにかふたをして、無理やり自分を鼓舞してみた。

 でも無駄だと思う。

 今にもわけがわからないままに、おもいっきり叫びだしてしまいそうだし。あーとかぎゃーとかおうち帰るーとか泣き喚く自信がある。

 だって、だって。人質って、人質って! やばいよ、無事ですまないじゃんか、絶対にぃ!? 其の三が特にやばいよ!

 ――目の前には、立ち止まってにたりと笑う近衛兵其の三。やめて、そのにたり笑いやめて、夢(悪夢)に見るっての!

 まだその手の中には剣があって、その剣先は相変わらずゆらゆら揺れてて。

 一応、私の歩幅五歩分くらいは離れてるけどさぁ。でもさぁ。五歩分て、目と鼻の先の距離だよ。

 そして――ナイスミドル! そこ、ニコニコ笑いやめて、助けてよ! ヘルプアス!

 ――周囲の近衛兵達も反応無しは変わらないし。後方からはすすり泣く声が聞こえるし、なんだかすごく背中に視線を感じる。


(てか、さ)


 改めて、思えば。

 ぶっちゃけ、人質兼あぶり出し人員として、あたしどうしたらいいのよ。

 何も知らされていないし……当たり前だ。なら、何もしなくていい?

 騙すなら味方からの作戦で、作戦の詳細は知らされていないし、本人の意思関係なく勝手に作戦人員に組み込まれてたんだから!


(これが何かの間違いだといいのにぃぃ……)


 あたしたちが、人質って。

 ――……って、おい。


(ナイスミドルらが仕組んだのよね?)


 今さらだけど、別の役が割り振られてるとかないよね?


(なんか嫌な汗出てきた)


 ――ないない。ないよね?だって、気づくことが前提だもんね、これ?

 うん、ないない、ないったらない! ナイスミドルこっち見つめてくるけどないない、ないったらない!


(あたしの力のことは、内緒だし)


 知らないはずだ、うん、……考えだしてもキリがないから、それについて考えてるのはやめよう、うん。

 ――とにかく、考えを戻して。


(あたしが人質役だとして)


 ――いや、まじでどうしたらいいの。人質にされるまで、待てと?

 ちらりと、あたしは近衛兵其の三を見た。

 近衛兵其の三のにたり具合いがマックスになり、あたしをロックオン。

 ………やめて、寝れないからそのにたり笑い。変な笑みであたしをロックオンするなぁああ!!


(あんたら、あたしに何をさせたいのよ!)


 あたしはただの“お付き合いをしてくれる殿方募集中”な侍女なのに! いや、変な力はあるけどね?


(あんたらが人質役したらいいじゃないのさー!)


 そうだ、あんたらが人質役したら………なんであたしが、人質役なの?

 一度小さな疑問が浮かんだら、次から次へと湧いてきた。……色々と、おかしい。


(おかしい……?)


 ――陛下を暗殺した実行犯の共犯者(表向き。本当は何の共犯者か知らないけど)の捕獲作戦に、なぜいっかいの侍女が、何も知らされずに作戦に組み込まれているのか。


(普通なら、説明しない?)


 ――こんなに行き当たりばったりでいいわけ、近衛兵が捕まえたい相手を捕まえるための作戦って。

 近衛兵たちが捕獲するって、よほどの相手だろうに。誰が何したか知りたくないけど。


(それに、なんで“あたし”なの。“あたし”を使って何をする気なわけ)


 ――あたしは共犯者に対するエスケープゴート? それならば、尚更この役の当人に知らさないと作戦は立ち行かない。それこそ、あたしじゃなくても成り立つわけだし。


(なんで?“あたし”を使う理由は、何なわけよ)


 ――あたしを使う理由がいまいち不明だし。近衛兵が動かずあたしが動くなんて、まるで、茶番ではないか。


(あ…茶番…?そっか。これは……)


 こんな考えに行き着いたあたしは、期待したのだろうか、自分の出した考えに。だから、半ば投げ槍に振り返った。(倒れたのは、栗毛巻き髪の侍女…確か彼女がシーリー)


 シーリー(推測)を介抱しているのは鳶色の髪のスレンダーな侍女。はっきり覚えていないから、誰かわからない。多分……フェンナ? フェンナ(推測)の横にたって青ざめている金髪の小柄な子はキーア? だ。残りのマール? は、いつのまにか泣き止んでいて――


(っ!)


 あたしは無意識にマール? を突き飛ばした。体当たりしたから、あたしも一緒に転がる。あー、あちこち痛い!痣になったらどうしてくれんのよー。

 とにかく、体当たりした拍子にマール? の左手首を強く掴んで抑えつけるのは忘れなかった。マール? の左手には、小さな小さな――それこそ握り混んでしまったら見えないくらいの小型ナイフが握られていたから。それがきらって手の隙間から光るのが、さっき見えたのよ。

 あんたが共犯者かああ!!

 ――こうなっても、近衛達は動かなかった。いや、動こうよ? とくににたり顔の変態其の三!

 だがやつら(もうやつらでいいよね?)は、何の反応も見せず、変わらない態度をとり続けるだけ。つまり、変態はにたり続けてるだけ。あんた本当に近衛兵なの……?

 だから、あたしの疑問はますます強くなった。


(それに)


 あたしに押し倒されたような体勢になった共犯者であろうマール? はいっこうに抵抗しない。それどころか、嬉々とした色が徐々に顔に広がっていく。


「合格だ」


 ――あれ。

 なんか、声が低すぎやしませんか、マールとやら。

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