第一話
「はぁ・・・。」
自分でも意識せずしてため息が出る。
帰路の途中の車の中、直帰しようと思うが家にはだらしないフリーターの弟が待っていると思うと自然と車のスピードは落ちていた。最近、息抜きができていない、と自分でも思った。
会社と家庭での日常に疲れ果てた自分を癒してくれる場所が欲しい。
そう思いながら何気なく、すっかり暗くなった郊外の風景を
「ファミレスならまだ開いてるかしら」
と深淵にて希望を探すような目で眺める。
だがファミレスは見つからないどころか、どうやら道を間違えたらしい。道路沿いの店も少なくなっている。
「はぁ・・・」
会社でもこんな下らないミスばかり。
怒られる為に出勤してるんじゃないだろうかとすら感じる事がある。
そして再び視線を前に戻すと、そこは道路が突然途切れていて正面には小屋がたっている。
「えっ!?」
急ブレーキをかける。
もともと人気のあまりない道をのろのろと走っていたから止まるまでに時間はかからなかった。
車から降りる。
「なんでこんなところに小屋が・・・?」
木でできた小屋で、ドアの上に小さく掲げられているものを見ると、小さく「喫茶店、ソクラテス」と書いてあった。喫茶店。お目当てのファミレスではなかったけれど、コーヒーが飲めるならそれでいいと思った。
それに、窓からは暖そうな光が漏れていた。
カランカランとドアの上の装置で音がなる。
「てめえは何回教えればコーヒーの煎れ方覚えるんじゃー!」
突然の怒声に思わず体をビクつかせてしまった。
「あ」
見たところ三十代後半くらいだろうか。いかにも店長らしい風貌のちょっと偉そうな男がこちらに気づき声を張り上げる。
「へい、ラッシャイ!」
半歩下がりながら仰け反ってドアの上の看板を確認する。うん。確かに喫茶店であって寿司屋ではない。
「あ、すいませんお客様。いつもは居るんですがね。」
「・・・何が・・・?」
「どあぼーい」
不思議なことに、発音がひらがなだと思った。根拠はない。
「今日は機嫌が悪いみたいで」
そう言って店長は部屋の隅を指す。
そこには確かに店長とお揃いのエプロンをつけて、しかし何故か膝を抱えこちらに背中を向けて座り込む青年(?)が居た。
「あの」
なんだかいじけている少年のような印象を受けたから、声をかけてみる。
「・・・」
返事はなく、沈黙だけが部屋を支配しかけた時
「こら!お客様にお声をかけていただいてその態度はなんだ!」
店長の怒鳴り声は二回目でもやはり迫力がある。
「お客様、あんな小僧は無視していただいて結構です。ささ、こちらのお席へどうぞ。」
そう言ってカウンター席を進められ、私も従って腰掛けた。部屋を見回す。外観と変わらず内装もやはり木そのものだった。ほんのりとオレンジ色の光が部屋の中を照らしている。
なかなか良い場所を見つけたのかもしれないな、と思った。