第二話
腕時計を見ると、もうすぐ十時になろうとしていた。
私は今までずっと会社や家庭での不満を店長に聞いてもらっていた。
店長はすごく聞き方が上手で話していて気持ちが良く、少しではあるがつい同僚に対する不満まで、漏らしてしまった。
「あの、ここは何時まで開いてるんですか?」
すると店長は背後の時計を見て
「貴女がいる限り、いつまでも」
と言ってくれた。
「でも、迷惑ですよね?」
すると店長はたいして間を開けずにニッコリと
「いいえ、全然ですよ」
「従業員の方も早く帰りたいでしょうし」
店長は少し笑って
「大丈夫です。皆ここに住んでますから。」
私が驚いて何か言おうと思ったとき、奥から背の高い金髪だけど清楚な感じで私と同じくらいの歳の、いわゆる「イケメン」がでてきた。
「おや、初めてのご来店ですね?」
とこちらもまた清々しいニッコリ顔だった。
「え、ええ。」
「ストレスがなかなか溜まっておられるようで」
愚痴話聞かれてた!?
おお・・・一生の不覚なり。
「またご来店いただければ、マッサージして差し上げましょうか?」
「そんなサービスあるんですか!?」
するとわざと少しもったいぶったように金髪イケメンは
「常連様への特別サービスとなっております。」
そしてニコリ。
まぶしすぎて眺めていられなかったから腕の上に顔を伏せて
「あー、眠いなあ」
とほぼ棒読みのようにして言った。
しかし、事実眠いのであった。
すると金髪イケメンの声が聞こえる。
「おやおや、そのままではおかえりの際に居眠り運転しかねませんね」
と少し楽しそうに言って
「今夜は帰せません」
伏せた私の顔が一瞬固まる。
「とは言いませんが・・・あ、そうだ」
何か思いついたらしく私に少し寄った気配がしたかと思うと
「起こして差し上げましょう。」
そう言うなり
────抱きついてきた。
結局最後まで「どあぼーい」の青年はうつむいたままだった。
それから、確かにあの時眠気は飛んだけれど、帰路の記憶も、後になって飛んでいたことに気がついたので、決して帰り道は安全とは言い難いものだったに違いない。