4 冒険者エル
~ 10才 ~
街の中の貴族地区と平民地区に限って、メロー付きで出歩くことが許された。
なので今日から金策を始める。
目的は魔法書の購入。
ダリアのせいで今の家庭教師は使えない。
レオ兄は3年前、洗礼で《剣鬼》のスキルを得た。星5のユニークスキルだ。
抜き身の剣を持つと身体能力が上昇し、剣技も覚えやすくなる。
文官系じゃないのは、家庭教師から出された我が家のノウハウが詰まった宿題をサボり、授業もろくに聞かずにいたのが原因だろう。
今レオ兄は念願の王都の騎士学校へ通っている。
そして先日15才となり、見習い騎士になることが決定した。
完全にレオ兄は次期当主の候補から外れたのだ。
レオ兄の洗礼の日に父は激怒した。
高い金を出して雇い、オーウェン家秘蔵の教育方法を伝えた教師達はなんの効果も上げられず、レオ兄は騎士系のスキルを得たからだ。
家庭教師たちは当然クビ。
魔法国エメリコから呼んだ高名な火と雷の魔術師も、オーウェン家から追い出された。
そのせいで、おれは今までずっとそのあとに雇われた水と土の微妙な魔法使いから魔法を教わっている。
火じゃなくて土なのは、おれが火魔法の使用が今も制限されているからだ。
また、ちょっとオリジナル魔法の製作で無茶をして家の美術品を焦がして制限が厳しくなった。
それはさておき、土属性の才能が無いおれは半分の教えが無駄になってる。
ダリアはこの家庭教師に、おれには最低限の知識しか教えるなと命令しているようだ。
最近は、彼は復習と称しておれに何度も同じ本を読ませてくる。ずっと《速読》していたら、新しいスキル《高速思考》を身に付けた。
15分で授業が終わる。
ダリアのせいで、教えられる事を教えられない教師側もちょっと可哀想だ。
家の魔法書を読み込むのはそろそろ限界に来てる。
おれはただでさえ《詰め込み》で暗記が得意だし。
優秀な教師か、新しい魔法書が欲しい。
だけど魔法書は高く、おれの小遣いは少ない。
教師はダリアに妨害される。
自力で買おう!
という事で、今やってるのは、《詰め込み》で水に魔力を込める、詰め込み作業。
魔力不足を補う方法は、魔力水を飲むor他人からの注入が知られている。
注入は気を使う作業で、失敗すると相手の魔力が乱れて、むしろ魔法が使えなくなるリスクがあるため、基本は魔力水で行われる。
普通は天然で湧いてる物を買うか、錬金術師に依頼して作ってもらう。
残念ながら、オーウェン領には天然で魔力水が採れる場所が見つかっていないため、同じヴァージル侯爵家の寄り子で、うちの北に接しているアーガソン伯爵家から購入しているので、ちょっと高め。
そこに商機があると判断したおれは、スキルの練習もかねて魔力水の製作を始めた。
あとはこれを売り込む。
(さて、どこに売り込もう?)
来たのは母さん御用達の服屋。
「こんにちは!」
「こんにちエルロンド様!?...今日はお一人で??」
変な挨拶になってるぞ。
「ええ、10才になりまして、一人で出かけることが許されました。」
「それはおめでとうございます!月日が経つのは早いですねえ〜。今日はどんなお召し物をご要望ですかな?」
「冒険者に憧れていまして、冒険者みたいな服が欲しいのです。」
「かしこまりました。」
一時間後、おれは立派なちびっこ冒険者になっていた。
「おー。これぞ冒険者!異世界!」
初めてのお買い物ということで、プレゼントしてくれた。
普段の母さんの羽ぶりの良さに感謝!
「さっそく冒険者ギルドへ出発!」
冒険者ギルドの敷地は平民地区のど真ん中にある。
(おーここが冒険者ギルド!)
正面のギルド本館はオーウェン家の館と同じぐらい。
ただ、魔物の解体場や、魔法を使える訓練施設、食堂など、全体の敷地は館より広い。
前世の小学校ぐらいあるかな?
