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水のゆりかご

作者: ゆい
掲載日:2026/04/13

睡眠導入用の短編です。

ゆっくりお読みください。


最後まで辿り着きませんように。



※ カクヨムにも同時公開中



 あなたの体は ゆっくりと ゆれている


 水の満たされた やわらかな 空間の中で


 あなたの体は ゆっくりと ゆれている


 ゆらあり ゆらあり


 まるで ゆりかごの中に いるように


 水の動きにあわせて ちいさなあなたの体は


 ただ 心地よく ゆれる


 心地よく ゆれる


 ふと、やさしく 名前を呼ばれた


 その声は 水の満たされた 空間の中で


 ぼんやりとしか 聞こえない


 こたえなくても 大丈夫


 あなたはただ ねがえりを打てばいい


 ゆらあり ゆらあり


 あたたかな水温 気泡が あなたの頬をなでる


 暗く しずかで あなたは ひとり


 瞼を上げても 下げても 瞳に何も映らない


 ただ暗く しずかで ぼんやりとしか 聞こえない


 それでも 不思議と 守られている予感はする


 あたたかで おだやかで やさしい存在に


 あくびをすると 口の中から気泡が生まれ


 もう一度 あなたの頬を ゆっくりなでる


 体は 水の中 ゆらりと浮いて


 ゆっくり ゆっくりと 


 重い頭が 下に沈む


 意識が とけていく


 足の先は なにも触れない


 ただ あたたかく とけて 水が 包む


 膝から 力が抜けて


 ただ あたたかく とけて 包まれる


 ゆらあり ゆらあり おだやかに


 ゆりかごの ように


 ゆらあり ゆらあり ゆれている


 遠くから呼ばれる あなたの名前


 ちいさく ちいさく あなたの耳に響いていた


 ここだよ 


 ここにいるよ


 あなたは こたえるように あくびをすると


 口の中から 気泡が生まれた


 あなたの頬を ゆっくり ゆっくりとなで


 上へ しずかに のぼっていく


 歌が 聞こえた


 水の中で ぼんやりと ふるえる


 泡が あなたに 音を届ける


 静かで おだやかで あたたかな 子守唄


 どこかで聞いたことが あるような


 ゆりかごの歌を 小さな鳥がうたう


 ねんねこ ねんねこ

 やさしく 眠れ


 眠気をさそう唄が ゆっくり ゆっくり


 水の中へ とけていく


 目を覚ますのは まだ 


 ずっと ずっと 先の話


 今は 目を閉じて 眠ってもいい


 ここは やさしいもの ばかり


 あなたを 守り あなたを つつむ


 ねんねこ ねんねこ

 ねんねこよ

 



