6 御者
「12才で守護…..それもよりによってロックハード...」
(いや、時間がない!落ち込んでるより、状況を把握しないと!)
持っていく物を冒険者活動で使っている袋に詰め込んでいく。
予想通りユニークスキルはもらえなかった。転生者でも1人1つの原則は乗り越えられなかった。
(例外もいるらしいんだけどな…)
《詰め込み》と《並列思考》で荷造りをしながら、得たスキル《魔法制御》の確認をしていく。
既に《魔法制御》を持っているにも関わらず、同じスキルを重ねて貰った。
この日のために知識を詰め込んできたおれも初めて聞く例だ。
(《ステータス部分表示改》!)
ーーーーー
【スキル】
《詰め込み》《速読》《並列思考》《高速思考》
《魔力超制御》
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(超がついてるな。2つが合わさったのか?)
試しに火の短剣を発動させる。
「おー!」
軽い制御でビュンビュンと飛び回る。
制御がしやすくなり、魔力消費も減った。
ヴィル兄…いや、ヴィルの《精密》の魔力限定verって感じだ。上昇幅的にランクは星4ぐらいか?
これなら今まで出来なかった危険な魔法の練習が出来そうだ。
もし暴発しそうになったら隣の部屋に放り込めば一石二鳥。
これでロックハードに行く前の戦力強化になったな。
(あとは御者だ。)
おれには手勢がいない。
雇うには、ヴィルの取り巻き達に見つからずに家を出たい。
(瞬間移動か消音。現実的なのは消音魔法の方だけど、消音魔法は風魔法…おれには厳しい…)
おれは土と風の才能が乏しい。
魔法は、魔力で事象に干渉する事。
才能は、その事象を起こすのに必要な魔力の効率の良し悪しだ。
完全に才能が無ければいくら魔力を使っても干渉できず、才能が豊かなら、少しの魔力で大きな干渉が出来る。
今の最大出力で魔力を込めて初級風魔法の風の刃を発動してみる。
ピ〜〜
(口笛!以前のそよ風よりは強くなったけど…何かをしながら本をめくれるかもな〜。)
消音魔法には程遠い。
(いや、全ての音を消さなくてもいい?)
普通の消音魔法は、使用者の周りの空間を丸ごと指定して音を消す。
使用者の動きによって出る音は、振動が遮断され外に伝達しなくなる。
(相手が凄腕の諜報員とかならともかく、貴族学校の学生ならそこまでしなくても大丈夫じゃないか?)
例えば、足首より下だけ消音魔法をかけて足音だけでも消せば、某暗殺一家みたいな事が出来る。
〜〜〜〜〜
その日の夜
屋敷の正面の明かりが全て消えた。
(よし。行くぞ)
おれは両手、両足の先にだけ消音魔法をかける。
これで手や足元からの音は消せる。
明るいうちに、ジャンプしたり、壁を殴ったりしてみたが、体の服が擦れる音しか出なかった。
窓を開け、魔力循環で体を強化して外壁を伝って降りていく。
(こんな事ならレオ兄のように魔力循環を鍛えればよかった…)
あの兄は、授業から抜け出す時に窓から飛び降りても傷一つついてなかった。
扉からこっそり出る案は、何故か部屋の蝶番が一部欠けて音が出る上に、体から離れた場所にまでは消音をかけられなかったので却下された。
「ふっ!」
《詰め込み》で多めに魔力を込めて、うちの塀を飛び越える。
(初めての夜間無断外出!)
今日1日ですごい悪に染まった気がする…
さすがに領主館の周辺の治安は良いので、浮浪者とかはいないが、代わりにおれの顔を知ってる商人や、メイドの家族が住んでる。
(さっさと離れよう。どうせ奴隷商はこんな所には無い。)
うちには奴隷がいないので場所を聞く事ができなかったが、奴隷を買う人はそれなりに金がある連中で、治安の悪い地区には行きたがらないはず。
でもおれがこれまで歩いた範囲の貴族街や平民街では奴隷商を見かけなかった。
つまり、おれが近づかなかった貧民街辺りだろう。
30分後。
(やっぱり平民街と貧民街の境界だったか。夜でもやっていた良かった。)
「ごめんくださーい。」
店に入ると、カウンターの前に屈強な男が1人、向こう側に胡散臭い男が1人座っていた。
屈強な男はいざという時のガードマンかな?
胡散臭い男はチグハグだ。
着ている服はひと昔前に貴族で流行った古臭い服。うちにも伯爵家に取り入ろうとして、こんな服装の連中が時々来る。
なのに、そんな奴らと違って立ち振る舞いは洗練されている。
(わざと古臭いカッコしてるのか?変な奴。)
「ん?こんな夜更けに…ここは子供が遊びに来るような場所ではありませんよ。早く帰りなさい。」
「遊びじゃありません。ここが奴隷商だと分かって来てます。身分を証明する物も持っています。」
そう言って冒険者証を渡す。カウンターには鑑定水晶が置かれているが、おれには問題ない。
「ふーむ。...」
冒険者証を一瞥した男は、今度はまじまじと見つめてくる。
(ん? あっ!こいつ鑑定持ちだな!)