「お邪魔しまーす」
ドキドキしながら冒険者ギルドに入る。
(うわっ、めっちゃ見られる…)
どうみても15才以下の子供が入って来たから困惑してるな。
スタスタ受付まで行って、受付嬢に話しかける。
「冒険者登録がしたいんですけど。」
「え?」
「冒険者登録です。」
「あの、登録は15才からなのよ?」
もちろん知ってる。
おれは10才。年上に見られたことも無いし、そう言われるのも想定のうち。
「分かってます。この水晶に手をかざすんですよね?」
「え、えぇ、そうよ。でも君じゃあ…」
背伸びして、ほいっと手をつける。
水晶は青く光った。
15才以上で、犯罪歴が登録されてない証拠だ。
「えっ!嘘ぉ!」
「じゃ、冒険者登録お願いします。」
「えー!...わ、分かったわよ…」
おれはステータスを偽造してる。
ステータス表示は、一番最初に覚えた魔法でもある。
小さい頃からずっとステータスを見やすくするためにイジって来た。
並び順を変え、項目を書き加えた。
さらに、デコレーションしてたりしてたら覚えたのがステータス偽造である。
あまり公にするとマズそうな魔法なので、シルヴィやメローにも内緒にしてる。
冒険者ギルドの鑑定水晶は、プロテクトが施されているため、水晶の方にかける鑑定偽造魔法は効かない。
しかし鑑定水晶は、ステータスを読み込むものなので、ステータス偽造の魔法なら騙せる。
弱点は、ステータス表示魔法の延長なので、自分のステータスしかいじれない事。
あとは、相手が鑑定水晶以上の精度の鑑定魔法をもっていると、見破られるかもしれない。
それに鑑定偽造魔法なら、他人が鑑定を受ける時にも使える。しかも高位の使い手だと、鑑定水晶のプロテクトを突破することもができるらしい。
ともかく、
「えーっと、これが冒険者証です…」
「ありがとうございます!」
これでおれは、Gランク冒険者 エル だ。
まずは薬草の納品依頼を受ける。
おれは初めて街の外に出た。
「異世界だーー!」
おっと、周りから変な目でみられた。
空気をいっぱいに吸い込み、
「ぷはあ~」
なんとなく気持がいい。
街の周りは草原が広がっている。
四方に伸びている街道のうち、行くのは東の街道。
先は森の中へと伸びていて、その先には村がいくつかあるだけ。
そして、さらにその先には荒地ロックハードがある。
用があるのは森の中だ。
さっそく出発した。
草原を進むこと30分ほどで森に到達した。
「魔力循環って《詰め込み》と相性がいいんだな。」
《詰め込み》で普通より多く体に魔力を流し、身体能力をかなり上げて走ってきた。
《魔力制御》のおかげで負荷にも耐えられる。
街道から逸れて薬草を探す前に、石を拾う。
石に魔力を詰めて、落として道しるべにしていくためだ。
ちなみに詰め込みすぎると爆発する。
館でやった事があるから確実だ。
「あ!、図鑑で見たやつだ!」
本を読んで覚えた知識が、ちゃんと役に立つのはなかなか嬉しい。
学んだ通り、丁寧に丁寧に薬草を摘んでいく。
依頼分を集めておれはギルドへ戻った。
「確認しました。初依頼お疲れ様です。これが報酬です。それにしてもずいぶん早かったですね?」
「僕、足には自信があるんですよ。あの、それでこの薬草なんですけど、依頼主のウッドさんってポーション屋ですよね?」
「そうですよ?」
薬草の依頼を出すのは平時ならポーション屋がほとんどだ。
「僕が直接届けに行きたいんですけどダメですか?足が速いのは見ての通りです。」
回復ポーションは薬草の鮮度が大事だ。早く持って行きたいはず。
「うーん。足は関係ないというか...まだエルさんは信頼が足りないですね。」
「わかりました。じゃあ、届ける職員さんについ行くのはどうです?」
「…ちょっと聞いてきますね?」
「ふーん。お前がおれについて来たいって子供か。」
「はじめまして。G級冒険者のエルです。」
「なんでついて来たい?ウッドの店の場所なら銅貨5枚で教えてやるぞ?」
「払ってもいいですけど…僕はウッドさんと商売の話がしたいんです。ただのG級冒険者の子供じゃ、相手にしてもらえないと思いました。」
「ほー。子供のくせにそんな事考えてんのか。冒険者になったのはそのためか?」
なんでバレた?