 水が ゆれた




 動いている


 あなたは 目をこすりながら 少しだけ 起きた


 かすかな揺れ あなたは小さく 揺れている


 重い頭を 下にして


 あなたは ふあ、と あくびをした


 口から漏れた 細かな泡が


 こそこそと あなたの頬をくすぐり なでながら


 上へゆっくり のぼっていく


 いつも 起きると あなたのそばには 誰もいない


 やわらかな水 おだやかな気泡だけが


 あなたの やさしい お友達


 決して傷をつけず 体をつつみ


 ゆっくりと なでるだけ


 少しだけ さびしかった


 壁の向こうから見守る やさしい存在に


 あなたは はやく 会いたくなった


 さびしい とても さびしい


 でも 涙は 出ない


 あたたかな水が あなたの涙を 拭うから


 あなたは まだ 涙を流さなくて 良い


 あなたは たまたまそこにあった指を


 口の中へ そっと含む


 不思議と少し 安心した


 ひとりじゃないと 言われた気がした


 水も 気泡も 小さな指も


 ここは あなたを 守るものばかり


 ここは ゆっくり おだやかに 時間が流れ


 誰も 何も あなたを傷付けるものはない


 あなたは ただ 身を預けさえ すれば良い


 そこへ、ふと 誰にも 触れられていないのに


 優しく背を さすられる感覚だけが


 あなたの心に そっと残る


「今、起きたみたい」


 誰の声かも わからない


 あたたかく やさしい声が 水の中で


 ぼんやりと 震えて あなたの小さな 耳に届く


 声はやさしく 背を さすり続ける


 何度も 何度も 包み込むように


 ゆっくり ゆっくりと 手のひらが さすり続ける


 やがて その手は とん、とん、と 背を叩いた


 とん……とん……とん……


 あなたの胸の音に 似ているかもしれない


 どく……どく……どく……


 やがて胸の音も 背を叩く感覚も 混ざり合い


 どちらが どちらか わからなくなっていく


 あなたの力は おだやかに 抜けていった


 なにも触れない 足の先


 力が抜けて 沈む膝


 胸の音は どく……どく……ゆっくりと鳴り


 背にある手は とん……とん……おだやかに叩く


 体が優しく 解けていく


 瞼がゆっくり 落ちていった


 口に含んだ指は ゆっくり ゆっくり 唇から離れ


 ぽこ、と 気泡が生まれる


 口から漏れた泡は 静かに 静かに 揺蕩い


 ぱちんと やわらかな壁に はじけて 消えた


 力は抜けて あなたの頬は 丸みを帯びる


「……寝ちゃったみたい」


 やさしい声が 小さく 小さく 笑いながら


 あなたを守るように 包んでいた




 水が ゆれた




 あなたは 重い瞼を 持ち上げる


 つん、と 頬をつつかれた気がした


 触れられていないのに あなたはわかった


 あなたの丸い やわらかな頬を


 指先で やさしく かわいがるように


 つん、と また つつかれる


 あの やさしい声の人が 


 あなたの頬を つついている


 あなたは 少し 楽しくなった


 あなたも 触れようと 手を伸ばす


 やわらかな壁を ぽこんと たたいた


 すると 頬を やさしく なでられる


 あたたかな手のひらが 丸いあなたの頬を


 ゆっくり ゆっくりと 大切に 包み込むよう


 そろりと いとしく くすぐるように なでた


 あなたは 歩み寄ろうと 足を動かした


 やわらかな壁を ぽこんと 蹴る


 やさしい声は 何も言わない 


 力が弱くて 届いていなかった


 この壁さえなければ すぐに会いに行けるのに


 あの人は笑って 迎えてくれるはずなのに


 どうして まだ 会いに行けないのだろう


 あなたは もう一度 分厚い水の中で


 力を込めて 壁を蹴った


 水をかき分け 泡を立てながら


 ぽこん


「蹴ったわ」


 うれしそうな 笑い声


 あなたは それを聞き 安心する


 もう一度 今度はさらに 大きな力で


 分厚い水の中 力を込めて


 水をかき分け 泡を立てながら


 あなたは壁を 蹴った


 ぽこん


「元気ね」


 また 壁の外で 笑い声が ゆれていた


 あなたは その声を聞き 安心する


 いつかその声に 直接触れることを 考えて


 あなたは期待に 心をゆらす


 安心すると あなたは少し 疲れてしまった


 力いっぱい 体をたくさん動かして


 心地よい気だるさに 身を預ける


 水の中 ゆりかごのように ゆらされながら


 あなたは まず つかれた足の 力を抜いた


 つま先…… 膝…… だらんと 水の中で浮く


 体は自然と丸まって 瞼はゆっくりと落ちていく


 まだ あなたは 会いに行けない


 あなたは まだ 眠っていい


 歌が 聞こえた


 水の中で ぼんやりと ふるえる


 泡が あなたに 音を届ける


 静かで おだやかで あたたかな 子守唄


 どこかで聞いたことが あるような