「ふふふ、よく気づきましたね?まぁそう身構えないでください。店前にも書いてあったでしょう?初めてのお客様には鑑定を行う場合があるとね。E級冒険者のエルロンドさん。」
確かに書いてあった。
カウンターに置いてある水晶は、鑑定偽装魔法などの使い手を油断させるためのダミーか!
(待てよ?今おれをエルロンドと呼んだか?)
今見せた冒険者証も、ステータスも、今は“エル”になってるはずだ。
(おれのステータス偽装が貫通されてる!!)
「それで、僕は客として合格ですか?」
「えぇもちろんですとも。オーウェン家の方には昔からよくして頂いておりますから。」
うちが?我が家に奴隷がいるなんて聞いた事がないぞ...いったい誰だ?
「おや?お知りにならない?」
こいつ、おれのポーカーフェイスも貫通して来るな…
「えぇ、心当たりがありません。」
「正式な取引を行っておりますし、別に隠すような事ではないのですがねえ。あなた様のご実家は少々外聞に囚われすぎでは?」
「...同意見ですね。」
「ふふふ、苦労なされているようですねぇ。それで、今日はどのようなご用件で?」
「御者ができる奴隷が欲しい。条件はそれだけだ。」
「ふむ、何人かおりますよ。奥へどうぞ。」
奥の部屋に通される。前にはステージがある。
「準備いたしました。男と、女、どちらを先にみますか?」
「男からで。」
「わかりました。おい、男から入れなさい。」
屈強な男が、八人のみすぼらしい男たちをステージに上げた。
(うーん。8番以外は目つきがキツいなあ。おれの見た目は子供。舐められて襲われでもしたら困る
ぞ。)
「奴隷紋を刻みますから、反抗などはしませんよ。」
(この人、読心系の魔法使いか??)
そうじゃなかったら、それはそれで怖い。
「わ、わかりました。女性も見せてください」
次ステージにあげられたのは6名。
1~4番は見た目が綺麗。5、6番は痣などが目立つ。5番は唯一女の奴隷の中で目つきが鋭い。
(待てよ...女性で大丈夫なのか?)
ヴィルの子分や魔物に襲われるかもしれないし、ロックハードに着いた後のことも考えないといけない。
見殺しするつもりはないが、足手まといも困る。
「もう一つ条件を付けられますか?できれば荒事に慣れている人がいいんですが。」
「ほー。エルロンド様は荒事に巻き込まれる可能性があると?」
「あ、いえ...その」
「まあ、伯爵家の方ですから狙われることもありましょう。ただ戦闘能力があるのは、先ほど見せた男奴隷の1番と3番だけですね。どちらも元傭兵です。」
どっちも目つきが鋭いやつだ。
おれが御せる気がしない。
これから行くのは味方のいない未知の場所。
信頼できない戦闘力は怖い。
「なら重労働の経験がある人はいますか?」
「男の奴隷は全員あります。女の方は5番以降は全員ありますね。」
「では男の8番と、女の5番の詳しい情報が知りたいです」
男の8番は、名前はウィンター。年は19才。農奴の両親のもとに生まれた六男で、生まれてすぐ、こことは別の奴隷商に売られ、農奴として貸し出された先で盗賊に襲われ、逃げ出してここにたどり着いた。
《脱出》のスキル持ち。
貸出料金は金貨5枚/1月。買うなら金貨100枚
女の5番は、名前はシーナ。年は17才。行商人の次女。破産して夜逃げしたが借金取りに捕まりここに至る。まだ奴隷の経験は荷物運びが一回。
《算術》《健脚》のスキル持ち。
貸出は金貨2枚/1月。買うなら金貨40枚。
どっちも走力はありそう。
荒れ地に行く事を考えると、できれば農業ができるウィンターが欲しい。
ただ、おれは簡単に返しに来ることができない場所へ行く。
予算は金貨50枚なので買えるのはシーナだけ。
本当は奴隷とも話したい所だが、事情を話すと長い。
目付きが鋭く、根性はありそうだったし…
「シーナでお願いします。」
おれはシーナを買った。
明日のお昼頃ここに迎えに来る事を奴隷商に告げて、その場を後にしたのだった。
「またのご来店をお待ちしております。」
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鉄貨1枚=10円
銅貨1枚=鉄貨10枚=100円
銀貨1枚=銅貨10枚=1000円
金貨1枚=銀貨10枚=10000円
反応などいただけたら幸いです。
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