「そうです。よく分かりましたね?」
「まあな。見た目は冒険者に憧れてるガキって感じだが、ウッドの店を知らないんじゃこの街の冒険者を何も知らないって事だ。」
「そんなに有名な方でしたか…」
「有名というよりな、ウッドの店はギルドの目の前なんだよ。通りを挟んで向かい側だ。この辺の人間だったら誰だって知ってる。」
「なるほど…」
あー。
そういう事か。
鮮度が大事なんだもんな。
って、それなのに銅貨5枚取ろうとしたのかい!
「すぐに持って行くことになってるし、勝手について来るのはいいが、ギルドから紹介するつもりは無いぞ。あと邪魔はするなよ。」
「ありがとうございます!」
「おーいウッドー!薬草届けに来たぞー」
「今行く!カウンターに置いてくれ!」
「分かった!あと、お前さんにお客さんが来てるぞ」
「客ぅ?」
「新人冒険者だ。お前さんと商売の話がしたいとよ。」
「面倒くせーなー…」
奥から40代ぐらいの、草臭いおっさんが出て来た。
「こんにちは。冒険者のエルです。」
「…エルくんよぉ、ふざけてんのか?」
「いえ、ふざけてません。本気で商売の話がしたいんです。まずは僕が採った薬草を見てくれませんか?」
「あ?……ほー。これをお前が採って来たのか?」
「そうです。どうですか?」
どうだ?行けるか?
「…いいだろう。何が欲しい?指名依頼か?」
「はぁっ!?おいウッド!本気か!こんなガキを指名!?」
「あぁ。そうだ。この薬草はそれぐらい品質が良い。普通の冒険者は薬草採取を他の依頼のついで程度に考えてやがる。目についた薬草を採るだけだ。だが、こいつらは違う成長しきる少し前の若葉で、葉に虫食いが少なく、傷をつかないように根本から切られてる。薬草採取の基本が完璧に出来てる。」
「それは、そんなに大事な事なのか?」
「元冒険者のお前さんでもその程度の認識だ。ポーションはいざと言う時の冒険者の命綱なのに、冒険者はポーション職人の腕しか考えていやがらない。自分らが採ってくる薬草の質も同じぐらい大事なのにな。この品質の薬草を定期的に納品してくれるなら、指名依頼する価値はある。」
上手く行った!
冒険者が薬草の品質に無頓着だというのは、錬金術師の本にかなりしつこく書かれていたからな。
「ありがとうございます。ぜひお願いします。それともう一つ、ポーション作りに欠かせない、魔力水を売りたいのです。」
「魔力水か?あれはアーガソン領から天然の奴を仕入れているが、それより高品質な物があると?」
「はい。あれの1.5倍の魔力を込められます。」
「なるほど、お前錬金術師か!通りで薬草の知識がある訳だ。その魔力水は今持ってるか?」
錬金術師では無いけど、まあいいか。
「はい。1瓶持って来てます。どうぞ」
「……ふむ。確かに高い魔力を含んでる。週に何瓶用意できる?」
お?この人見るだけで魔力含量が分かったのか?
鑑定スキル持ちかもな。
これからはステータス偽装は常にやってた方がいいかもな。
「この魔力量でしたら、週に30瓶ほど用意出来ます。」
「分かった。買おう。魔力含量が1.5倍だからな…アーガソン産の1.7倍の値段でいいか?」
「はい。これからよろしくお願いします!」
「……」
ギルドの職員さんがあんぐり口を開けていた。
「安心してください。魔力水の納品も冒険者ギルドを通しますよ。」
「お、おう。ありがとうよ...」
反応などいただけたら幸いです。
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