 ゆりかごの歌を 小さな鳥がうたう


 ねんねこ ねんねこ

 やさしく 眠れ


 眠気をさそう唄が ゆっくり ゆっくり


 水の中へ とけていく




 水が ゆれた




 あなたは ふと瞼を持ち上げる


 誰かが 覗き込んでいることに 気付いた


 真っ暗で 気泡がたゆたう 静かな空間で


 視線を あなたは感じる


 いつもの やさしい声の人ではなく


 低い声で おだやかで 怖くはないが


 すこしだけ 緊張する


「静かだなぁ……」


 壁の外で 声が響いた


 あなたは 身をひそめている


 口の中へ そっと指を差し入れた


 もぐもぐ唇を動かして 指をなめ


 さわがしい心を 落ち着かせる


「怖くないよ」


 低く おだやかな声がする


 しかし水の中では うまく聞きとれない


 ただ気泡が 震えだけを あなたに伝える


 低く くぐもった おだやかで やさしい


 少しだけ 聞こえにくい 誰かの声


 もぐもぐ唇を動かして 指をなめ


 さわがしい心を 落ち着かせる


 よく聞けば その低い声は 大きな海の


 さざなみの音に なんだか似ている


 砂浜を踏む気配 打ち寄せる波 あたたかな太陽


 やさしく 歩み寄ってくる


「はやくおいで」


 あなたは何も 聞こえない


 ただ低く くぐもった おだやかで やさしい


 少しだけ 聞こえにくい 誰かの声を


 あなたは 海の音に当てはめて


 静かに ゆっくり 受け止める


 まだ あなたは 会いに行けない


 あなたは まだ 眠っていい


 深く 深く 海の底に沈むように


 あなたは まだ 眠っていい


 歌が 聞こえた


 水の中で ぼんやりと ふるえる


 泡が あなたに 音を届ける


 静かで おだやかで あたたかな 子守唄 


 どこかで聞いたことが あるような


 ゆりかごの歌を 小さな鳥がうたう


 ねんねこ ねんねこ

 やさしく 眠れ


 眠気をさそう唄が ゆっくり ゆっくり


 水の中へ とけていく


 口に含んだ指は ゆっくり ゆっくり 唇から離れ


 ぽこ、と 気泡が生まれる


 気泡は あなたの背をなぞり


 ゆら ゆら ゆらりと 


 上へ 上へ のぼっていく


 あなたの意識も 気泡にのせる


 上へ 上へ のぼっていく


 あなたの瞼は 重く下がり ゆっくり下がり


 やがて 閉じた


 泡をこぼす唇からは 小さな寝息が 聞こえてくる



 

 水が ゆれた




 あなたは 起きない


 重たい頭を下に ただ寝返りをうつだけだった


 力のない足は 水の中で浮かび上がり


 唇は 指をくわえる力も失い


 半開きの口から 寝息がこぼれる


 気泡が あなたの背をなぞり


 ゆら ゆら ゆらりと 


 上へ 上へ のぼっていく


 誰の声かも わからない


 あたたかく やさしい声が 水の中で


 ぼんやりと 震えて あなたの小さな 耳に届く


 声はやさしく 背を さすり続ける


 何度も 何度も 包み込むように


 ゆっくり ゆっくりと 手のひらが さすり続ける


 やがて その手は とん、とん、と 背を叩いた


 とん……とん……とん……


 あなたの胸の音に 似ているかもしれない


 どく……どく……どく……


 やがて胸の音も 背を叩く感覚も 混ざり合い


 どちらが どちらか わからなくなっていく


 ゆりかごの歌を 小さな鳥がうたう


 ねんねこ ねんねこ

 やさしく 眠れ


 眠気をさそう唄が ゆっくり ゆっくり


 水の中へ とけていく


 ふと、やさしく 名前を呼ばれた


 その声は 水の満たされた 空間の中で


 ぼんやりとしか 聞こえない


 こたえなくても 大丈夫


 あなたはただ 伸びをするだけで良い


 ゆらあり ゆらあり


 あたたかな水温 気泡が あなたの頬をなでる


 暗く しずかで あなたは ひとり


 瞼を上げても 下げても 瞳に何も映らない


 ただ暗く しずかで ぼんやりとしか 聞こえない


 あなたは何も 聞こえない


 ただ低く くぐもった おだやかで やさしい


 少しだけ 聞こえにくい 誰かの声を


 あなたは 海の音に当てはめて


 静かに ゆっくり 受け止める


 まだ あなたは 会いに行けない


 あなたは まだ 眠っていい


 深く 深く 海の底に沈むように


 あなたは まだ 眠っていい


 あなたの体は ゆっくりと ゆれている


 水の満たされた やわらかな 空間の中で


 あなたの体は ゆっくりと ゆれている


 ゆらあり ゆらあり


 まるで ゆりかごの中に いるように


 水の動きにあわせて ちいさなあなたの体は


 ただ 心地よく ゆれる


 心地よく ゆれる



 心地よく ゆれている



眠れない夜の手助けになれたら、と思います。

できればここまで辿り着けないことを、祈っております。

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