4 新戦力
魔力水の大瓶から出て来たスライムは、一直線にエルに向かって来た。
「おっと!」
かわすエル。
ササッ
追うスライム。
エルがかわし、スライムが追うを何回か繰り返して、エルは思った。
(攻撃して来ない?)
通常、スライムが敵を襲う時は、体から触手を出すか、大きく広がって獲物を飲み込もうとしてくる。
しかし、目の前のスライムは丸い形のまま向かって来る。
いつまでたっても飲み込みをして来ないのだ。
あっけに取られていた仲間の中で、真っ先に正気に戻ったのはアストンだ。
「エル様お下がりを!私の火魔法で焼きます!」
「ちょ、ちょっと待った!様子を見たい!」
エルはアストンを下がらせ、スライムをじっくり観察する。
動きはそれほど早くなく、直線的だ。
ただし、諦める事なくひたすらエルを狙い続ける。
エルも考え続ける。
(なんで敵意がないんだ?それにずっとおれを狙う理由も分からない。魔力量で言ったらアストンと違い無いはず…そもそもどうやって生まれた?水に魔力を大量に込めるとスライムになるのか?)
「水と魔力か…」
パリン!
「「エル様!」」「ご主人様!」
エルが振り返ると、無数のスライムが一斉に瓶を割り、飛びかってくる所だった。
(ちょっと!さすがに避けられない!)
「アクアボール!」
慌てて20発ほど発射したが、全ては迎撃できない。
特に樽から出てきた大型スライムは魔法が当たってもびくともしない。
(魔法耐性が高い!?)
「んぐぐぐぐ」
エルはスライムの波に呑み込まれた。
ーーーーー
エルがスライムの波に呑み込まれて行く中、アストンは見ている事しか出来なかった。
(どうすればいい!魔法攻撃はどれもエル様まで巻き込んでしまう!)
スライム達は元から1つの個であったかのように合体していき、もはや直径3mを超える水玉になっていた。
(間に合わなかった…完全に呑まれた…一瞬で骨まで溶かされるだろう…)
アストンはこれまで、何度か大型化したスライムに呑まれた人を見たことがった。
と、アストンを押し退け、2つの影がスライムに向かって行った。
「エル様ああああ!」「ご主人様っ!」
ズボッ
走り寄ったメローとシーナは、そのまま特大のスライムボールに頭から突っ込む。
「よせ!全身が溶かされてしまうぞ!」
アストンの制止も聞かず、2人はスライムの中を掻き分け掻き分けなんとかエルに到達して引っ張る。
アストンの予想は裏切られ、2人はあっさりとエルを引っ張り出す事に成功したのだった。
「何がどうなってる…」
ーーーーー
大量のスライムに襲われたエルは思わず目をつぶった。
しかし、ドロドロの粘体に囲まれた感覚はあるが、予想していた痛みが来ない。
むしろ、ヒンヤリしていて気持ちがいい。
(なんだ、なんだ??)
恐る恐る目を開けると、メローとシーナがこっちに突っ込むのが見えた。
「(バカ!こっちに来るな!!)」
声をあげるがスライムの中では声が出ない。
エルが叫んでいるの様子を見たせいか、二人の走る速度がむしろ増してしまった。
(あ、しまった!)
慌てて口を閉じたが、スライムは口に入って来なかった。
(意味が分からん…)
メローとシーナはどこも溶かされる気配もなく、エルに到達し、見事ひっぱり出してくれる。
「あ、ありがとう2人とも…」
「はー、はー、はー、焦りました…」
「エル様!お怪我はっ!」
「いや、どこも問題ない。お前達も大丈夫か?」
「はい。そういえばどこも溶かされてないですね??」
「わたしもです…」
「そうか、それは良かったが、もう危険な真似は...(いや、この二人はもう一緒に戦う覚悟をしているんだ)...助かったよ。これからも頼む。」
(危険な状態にならないよう、気を付けるべきはおれだった。)
アストンが近寄って来た。
「このスライムはどうやら敵対していないようですな。エル様以外には微塵も興味がないようです。」
エルも後ろを見てみるが、巨大になったスライムは風に揺られてフルフル震えているが、もうエルを襲う気配もない。
ジッとスライムを見つめていたシーナが、息を落ち着かせて話し始めた。
「なんだか…ご主人様と似た感じがします。」
「おれと似た?」
「はい…さっき突っ込んだ時、まるでご主人様に包み込まれているような感じでした!」
(おれはそんな感じしなかったけどなあ。不快でもなかったけど...)
「ふむ。たしかにエル様と同じ魔力を感じますな。もしや、このスライムはエル様の従魔になっているのでは?」
「従魔?」
「はい。普通は従魔契約には互いの意思と魔力による繋がりの構築が必要ですが、このスライムはエル様の魔力から誕生したようですし、産まれつきの従魔なのでは?」
(従魔か..たしか.確認する方法は、離れていても魔力を譲渡できるかどうかだったな)
「確認してみるよ。」
エルは巨大スライムに触れずに手をかざす。
瞬間、エルの魔力は一気に巨大スライムに吸われた。
「おぉっと!」
「エル様、大丈夫ですか?」
魔力切れでふらついたエルをメローが支えてくれた。
「ふむ。どうやら従魔みたいですな。今ので完全に契約が結ばれたようですぞ。」
「み、みたいだな...」
(スライムが満足したのがなんとなく分かるぞ。)
スライムはぷるぷると身じろぎした後、元の小さなスライム達に分裂し、エルの足元に集まってきた。
(命令を待ってるのかな?)
「どうしますか?焼きますか?」
「え!いや、何かの役にたつかもしれない!ロックハードに連れて行くよ。」
(せっかくの初めての従魔だし焼くのは可哀想だぞ!)
「そうですよ!こんなに可愛いのに焼くなんて!」
「そうですそうです!この子達がいればいつでもエル様に包まれる感覚が味わえるんですよ!」
(シーナ、それはどうでもいいんだ...)
エルがちょっと呆れるれていると、アストンがまともな意見を出してくれた。
「まあ、込められた魔力が勿体ないですし、このスライムが魔力水代わりにはなるかもしれない事を考慮すれば、確かに生かしておいても良いかもしれませんな。」
「だ、だろ?従魔としてロックハードの開拓に協力してもらおう。」
「しかし、餌はどうにかしないといけませんね」
「餌か...」
スライムの餌といえば魔力である。普通の従魔と違い、草や肉ではない。
主人の魔力か魔力水を供給し続けなくてはならないのだ。
意志が薄弱で、従魔契約が簡単なスライムは契約の練習台としてよく使われるが、この餌問題のためすぐに手放されることが多い。
餌のコストと、スライムの能力ではつり合いが取れないのだ。
(まずい、このままではアストンに焼かれてしまう!)
「え、餌はなんとかする。今は満足しているみたいだし、とりあえずスライム達が飢えるまでは連れて行こう。」
「そうですよ!いざとなったら私達がスライムちゃんに魔力を供給しますから!」
「そうですね!その時はまた特大スライムちゃんになっていただいて、包み込んでもらえれば...ふふふ」
(シーナ、目的が透けてるぞ...まあ、ここは乗っておこう)
「とりあえずはそうしようか。貴重な戦力だしな。」
一行にスライムの従魔が加わった。
反応などいただけたら幸いです。
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